第34話 最終試験 ナイミアVSオリア


エルマ=イアンはB会場、ナイミアが戦う試験会場の審判役として会場に向かいながら、何者かと話をしていた。


「......それは本当かい?」


エルマの背後についていくように黒い人型の影かがぼそぼそと話している。


「はい......、魔導士より預かっていた魔道具が何者かに盗まれました」

「話には聞いていたさ、正体不明の魔道具について調べるため、アンサやユノが預かっていたと......そんな訳の分からないものを僕には聞かずに勝手にな!!」


エルマはイラつき感情的になりながら早歩きをしていく。


「フッ!しかし人からの預かり物を盗まれるだなんてな」

「エルマ様、如何しますか?現在も捜索をしていますが......」

「気にしなくていいさ」

「へ?」


エルマの以外な返答に間抜けた声をだす黒い影。


「いいかい?これらの責任はアンサとユノにある、僕はこのことを聞いて引き続き捜索を命ずるが、見つからなくともこれはあっちが独断でやっていたことで、僕は今の今まで知らなかった、これでいい」

「しかしさっき話は聞いていたって......」

「一体何のことだい?」


エルマは何も知らなかった素振りをして黒い影に話す。


「とにかく、捜索は引き続き行いなさい、このことをユノ=ノエアに伝えておくんだ、いいね?」

「わかりました、ユノ様の元に戻りましたら必ず」

「よろしい」


黒い影は地面に潜り込むと一瞬でどこかへ消えていった。


「......協会所属の魔導士も最近は勝手に動くやつがいて困り者だ......」


エルマはやれやれとしながら試験会場に進んでいく。




試験会場に着くと辺りを見回す。


「(ネレイアイはまだ来ていないのか?)」


ネレイアイは審判としてエルマと共に会場にいなければいけないはずであった。


とりあえず隣が空席の審判室で座ると色々と愚痴がこぼれていく。


「ネレイアイもネレイアイだ、彼女も最近はひどい、勝手に何処かへ行く、一体何がどうなっているんだ」


試験中の様々な出来事への怒りも沸々とこみ上げてくる。


「第一次試験中旧試験塔内のヒント用紙消失、無情の森内の魔物の激減.......それに試験内容の漏洩......」


エルマは座りながら頭を抱える。


「だが......この試験を無事に終わらせれば......」


何者かの思い通りにはなりたくないという思いがより強くなっていく。


「どこの誰だかは知らないがこの僕を此処まで悩ませた償いはさせやるからな......」


思考を巡らせ落ち着いてくると近くにいた職員を呼び、ネレイアイはまだが訪ねるが未だに来ていたないと言われるとまたイライラしはじめ、机を軽く蹴る。


「ネレイアイ!お前も足を引っ張る気かっ!前に僕に向かって嘘をつくなと言っていたが、そっちだって普段の活動は全くわからないし言わないじゃないか!お前も大概――」

「うそつき?」

「っ!」


怒りをぶちまけていると隣にネレイアイが黄色い羽でふわふわ飛びながらエルマの近くを飛んでいた。


「エルマ様もひどい言い方をするのね......」

「おっ......君が悪いじゃないか、そう思われる事を繰り返している」

「そう......例えば?」

「例えば?」

「言ってくだされば、わたくしも気を付けることもできるかもしれないわ......」


エルマはネレイアイという妖精がどこか怖い、彼女には敵意どころか好意すら感じるが何か引き込まれる気持ちが恐怖心を煽る。


「例えば、君は試験管だ、だが顔をほとんど見せず代役を立てていた、そして君以外の魔導士で回していた。そして第2次......いや最終試験、それでも審判であった、だがそれにも関わらず今日この日まで審判をせずにまた代役を立てることを繰り返してきた、これは本来ならば許されないことだ」

