第48話 クラトス=ドラレウスの船出


クラトスが退院の日、ゲライトの言っていた使いはこなかった。

クラトス達はその日の夜、パーティを行う、パーティと言っても大きなものではなく、庭で料理を食べるだけの単純なもの、それでも試験の終わりを皆で喜び合う。


「クラトス、おめでとう」


第1次試験より出会った仲間も集まる。


「クアトスや、今回退院祝いのつもりだったんだけど、せっかくだから、みんなの魔導協会の魔導士記念のパーティにさせてもらったよ、悪いね」


エイバフは笑いながら話をかける、クラトスも自分だけの為なのは悪いと思っていたので、別に何とも思っていなかった。


「俺もその方が気軽だ、ただ俺はまだ魔導協会の魔導士になったわけじゃ」

「ふ、あんたが失敗するなんて考えちゃいないよ、集まってくれたみんなにお礼を言うんだよ、料理も手伝ってくれたんだからね」

「ばあさんは出ないのか?」

「私?主人公はクラトス、そしてみんなさ、十分に騒いでくれていいよ、防音の魔法もかけておいたし......いいかい、良い人生の思い出にするのにはね楽しむのが一番なのさ、お前も私の気いなんか遣わず、楽しむんだよ」


エイバフは笑いながら煙草をふかし屋敷の中に戻っていった。


「俺も行くか」


入院している間にアリスは敗者復活戦に勝利、見事公認魔導士試験に合格をした。


「戦いの印象は残ってないわ」


アリスは平然と語る。

ガルフが言うには敗者復活戦は複数の魔導士が戦い合う、コロシアム方式だったらしい、しかしアリスは見事それに勝ち残った。


「アリスは強いが何より運もあったな、相手は潰し合いで疲弊していた」

「ガルフは俺がいない間、アリスを気遣ってくれてたんだよな、ありがとう」

「我に兄弟が何人いると思っている、一人増えたって大差はない」


ガルフと話をしているとラナが会話に入ってくる。


「クラトスさん、お料理はガルフさん、ナイミアさんとナシアーデさんとエイバフさんが作ったのよ?すごいわよね、ドネイさんとグラデルさんは材料を買い出しして......私とアリスが料理のお手伝い」

