第1話 事の始まり
発端は、先月掛かってきた一本の電話だった。
真夜中に突然。
眠い目を擦りながら、スマホからの妙に明るい声に耳を傾ける。
まあ、こんな時間にこんな電話を掛けてくる人物は決まっている。大学時代にお世話になった安西妙子先輩だ。
『ねえ、太田クン? 来月から私の代わりに、ちょっと面白いクラスを教えてみない?』
先輩からの思わぬ提案に、深夜にも関わらず俺は歓喜の声を上げた。
「それってホントですか!? 実は俺、来月から臨採クビになるところだったんです」
臨採というのは、教員の臨時採用のこと。
教員免許は持っているが採用試験には通っていない人が就くのがほとんどで、産休などで急に欠員となった穴を埋めるケースが多い。あくまでも臨時の先生なので、産休明けで先生が戻ってきたらお役御免になってしまう。
『おっ、引き受けてくれるの?』
「もちろんですよ。正に渡りに船です!」
『そう言ってくれると助かるよ。ところで私が今、森葉女学園に勤めてるのは知ってるよね?』
――私立森葉女学園。
小・中・高一貫の、お嬢様が通う私立学園だ。どこかのアイドルグループの名前ではない。
「ええ、知ってますよ」
『その初等科の六年三組が、今、私が担当しているクラスなんだけど、少し変わってるのよ』
森葉女学園には、かなり世間ズレした女の子が通っていると聞いた事がある。その中でも変わっているという言うのだから、相当なものだろう。
これは注意せねば、と一言一句聞き逃さぬよう先輩の説明に集中する。
森葉女学園は私立学校だ。ということは、県の採用試験に合格していない俺でも正規採用してもらえる可能性がある。先輩のクラスがどれだけ変わってるのか分からないが、我慢できる範囲であれば本当に有難い話なのだ。
しかし、続く先輩の言葉に俺は耳を疑った。
『六年三組の子はね、みんな小さな異能者なの』
異能者? この現実世界に?
アニメかなにかと勘違いしているんじゃないだろうか。
「い、異能者……ですか?」
『まあ、異能者ってのはちょっと言い過ぎだけど、みんなが小さな特殊能力を持ってるの。例えば、プチ変換とかミニ変換とかね』
プチ変換? ミニ変換?
なんだそれ?
なんでも小さく変換しちゃう能力とか?
『電話じゃ上手く説明できないんだけど、決して超能力じゃないから安心して。実際に人間ができる範囲の習慣というか癖というか、そういうものに近いから』
こんな説明じゃ、なんだかよくわからない。
『本当にたわいもない微笑ましい能力なのよ。他にも、ナラ変換とかシガ変換って子もいて面白いわよ』
奈良変換? 滋賀変換?
おいおい、変換が関西まで及ぶのか? それは大変だぞ? 京都や大阪じゃないところが、小さいというかなんというか……。
「それで先輩のクラスの子、能力の属性はどの子もみんな『変換』なんですか?」
『おっ、属性なんて言葉使っちゃって、すっかりその気だね?』
「まあ、引き受けるのならちゃんと対応しなくちゃいけませんからね」
『大丈夫、私だって教えることができたクラスだもん。来月の一月から三ヶ月間、ちゃんとクラスを教えることができたら、四月から正規採用してもいいって理事長も言ってるわ』
おおっ、正規採用キター!
それに初等科の六年生ってことは、どんな能力者であれ三ヶ月間我慢すれば中等科へ上がってしまうってことだ。その後は、正規採用と普通クラスの担任が俺を待っている。
こうして俺は、先輩の代わりに六年三組を受け持つことになった。
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