「ふふふ......そうね、それはとても悪いことをしてしまったわ......でも許してくださったわ?」

「皆君には弱いんだ、だがそれは本来許されることではない!」


ネレイアイに対しエルマは話し続けるが彼女は静かに微笑みながらエルマを見つめる。


「そうね......もうやることはないからきちんと試験官として働くわ......でも言い訳くらいさせてね?......」

「言い訳?」

「そう......わたくしも魔導協会の魔導士ですもの......重要な依頼だってお願いされるのよ?......」

「試験管は重要ではないと......」


ネレイアイは他に魔導協会より依頼を受けていたこと、そしてそれは暗に優先度が試験管としてより高いことをエルマに伝えたいようだった。


「試験管でなければならなかったのかい?普通の魔導士としての立場でいるほうが込色々誤魔化せるのでは?」

「ふふふ......これ以上はメッね......」


ネレイアイはこれ以上は言うつもりはないようであった、エルマもこれ以上の探りは意味をなさないと思いを話を切り上げる。


「まぁ君の言い分は理解した」

「それはよかったわ......」

「そろそろ試合が始まる、今回は頼んだよ?」

「えぇ......もちろん......」


そういうとエルマはこれより試合が行われる会場の中央部に歩いていく。


◆◇◆◇


B試験会場


クラトスとガルフ、アリスが観客席で待っている中。


「......ネレイアイだ」


クラトスは試合会場の端にある椅子と机のある空間、そこにエルマとネレイアイが何やら話をしているのをなんとなく見ていた。


「む、あの水色の妖精が試験管なのか、今まで一回も見ていなかったなそういえば」

「そうだな、不思議な娘なんだよあの妖精」

「なんだ、まるで知人みたいな言い方ではないか?」

「あー」


クラトスは前にネレイアイにより他言無用との約束を思い出す。


「いや、不思議だろう?試験管が初見なんて」

「まぁ、そうだが」

「ねっクラトスにガルフ!ナイミアが出てきたわ!」


アリスは指を指す方向に目をやるとナイミアが遠目でもわかるくらいびくびくとしながら歩いているのがわかる。


「ガルフ......やっぱり心配なんだが」

「言うな、我も思ってる」


会場では試合が始まろうとしている中。

足をがくがくしているナイミアが立つ。


「あわわわ......」


到底今から試合をするという人物には思えず他の魔導士達もすぐにやられるだろうと思われていた。


「みんなナイミアに失礼ね、少し怒ろうかしら?」

「やめとけって洒落にならん」


そうこうしているとエルマが現れ始めた、試合が始まる時間が迫る。


「相手は誰か......だな」


クラトスはナイミアの反対側にどんな人物が立つのかを考えていると会場に緑色の鎧が体を覆った巨漢の男が現れた。



「オリア遅いよ」


エルマはオリアと呼ばれた男に注意を促す。


「すまない」

「まあいい、ナイミア、君も早く」

「はいぃ......!」


ナイミアはエルマに呼ばれると駆けていく。


「君たちも試合はいくつか見ているだろうから、いちいち言わないよ、さぁ向かい合って」


ナイミアとオリアが向かい合う。


「ナイミア=ピリスとオリア=リポンお互い悔いのないように戦いなさい、では」


「はじめ!!」


「『水流弾』」

「っ!?」


ナイミアは試合開始の直後に至近距離で水の弾丸をオリアに放つとその速度に少し戸惑ったのか驚きながら後ろに下がつつ防御の姿勢をとる。


ナイミアの『水流弾』はオリアの鎧を貫通できず

「ひぃぃかったい!『アクア・ランス』」

ナイミアは追撃をする。


――槍の形をした水の塊をオリアに突き刺そうとすると即座にオリアは反応した

「『相殺の土煙』」

オリアの周りに土煙がまるでオリアを守るように舞う。


『アクア・ランス』はオリアに届く前に石礫と暴風の嵐に勢いを飲まれ続けついに相殺されてしまう。


「なっなら......『アクア・レイン』

オリアの真上に膨大な水を落とそうとするも――

「『相殺の土煙』」



この『相殺の土煙』を破壊できない。


「あぁどうしよう......」


ナイミアはどうすればいいのか思考しているとオリアに隙を与えてしまった。


「考え事のし過ぎも問題だな、『ロック・ブラスト』」