「俺だけ何もしていないな......」

「しっ仕方ないわ、入院してたのだから」


クラトスはそれぞれにお礼を言うとグラデルから小声で話をかける。


「クラトス......イオブの件言わないでくれてありがとう」

「......あの魔道具はどうしたんだ?」


魔道具『ザーンデント』......イオブ国の国宝だったという、あの道具はグラデルとしても大切なモノだろう。


「やはり預ける事にした」

「試験の時と同じようにか」

「そうだ、あくまで預けるだけだが、私一人では荷が重いからな......ユノにも我慢してもらおう......」


グラデルは静かに空を見上げる。


「くっクラトス、アリスをどうにかしてくれ......」

「貴方エルフでしょう?エルフのお話聞かせて?」

「ずっと話したじゃんかぁ、話のネタがねぇんだ」


アリスはドネイにおんぶされている。


「アリス、ドネイを困らせちゃだめだぞ?」

「はあい」

「本当にわかってるんだか......」


ドネイはアリスをおぶりながら、どうやら何かを頼まれていたのか、クラトスにその事を話す。


「そういえば、ナイミアとナシアーデが呼んでたぞ?」

「ナイミアとナシアーデが?......わかった行こう」


何だろうか、屋敷の中にいるナイミアに会いに行く。

「~♪」

鼻歌を歌いながら皿を洗うナイミアにクラトスは後ろから

「ナイミア?」

声をかける。


「ひゃあ!クラトスさんっ!?」

ぴょんと跳ね眼鏡をずらしながら驚く。


「そんなに驚くなよ、何か用事があるんだろ?」

「あっあぁ、そうでした......すみません......」


ナイミアは眼鏡をかけなおす。

「じっ実はですね......あっでももう少し待ってください......ナシアーデさんがもうすぐ戻ってくるはず......」


クラトスは綺麗に現れた皿を見る。


「......ナイミアはずっとここに?」

「あっそっそうです......パーティとか私苦手で......ははは......」


ナイミアは困り笑いを浮かべる、恐らく、パーティ中、ずっとここにいるつもりだろう。

「このパーティはナイミアの祝いも含まれているんだぞ?」

「いっいいですよ、私はぁ!」


ナイミアは両手と頭を左右に振って拒否する。


「私、雑用が好きなんですよ......あっナシアーデさん」


ナシアーデが戻ってくる。


「ナイミア一人で渡しても良かったのに」

「そっそんなの悪いですよぉ」


ナイミアとナシアーデが何かを話し合ってるのをクラトスは興味津々に聞く。


「さすがに気になってきたんだが......」

「大したものじゃないわよ?」


ナイミアは細長い箱を出してきた。


「えっえっと、クラトスさんの『魔導の剣』が壊れてしまった......事を知りまして......」

「せっかくだから、退院祝いクラトスにプレゼントをしようってナイミアと話したのよ」


ナイミアは照れ笑いする。


「これ、ナシアーデさんがいいんじゃないかと......」

「あんた、ナイミアに感謝するのよ?」

「え......いやナシアーデさんも......」


ナシアーデは平然を装うが頬は赤い、なぜここで渡したのか、

皆の前で渡すのが恥ずかしいからなのだろう。


「実は前に旅商人が剣を売ってね、せっかくだからプレゼントをとね」


ナイミアはナシアーデに剣を渡すと、ナシアーデは剣を渡す。


「これは......」


鞘から出してみる、握りの部分は赤と黒、刃は水色。


「なんだこれ?」

「それが、私にもわからないのよねぇ」


ただの剣ではないようだ、魔力を流してみると、性質は『魔導の剣』と同じような魔道具なのだろう。


「いっ一応効果は『魔導の剣』と同じらしいです......」

「というわけで、はい、退院おめでとう!」

「正式に魔導協会の魔導士になれるようこの剣を使って、がっ頑張ってください」


剣をまじまじと見る、剣を評価するためだけでなく、わざわざ自分の為に買ってきてくれた事、その事を考えながら笑みを浮かべながら見る。


「ありがとう、ナシア、ナイミア、本当に嬉しい」

「よっ良かったですぅ......」

「ちなみに剣の名前は?」

「名前は『ドラーシュ』って、名前しかわからないんだが......」

「ドラレウスって同じドラだからいいかなと......思いまして......えへへ......」


クラトスは喜びを隠し切れない気持ちで剣を見ているとガルフがやってくる。


「ナシアにナイミア、お前らもこっちに......なんだその剣?」

「ナシアとナイミアが俺にくれた、すごくないか?」

「おぉ、我はそういうものに詳しくないが......これは確かに......」

「ちょっとみんなに見せてくるな」


クラトスは剣を大事そうに持ちながら、庭の方に向かって歩いていく。


「あんたガキか!なんのために隠して渡したと思ってるの!」

「恥ずかしいから隠してたのにぃ~!」


クラトスを追いかけるようにナシアーデとナイミアは走っていく。


「ふっ、どっちも子供だ」


ガルフはそのままナイミアが放置した皿洗いをやろうとしていると、グラデルが酒を飲みながらやってくる。


「クラトスは既に20代前半を超えているというが、あぁ20代、羨ましいかぎりだ」

「奴は今いくつだったか......何せあ奴自らの年齢をあまり言わんからなぁ......27......はいってたはずだ、ナシアーデは22ぐらいか」

「君の年齢は?」

「我は30だ、グラデルは35であったな、クラトスも数年ほど経つと貴方みたいになるのだろうか」


ガルフとグラデルは談笑していると話は次第に恋愛話に発展しいく。


「――しかしだ、クラトスはモテるだろうな」

「そう思うか?」

「それは、ガルフが一番理解できるのではないか?魔道具を容易に渡す粋の良さ、当たり前のように他者を助ける人の良さ、ガタイも良い、正直モテたのでは?」


ガルフは長いためクラトスの事はよく知っている、だからこそわかる事もある。


「あ奴は家族の問題で結構荒れている時期があった、ここ数年ではないか?落ち着いたのは」


ガルフは思い出すように腕を組み上を見る。


「荒れていたクラトスというのは、よく面倒を起こしてはエイバフのおばさんに怒られる、そんな状態であった、だからその頃は色恋には無縁、唯一好いていたのはナシアだけだろう、ナシアの初恋相手がクラトスだった」

「ほーう?」


グラデルは興味津々に聞いていたがガルフは「はっ」と口で言って、口を押える。


「あっ今のは内緒にしてくれないか?ナシアに殺される」

「はっはっはっ、わかった!」


ガルフは咳払いをして続ける。


「いや、それでだ、落ち着いてくるとあいつは女にモテたいという願望を持ち始めた、まぁ、あいつはガタイも良く、そして強い」

「確かに、クラトスは強い、普通にモテるだろう?」

「グラデルの言う通りだ、今のあいつは環境さえあればモテるはずだ、いままでは非公認魔導士だったから、そういう環境がなかっただけだ」


ガルフは続ける。


「......我は......前にクラトスと、ある依頼を受けた......その依頼主の娘さんがな......

