エリスの告白

俺たちは聖地ユグドラシルに転移した


 俺たちはエリスに詰め寄った。エリスはいったい何故魔族を友としているのか?


☆☆☆


「私達アリシア教徒にとって、魔族を受け入れるという考えは、


 全くありえない話しです」


エリスは真剣な面立ちで話を続ける


「私は父から聞きました。父は若い頃従軍し、


 負傷した兵士たちの治療に当たっていました


 その時、魔族と遭遇しました


 魔族は多くの兵士たちの命を奪いました


 父は街の子供を助けようと、


 大勢の子供達を集めて匿っていました


 しかし、その場所を魔族に見つかってしまったのです


 父は死を覚悟したそうです


 でも、魔族は子供はおろか父も殺しませんでした


 父は魔族に問いました。何故殺さないのか?」


俺には答えがわかった。兵士は兵士しか殺さない


「魔族の答えは


『我らは人間とは違う


 兵士以外の人間を殺したりしない


 ましてや、子供を殺す様な外道はせねと、お前達とは違うのだ』


とそう言われたそうです」


「人間どうしなら当然ですよね」


俺は言った


「確かにそうですね」


「確かに魔族も人間を同胞と考えているのなら......」


エリスはこちらを見渡すと再び話を続けた


「父はその魔族と話し、彼ら側の意見を聞きました


 かつてユグドラシルが魔族のものだった事、


 ユグドラシルで人間が行った蛮行


 魔族はユグドラシルを返しくれれば、それ以上の事はしない


 魔族は兵士は殺しても、女、子供、非戦闘員を決して殺さない」


「人間は魔族にどうしていたんですか?」


南が聞く


「人は、魔族は悪鬼であり、女であろうと子供であろうと殺します」


「そ、そんな」


「子供がユグドラシルの街に迷い込んだ時、


 盛大に祭りを行い、大勢の前で魔族の子を殺した


 という聖地守護騎士団の武勇伝があります」


「それって武勇伝なの?」


南がほとんど叫び声になって問いかける


「人間にとっては、魔族は悪鬼であるから


 どの様な事をしても罪は無い


 神がそう命じていると考えています


 私もつい最近までそうでした」


エリスは更に父親の事を綴った


「父は10年後、ユグドラシルで再開する約束をし、


 その魔族と別れました


 その後、父はアリシア教の古い記録を調べました


 そして、父は一つの仮説をたてました


 アリシア教は神徒アリシアによってもたらされました


 しかし、アリシアは魔族だったのでは無いか?」


「俺たちもかつての勇者から聴いた?」


「それじゃ、この国の神様って......」


「事実上魔族という事です」


「そんな......」


「アリシアはたくさんの奇跡をおこしました


 しかし、その奇跡が魔族の高位魔法だったら?


 アリシア教の聖地ユグドラシル


 皆さんはご存知ですか?


 ユグドラシルはアリシアが産まれた地


 そして、この世界にアリシアが現れた頃はまだ魔族の住む地だったのです


 『私達は自身が崇める神を害しているのではないか?』


 それが父の結論です」


「そんな、じゃ、なんのために人間は魔族と戦っているの?」


「この国にアリシア教が広まったのは約2000年前です


 そして魔族が悪鬼とされる様になったのは1000年前からです


「それ以前はどうだったんですか?」


「わかりません」


「何処にも記録が残っていないのです」


「じゃ、2000年前にアリシア教が普及したけど1000年前より以前


 の事は全くわからない。という事ですね?」


「そうです。1000年前より以前の記録が無いのです」


「俺の国にもそういうケースがあったよ」


「「どんなケース?」」」


俺は島村と南に突っ込まれた


「えっ?


 だって日本史思い出してよ。日本の歴史は西暦600年頃


 より前の事はよくわからない


 古事記や日本書記ではほとんど神話になっている」


「そういえばそうだけど、単に文字が無かったんじゃ」


「漢字はなかったけど、文字はあったよ


 それに公式に歴史書が無くなった理由も歴史書に記載がある」


「どうして歴史書が無くなったの?」


「大化の改心の時の蘇我入鹿氏の暗殺


 その際、蘇我蝦夷が自決し、家に火を放った


 そして何故か蘇我蝦夷の家に日本中の歴史書があった」


「どういう事?」


「推測でしか無いけど、歴史書が邪魔だった......」


「なんの邪魔だったの?」


「天皇家は神であることになったのは大化改新からだよ」


「お前まさか、天皇家が......」


「おかしいか?


 普通に考えるとそうじゃ無いかと邪推したくなる」


「確かに......」


「高野君、あなた......」


どうも俺の常識とみんなの常識にはずれがある様だ


「あなた達の世界でもあったのですね


 歴史の隠蔽が」


「いや、証拠はありません。偶然なのかもしれません


 しかし、結果的に俺のいた国の王様はいまだに神の子孫


 という事になってるんです」


「高野君、時代が違ってたら」


「ああ、死罪だな......」


俺はスルーした


「でもこの国の過去はだいたいわかりました


 エリスさんのお父さんの話の続きをお願いします」


「父はあなた達救世主を召喚する魔法を魔族から習いました


 今の魔王は苛烈です


 父の友人の魔族は人間に味方し、父に魔法を教えたのです


 この事は1年前に父から聞きました


 父は人間を救う為だけに命をかけてあなた方を


 召喚しただけではありません


 試練の塔には真実が隠されていると異端の伝承が


 この国には古くから残されていました


 父は真実を解き明かしたい。そう考えました


 その為、私に異端の考えを話し、


 自らの命と引き替えに私に真相の究明を私にたくしたのです」


「お父さんの考えはおそらく正しかった」


「ありがとうございます」


エリスは涙を浮かべて更に気持ちが昂っている


 これ以上一体何があるのか?


「もうひとつ告白があります。


 シュミットは私の恋人です。彼は魔族ですが......


 父の友人の魔族は私の恋人となりました


 父を信じられなかった私に、父は魔族を会わせました。


 最初は私は父が異端であり、


 ましてや魔族を友とする人間の裏切り者である事に悲しみを覚えました


 しかし、彼は、人間と何も変わら無いんです


 ただ、肌の色が違い。人間より魔力が強く、


 長寿である。それ以外何もかわりません


 今は私は魔族と分かり合えると信じています」


「「「エ、エリスさん」」」


エリスさんの最後の告白は皆驚いた


この国の主教の司祭が魔族と通じ、その娘は魔族を恋人としている

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