石の礫がナイミアに襲い掛かる、

「っ!『水の抱擁』」

ナイミアは後ろに下がりつつ自身の体に水を纏いダメージの軽減を狙うが――

「ぐっ!」

ナイミアに『ロック・ブラスト』の一部が体に刺さる。


「イッ!」


ナイミアは泣き出しそうになるが我慢し、

「『アクア・ランス』『アクア・ランス』『アクア・ランス』!!」

ナイミアは連続で魔法を放ち猛攻を加えるが――



右に――


左に――


そして右――


オリアは速さはないが適格に魔法を避けながらジリジリ距離を詰めていく。


「やだぁ......負けらない......負けられないんですからぁぁ『アクア・ランス』!!」


オリアは先ほど通り魔法を見極め魔法を避けようとする


が――


ナイミアのナイミアの胸のあたり、首飾りが青く光るそして――



シュン――



「がっ!」


『アクア・ランス』先ほどまでとは段違いのスピードでオリアに向かい、横腹を鎧ごと貫通して貫く。


「え......何が?」


この状況に観客、オリア、そしてナイミア自身も驚いていた。


オリアは急いでナイミアと距離をとる。


一瞬だがお互いに硬直時間が生まれた。






観客席


クラトスはこの状況を驚いていた。


「今の光は......例の魔道具か?」

「であろうな、だがなぜに今?」


クラトスとガルフは考えていると

「テュナートはね今一瞬だけ認めたのよ」

「認めたって......わかるのか!?」


アリスの発言にクラトスとガルフは驚きながら聞く。


「少しだけ、テュナートは前にも言ってけど、ナイミアのことを認めたら力を貸してくれるの、少しわがままでひねくれものかしら」

「アリスお前は一体......」

「......これでナイミアにも勝てる道筋は見えてきたな、一度だけとは相手の横腹に穴をあけられた」


ガルフは意図してか、クラトスに話をかける。


「あっあぁ、ナイミアには魔法の火力が足りない、だが今ので最悪相手の横腹に集中砲火すれば勝てる......まぁ相手もそれはわかってるだろうがな」




ナイミアとオリアはお互い警戒しながら考える。


ナイミアはオリアに再度ダメージを与えるにはどうすればいいか

オリアはなぜ今の魔法だけ強力になったのか


「よくわからないですけどぉ『アクア・ランス』!」


動いたのナイミアからだった

オリアはナイミアの魔法を避けながら

「『ロック・ブラスト』」

石の礫をナイミアに向けて放つ――


「『アクア・ブラスト』」

ナイミアは反撃するように水の巨弾を撃ち、さらに

「『水の抱擁』」で自らを守る。



ナイミアの防戦一方ではあるものの、ダメージはオリアの方が受けており勝敗はわからない状態になっていた。



「はぁはぁ、どうにかぁ......防いでるぅ......」

ナイミアも魔法を打ち続け疲弊はしているものの、まだ戦える魔力は残っている、ダメージもそこまで受けてはいなかった。


「先ほどのダメージが思ったよりきついか......」

オリアは魔力の余裕はあるものの、ナイミアの魔法により受けた横腹のダメージが深く長期戦は避けたい。

「仕方がない......か」



オリアは何かを決心したのか深呼吸をし始めた。


「ナイミア=ピリス、私は君に負けるわけにはいかない――」


オリアの周囲に魔力が包まれていく。


――本気で行かせてもらう!!」



観客席


クラトスは思わず立ち上がった。


「っ!この魔力の感じは!?」

「クラトス、この魔力は普通のとは違う」

「......おそらくだが......あの男......」


クラトスは固唾を呑み、試合を見ていた。



ナイミアは足をガクガク震わせながらオリアを見る。

オリアに包まれた魔力はナイミアに威圧感を与えていた。


「まっまさか貴方は......」


「『ドラゴンスケイル』!」


オリアは魔力を装甲のように纏う。


「私は竜の力を持つ魔導士だ」


ナイミアは試合中にも関わらず顔を青くさせ頭を抱える。

「あぁぁぁうっうそだぁ!そんなぁ......」





「そうか、君がそういう反応するということは持っていないのだな?――」




オリアは――




始めてニヤリと笑った――




「――対竜魔法を」

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