クラトスに求婚してきたことがある」

「ブッ!?」


グラデルは思わず酒を引き出してしまう。


「どっどうしたんだね!その後!」

「クラトスが今はまだ早いからと、保留にした」

「......それは......」

「あぁ、断れていない、グラデルよ、わかるだろう?」


グラデルはクラトスがモテるだろうとは思っていた、それは先ほど挙げた事も含め、実家がこのような屋敷、しかし、今のガルフの話を聞いて理解する。


「......クラトスは断れない......人が良いからな......」

「そして、有耶無耶にして、これからもドンドンと溜まるのだろうな」


ガルフは酒を瓶のまま飲む。


「我はそれを危惧している......我は奴が家族で苦しんできた事を知っているから、

そう言う事で苦しまないでほしいのだがな......」


ガルフは椅子に座りながら酒を飲む。


「クラトスは、必ず、女関係で苦しむだろうな、まぁ、ナシアがどれだけ手綱を引いていけるかだ......」

「......私の見立てでは、今現在、ラナ、アリス、ナシアーデ、ナイミアは確実にクラトスを好いているだろう」

「見立てって、全員ではないか......ナイミアは内気だし、他は子供、今は問題ないと考えているが......魔導協会に入った後どうなるかだな、あそこでの色恋沙汰は死に発展するだろうよ......」


ガルフとグラデルはお互い小さな机と椅子で酒を飲み合うのだった。



◆◇◆◇



クラトスは夜風を浴びるために家の周りをまわっていた。


「......ドネイ、どうした、別にお前は来る必要もなかっただろう?」

「パーティで男一人だけとか、勘弁してくれよ、ガルフとグラデルはなんか話してるし......」


ある程度歩くとクラトスは剣を出す。


「『ドラーシュ』の事、なんかわかるか?」

「別に専門家でもないからなー、さっきも言ったけど、その魔道具は謎だ、もしかしたら、ただ俺がわからんだけかもしれない、だが『ザーンデント』......って言ったか?あれみたいになる可能性も......」

「そうか」

「まぁ、せっかくのプレゼントだ大切に使えばいいんだ、思いは魔道具にも伝わる......多分な」


クラトスは言われるまでもなくそのつもりだった、ナシアーデとナイミアがわざわざ買ってくれたもの、大切に使う、そう決めていた。


「いやー、少し歩くだけでも違うな、おっそろそろ一周だ」

「......おかしい、防音魔法を張っているとはいえ、静かすぎる」


クラトスは急いで屋敷に戻ると穴ぼこだらけの庭だけで他に誰もいない。


「――」


クラトスは屋敷を走る、エイバフの部屋はエイバフが眠っている。


「ガルフ、グラデル!」


ガルフとグラデルは机を枕に眠っていた。


「がぁー」「ぐぅー」

「起きろ、起きろ!ガルフ、グラデル!......ちっ許せよ!」


机を思いきり蹴る。


バーンッ!


クラトスは蹴りで机を返し、無理矢理起こす。


「痛っ!」

「ナシア達がいない!何か知らないか!?」

「眠っている内に......我も探す!」「なっなんだとっ!?」


ガルフ達はふらつきながら走る。

エルマは庭で両手に手を付いていた。


「......地面の下に濃い魔力を感じる......これは」

「......地面に引きずり込んだか......俺の家でそういう事をするか」


クラトスは地面に剣を当てる。


「っこっこれは、クラトス、第1次試験と似たような」

「かもしれないな、前と同じように......」

「いや、ダメだ、移動しているな、こりゃ」


ガルフは穴ぼこをいくつか観察する。


「すべての穴は途中で塞がれていたが、紙を見つけた、クラトスご指名だ」


ガルフは紙を渡す。


「......クラトス=ドラレウス、一人で近くの公園に来い......」

「......これは」


クラトスはそのまま屋敷を出ようとするがドネイは止めようとする。


「ちょっ、待て待て、これってアレだろ!?人質、捕られてるだろ!?」

「わざわざご指名頂いたからな」

「あまりに危険だ、ガルフ、君もそう思うだろう!?」


ガルフは確かに止めたそうだが。


「こいつに言っても聞かないだろうな、絶対一人で行く、だろう?」


ガルフは静かに笑いながらクラトスを見る。


「あぁそうだ、ここでみんなと行ったら、人質に何かされるだろ」

「だが、君は病み上がりだ、勝てるのかね?」


グラデルの心配にクラトスは答える。




「勝つ、絶対にな」




◆◇◆◇



いきなりだった、一人一人いなくなり、最後には自分も地面に沈んでいた、

真っ暗闇になって、しばらくしたら声が聞こえた。


「いやぁ、お前ら、元気にパーティ楽しそうだったなああ!?」


男は激昂しながら叫ぶ。


「あんた誰よ!こんな事して只で済むと思ってるの!?」

「知らねえな、あのクラトス=ドラレウスに邪魔されて俺はリタイアする羽目になったんだよおおぉ!」

「......(完全に私達を殺す気、ここでは魔法が使えない......)」


どうやら同空間にいるのか他の者の声も聞こえる。


「あっ貴方はぁぁ!第1次試験の時の魔導士ぃぃ!」

「おんやあ、こちらありがたいことに覚えていらっしゃるようでぇえ、お礼に最後に殺してやるよぉぉ」

「ひいぃぃ、そんなのお断りぃぃぃ!」


ナイミアが怯えているとラナがしゃべりだす。


「私達を人質にクラトスさんを呼び出そうと?」

「ああ、そうだとも、このクソガキ、お前の事も覚えているからなぁ!?」

「?」

「おい、あのお供の女はどこだぁぁ!?あぁぁそうだった、死んだんだったなぁ!?」

「――っ!何よ偉そうに!地面の中に隠れていないでクラトスさんと正々堂々戦いなさいよ!」

「なあに言っていやがる、良いかあ!?勝てば良いんだよ、勝てば!最後に勝てばそれでなぁぁ!」


その中静かにしていたのはアリスだった。


「お前ぇ、ヤケに静かだなぁぁ、お前も第1次試験の時、だいぶ暴れてたよなぁ!?」

「そうね、でも貴方の事は全く知らないのだけれど、誰かしら」

「......お前、前とだいぶ印象が違う......どういう事だ......?......いいやどうでもいい、俺の術中にはまったお前に警戒する必要はない!」

「――」


何かをするためにアリスは目を瞑る。


「......待てお前何をしている、この空間を......お前吸収しているのかぁぁ!?」

「えぇ、魔力の空間、私の大好物よ?」


会話を聞いていたナシアーデはアリスがしている事を知る。

「(アリスちゃん......魔力を吸収しているの?)」

「クソ、一緒の空間にしたのはミスか、死ね」

「――っ」


地面を圧縮し、皆を圧殺しようとする。

ナシアーデを含む皆も苦しむ。


「ぐっ何をして......」

「お前らにはクラトスを呼び込む為の餌、それ以外に価値はねぇぇんだよ!」

「あんた、人質を殺す気!?」

「あぁそうだ!」

「正気じゃないわ」

「何とでも言え、さぁあて、いつまでもつかな?ほおおらお待ちかねのクラトス=ドラレウスが一人ノコノコ現れたぜぇぇ」



「おい、名無しの誰か、来たぞ」


クラトスはそう言いながら剣を地面に立てて気配を探る。


「(前と同じなら、わかるはずだが、わざわざ俺を呼んだんだ、何か仕込んでいるはず)」


公園を探していく。


「わざわざ、来たんだ、早く出てこい(どういうつもりなんだ、若干は感じるんだ......だが特定の場所がわからない......)」


探し回るが何もない。


「......クソ、何を考え――」


シュッ


横から何かが切りかかろうとする――


「――っ」


それを避け――


スパンッ


切り裂く――


「――っなんだ一体!?」


気が付いたのは人型の砂、腕と思わしき所には石の刃がある。


「そういう事かよ......卑怯者め」




クラトスは公園に招かれ、躍起になって探す、その様を見て笑う。

「がんばれよぉぉ、みんなも応援してるんだぜぇぇ?俺の魔法『サンドドール』に殺されないようになぁぁ!」

この男はただクラトスを殺す為に魔法を使う。

「――ぅ」

「(だが、これ以上魔力を吸われると......)」

「ねぇ、早く解いた方が良いと思うわ、この空間、貴方と繋がってるでしょう?」

「俺の魔力も吸収ってか、そんな事はさせねぇぇよ!さっさと死ね『圧殺』」


アリスの周囲を圧縮して殺そうとするが

「――っ!」

「吸収した魔力を使い魔力放出......馬鹿が、そんな魔力の放出したって圧縮は一時的にしか止まらない、意味がねえぇんだよ、波打つように確実にお前を圧殺していくうぅ!」

ドンドンとアリスを圧迫していく。


「――っ数が多い!」


3体の『サンドドール』は一斉に切りかかる。


「『サンダーボルト』」


地面に雷を放ち周囲を攻撃。


「3体倒した、クソ......この様子だと人質を最後まで出さない気だな」


気が付くと『サンドドール』は4体生成されている。


「......」


キリがない、時間をかけすぎればあっちに有利である、クラトスは剣を地面に突き刺す。

「仲間4人分も魔力が埋まってるなら、わかるはずなんだ」


『サンドドール』はその間にも襲い掛かるが

「しつこいぞ、『ドラゴンクロウ』」

両腕を魔力の爪に変え『サンドドール』を破壊していく。



「はははははっ、聞こえるか?お前らの為に戦ってくれている音を!前とは違う!より深く潜み、バレないようにしているからなぁぁ」


話に集中している間も、アリスは魔力を吸収し続ける。


「――っ!」

「無駄な足掻きだなぁぁ、ドンドン潰されて......」


圧縮よりも早いペースで魔力が吸収されている。


「――うっ......」

「間に合ってないぞガキぃ、これで――」

「――そこか」


グシュッ


「ガッ――」


剣が突き刺さる。


「当たりだな、おい早く出てこいよ」


男は地面の下より出てくる、左肩に刺さったのか、左肩を庇いながら立つ。

男と連動してナシアーデ達も浮かんでいくがどうやら気を失っているようだ。


「っどうやって」

「魔力が異様に脈動しててな、怪しいと思ったんだよ」

「(っ......あのクソガキ、魔力吸収と放出を連続で行って、位置を知らせたのかっっ!まさかそんな知能があったとは......!)」


ナシアーデ達はクラトスに駆け寄ろうとするが

「っクソ!」

「はっ!?」

男はクラトスの右足をを掴むと地面に連れ去ろうとする。


「往生際が悪すぎるっ!」


クラトスは相手の右肩に剣を突き刺す、沈みこまれれば魔法は使えなくなる、そのためこの段階でどうにか倒す必要がある。


「っ......だまれ、知ってるんだぞっ!お前が特別に公認魔導士になれると言う事をなぁぁ!?俺はなれないというのになぁ!?」

「八つ当たりかよ!『ドラゴンブレス』」


男の顔に魔力のブレスを当てる。


「っ!さっ......『サンドドール』こいつを殺せっ!!」

「――まずいっ」


砂の人形が現れる、動こうにも、動けない。

『サンドドール』はクラトスのを石の刃で切りかかる――


「『サンダーボルト』」

「――っナシア!」

ナシアーデは『サンドドール』を破壊する。


動揺する相手にクラトスは『サンダーブレイド』の準備をする。


「しまった!」

「遅い!」


剣を伝い雷は相手に直撃する。


「『サンダーブレイド』」

「ギャャァァァァ!」


大きく叫ぶと動かなくなった。


「......ナシア、こいつ誰?」

「知らないわよ!」


クラトスは立ち上がり、他の仲間の様子を見に行く。


「怪我とかなさそうだな、よし帰るか」

「ねぇ、クラトス貴方一人で来たの?」

「一人で来いって書かれてたからな」


ナシアーデはクラトスに注意をする。


「あいつは私達を殺そうとしてたのよ、人質として利用する気すらなかった!」

「そうか、だがどうにかなった」


剣をしまいながら答える、結果良ければそれで良い、という性格の為にそういったことはいちいち考えない、助けられればそれでよく、助けられない場合は基本考えない、それを考える事が失敗であると考える。

ナシアーデはリスクを考える、人質を助ける為に何でもしたい、その気持ちはナシアーデにもわかるが、最悪な状態にならぬように努める、今回ならば、一人では行かず他に魔導士を潜ませる事をナシアーデはしただろう。


「クラトス、よく聞いて!敵の望んだとおりの事をしてはだめ!今回は何とかなったけど、それは運が良かっただけよ!」

「そんな事はわかって――」

「わかってないわよ!あんたが死んだらどうするのよ!」


ナシアーデとクラトスが言い合っていると小さな魔導士が歩いてくる。


「どうも、テケトです、仲良く喧嘩は良いのですが......皆無事のようで何よりですね」

「てっテケトさん!?」

「ナシアーデ、大体ドネイ達から聞きました、彼を責めないで上げてください、こういうタイプはアホなので、どれだけ言っても意味ありません、テケト的にはそういう魔導士こそが良いと、思いますけどね」


テケトは眠っているナイミア達をグルグルと見回る。


「怪我とかなさそうですね、それと......この魔導士ですか」


テケトは本を見ながらグルグルと回る。


「クラトス、この男について情報は?」

「名前も知らない、第1次試験で戦ったくらいだな」

「なるほどぉ、敗退の恨みでしょうか」

「あぁ、後は俺だけ特別扱いに対して怒ってたな」


話していると警察も現れる。

警察は魔法を行使でき、国家の治安維持を仕事している。


「まぁ、今回は特に重大案件ではなさそうですね、警察に渡して、帰りますか」

「証言とかしなくてもいいのか?」

「良いですよ、面倒ですし、テケトはB級魔導士なので、よほどの事をしなければ有耶無耶にできます、こういうのもどうにかできるのです」


テケトは警察に適当に話すと男を渡してしまう。


「......本当にそのまま帰って行った......すごいな、上位の魔導士は......」

「後はその娘たちを連れて行きますか、あっテケトは持ちません、テケトは基本持たれる側なので」


クラトスはナイミアをおんぶ、ラナを抱っこする形で、ナシアーデはアリスをおんぶして歩いていく。


「うっ重......おいおい、結構重いな......」

「あんた......ナイミアとラナに殺されるわよ」

「まあ、クラトスは乙女心の分からない人なのでしょう」


クラトス重いとは言いつつも一番早く歩いていく。


「テケトさんはどうしてここに?」

ナシアーデは疑問に思っていた事を聞く。

「あぁ、そうでしたね、ゲライトさんの使いとしてクラトスさんの実家に来たのですよ」


テケトの言葉が聞こえテケトの歩くテンポに合わせるようにしながらから聞く。


「それは、もしかして」

「えぇ、ご期待している、例外的救済処置の内容についてですよ」


クラトスは断片的にしかしらない、船に乗ることと、危険な依頼であることしか。


「明日の朝8時、クラトスには船に乗ってもらいます、場所は此処アーシアの港です、そこにある、ルアン号に乗ってください」

「明日......パーティが今日、明日にアーシアを出ると?」

「いえいえ、アーシアどころかオリンシア帝国からもですよ、船の近くにはゲライトがいるはずです、後ナシアーデはそこまで案内をお願いしますね」

「......?わかったわ」


クラトスは正直困惑する、まさか明日とは思わなかったからだ。


「随分と急なんだな」

「仕方ないです、あちらにも事情があるかと」

「あちら?」

「まぁ、細かいことはゲライトに聞いてください、後、貴方の救済についてはあまり言いふらさないでくださいね、こういう事、また起きる可能性あるので」

「気を付ける」

「では、テケトは帰りますよ、頑張ってくださいねクラトス」


テケトは小走りしてクラトスを追い抜いていく。


「結局内容がわからないな」

「そうなんだ、明日なんだ......」


ナシアーデは寂しげな顔をする。


「なんやかんや、せっかく貴方と会えたのにね......」

「別に一生の別れでもないだろ」

「それは、そうだけど......」


屋敷が見えてきた。


「ねぇ、クラトス?」

「なんだ?ナシア」

「......今日は、ありがとうね」


ナシアーデはそう言って屋敷に戻っていった。


そしてクラトスも戻り、自身が明日にも船に向かわなければならないことを伝えた。




そして




「わざわざ、来る必要もないのに」

クラトスは皆とにいた、他の者も見送りに来ていた。

港は様々な人々で賑わっている


「せっかくだし、良いでしょ?」

ナシアーデは笑いながら答える。


クラトスは思い出したようにグラデルとガルフ、ドネイ、ナシアーデにあることを伝える。


「実は第1次試験の時、ラナが狙われていた事についてなんだが......」


ラナを鍵として利用しようする者たちがいる事を伝える、クラトスがいなくなると何かあった時に大変な事になるからだ。

「今の所、特に何も起きていない、諦めた......ならいいんだが、一応伝えておく」

「わかった、我も気にかけておく、もちろんアリスもな」

「はっはっはっ、まぁクラトスは依頼に集中していい、私達が必ずや守って見せよう!ナイミアにも伝えておく」


アリスとラナはナイミアと船を見回っている。


「あんた......本当に色々と引き付ける運命なのかしら......」

「異性なら良いんだけどな......」

「このバカっ」


クラトスとナシアーデが話していると、見覚えのある男が歩いてくる。


「いやぁ、クラトス君よく来た、それとナシアーデ君もありがとうね、わざわざ案内させて」


ゲライトはにこやかに近づき話してくる。


「船に乗る事以外何も知らされていないんだけど......」

「まぁまぁ、船に案内役がいるから、その人に頼るんだ」


ゲライトはあえて言わないのか、頑なに依頼内容を言わない。


「......わかった、じゃあみんな、俺は行く」

「クラトス、頑張ってね、死んだりしないでよ?」

「ナシア、俺は死なないから」


根拠のない言葉、それでも、その言葉で安心できる。



「あぁ、ナシアーデ君、君も来るんだ」

「......へ?」


ゲライトの突然の言葉にナシアーデは言葉を失う、ナシアーデだけでなく、他の者も皆困惑してしまう。


「それって......」

「ナシアーデ君にはクラトス君をサポートしてもらいたい」

「まっ待ってください、何が何だか、なっ何で今まで言わなかったんですか!」


ゲライトは思わず笑みがこぼれる。


「いやぁ、本当は早く言うべきだったけど、そういう反応、見たいじゃない?」

「えっそんな」

「ほらほら、急いだほうが良い、もうすぐ出航だ」


ナシアーデは何が何だかわからないまま、ゲライトに押される形でクラトスと並ぶ。


「では、クラトス=ドラレウス、ナシアーデ=パナケ、無事依頼を成功させることができるように頑張りなさい......ほら皆も」


ゲライトはガルフ達にもクラトス達応援を求める。


「がっ頑張るんだぞぉ、クラトス、ナシア!」

「くっクラトスさぁん、ナシアーデさぁん頑張ってくださあい!」


皆も困惑しているが、クラトスとナシアーデの無事を祈って応援する。


「......ナシア......頑張ろう......」

「......クラトスもね......」


ナシアーデは踏ん切りがついたのか大きく手を振る。


「わっ私も頑張るわぁ!みんなも元気でねぇ!」

「じゃあな!」



クラトスとナシアーデはそう言って、船に乗り込んでいく。




こうしてガルフ達に見送られながら、クラトスとナシアーデは船に乗り込んでいく、一体何が待ち受けているのかはわからない、しかし、死ぬわけにはいかない、必ずや依頼を達成して、魔導協会の公認魔導士を目指すのだった。




クラトスとナシアーデを見送った後、ガルフは疑問に思っていた事をゲライトに聞いてみる。


「そういえば、行先はどこなのだ?」

「おやそういえば言ってなかった、キコス国っという場所だ」

「きっキコス国......」


ガルフは顔を青くしていく。


「ガルフ、どうした?そんな顔を青くさせて」

「うわぁ、マジで青い.......」


グラデルはガルフが目に見えて青くしていく様を見て何事とかと聞く、ドネイも興味を持ったのかガルフに聞いてみる。

「グラデル、ドネイもか、まぁドネイなら平気か、昨日、クラトスが求婚された話をしたな」

「あぁ、ドネイ、君にも教えてやろう、クラトスの危うい未来を」

「おっおう」

ドネイは知らないが、とりあえず黙って聞く。


「その娘さんが住んでいる場所がキコス国だ......場所まで同じかは知らないが......」

「なんと......」

「あ奴は、会ってしまいそうな気がするのだ......妙に運が良いというか悪いというか......」


ガルフは嫌な予感がする、クラトスならばきっと会う、そして今回はナシアーデも一緒にいる事。



「これは......きっと......揉めるぞ......」



クラトス=ドラレウスとナシアーデ=パナケはルアン号に乗り、キコス国に向かう、果たしてガルフの嫌な予感は当たるのか、杞憂に終わるのか、無事依頼を達成できるのか――



           ――第1章 魔導士試験編 終――




次章に続く――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る