第42話

 秋の1大イベント、星花祭まで1週間ほど。

 各クラス、部活も、出し物の準備で大忙しだ。


 今日とりわけ賑やかなのは、メイド喫茶をやる高等部1年3組。

 準備できた衣装に袖を通してみた。


「お帰りなさいませ、ご主人様。にゃん♪」


 メイド服を着て、あざとい猫の手招きポーズを取るトップアイドル、美滝みたき百合葉。

 亜麻色の髪には猫耳カチューシャ装着。

 そう、3組がやるのはただのメイド喫茶にあらず。

 猫耳メイド喫茶なのである……!


「……さすが芸能人。照れがありませんね」


 同じ衣装で恥ずかしそうにもじもじする、金髪美少女。

 留学生のヴァイオレット・U・ウェールズ。

 猫耳がよく似合う。


 注目を浴びるのとっても苦手な、有栖ありす寧音ねね


「わた、私がこんな可愛い格好で、人前に出るとか。む、無理です……!」


「ネネっちが倒れたー!? 救護班メディック救護班メディックー!?」


 百合葉の他は皆恥ずかしそうな様子。

 3組みんなのお姉さん、白石結が、猫耳カチューシャに触れながら、


「喫茶店を提案したのは私だけど。どうしてこんなことに……」


 自慢のお菓子と紅茶を振舞いたかっただけの彼女に、罪は無い。


「猫耳をくっ付けたのは、私だ……!」


 犯人、美滝百合葉の自白。


「だってさー。出し物決める会議の時、たまたま……目に入っちゃったんだよね」


 百合葉の視線が注がれるのは、写真部員、猫山美月の頭の上。

 学級会議の日も、猫耳カチューシャ外し忘れていた。

 当の猫山さん、


「にゃー。にゃぁ? にゃにゃぁ、にゃーん」


 大好きな猫さんに近付く訓練と割り切って、イメージトレーニング中。

 ふと周りの視線に気付く。


「んー。私は喫茶店やるなら、猫さんカフェが良かったかも。ボス猫の山田さんとか、学内に住んでる野良猫さんを集めて……!」


「そ、それは衛生面とか、いろいろアウトだと思いますよ?」


 困り笑いで指摘するのは、控えめな印象がメイド服に馴染む、川蝉かわせみ弥斗みと


「えー。猫さん撫でたかったです」


「よーし、じゃあ私が猫ちゃん撫でちゃうぞー♪ うりうりー♪」


 百合葉が猫山さんを抱き締めて、触れ合い。ちょっと、過剰。


「にゃ!? く、くすぐったいー」


 そんな、女の子同士の絡みを目にして、クラスメートの高橋及々奏ののか、うっとりと、


「尊い……目に焼き付けなくちゃ♡」


「猫さん……お触り……」


 百合葉と猫山さんのスキンシップが、ちょっとエッチに見えてしまった川蝉さん、慌てて話題を変える。


「そ、そういえば他にも、喫茶店のクラス有りましたよね。執事喫茶は1組でしたっけ、2組? ね、結さん」


「両方じゃなかった? 新聞部が3組うちも含めて、『喫茶店の三国志だ!』とか騒いでたもの」


 聞いた百合葉、元気に腕を上げて、


「ふふん。うちが売り上げ、てっぺん獲るよ。おー♪」


「芸能人がいるんだから、余裕じゃない? あ、僕はマジック部に出なきゃだから、パスね。ごめんよ」


 クラスメートの永峰涼音が言うと、先ごろ生徒会副会長になった日塔にっとう氷舞理ひまりが首を横に振る。


「簡単に1位は取れないわよ。1組も2組もスター揃いだし、4組はあの五行さんがいますもの。5組の出し物も、何だかすごいって噂で……」


 それで副会長、思い当たる。


「……そうね。美滝さん、芸能人ですものね。内部公開の1日目はともかく、2日目は入場制限とか、考えないと。よその学校だと、映研で若手女優の生徒が出演した映画を上映しようとして、大騒ぎになったって」


 ため息ついて、


「生徒会としては、頭が痛いわね。理事長肝いりの、美滝さんと『クリスタル*リーフ』のライブもあるし」


 その呟きを聞いて。

 百合葉が一瞬、怯えたように震えたのには、誰も気付かなかった。


 ※ ※ ※


 漫画研究部。部長であるエヴァンジェリンの人徳(?)により、オープンスケベな子が集まっている、この部活では今日も……。


「部長、飾りつけの色々、買ってきましたよ。では、約束通り、ご褒美に……♪」


「ええ、美夢みゆちゃん。『裸で抱き合う練習』ですわね♡」


 いつもえっちな妄想で脳内埋め尽くされている、1年1組の漫研部員、御山みやま美夢みゆ。スカートはそのまま、上半身はブラだけになって、エヴァと抱き合う。


「わぁ、部長、柔らかくて、ふかふか♪ いい匂い……♪」


「ふふ、美夢ちゃんも温かいですわ♡」


「何をしてるんですか学内でぇぇぇー!?」


 ピピ―! 警笛が鳴る!

 静流に見つかったのだ!


「部誌のチェックに呼ばれてきてみれば……! こ、こんな、部室で堂々と淫行を……!」


「これはえっちなコトではありません! 美夢ちゃん、気になる子がいるっていうから、いつ裸で抱き合っても大丈夫なように、練習をですね」


「もう、部長っ。恥ずかしいですってば。初瀬さんのことは、まだ考えるとドキドキするってだけで……♡」


 御山美夢。恥ずかしがってるのは、下着姿で抱き合ってることについてでは、ない模様。


「裸で抱き合う練習て。裸で抱き合ってるじゃないですかー!?」


「下着をつけてます。裸ではありません。初心者用のイージーモードですわ!」


 ……感覚が違いすぎる。静流は頭がくらくらしてきた。

 それでもこのエヴァンジェリン、7人のグランド問題児からは外れている。

 高1の時から恋人がいる分、宮子や咲瑠えみるほど「乱れた」印象が無いからか。


 気を取り直して、静流、風紀委員のお仕事。

 今日は、漫研が発行する部誌に問題が無いか、チェックに来たのだ。


 結構過激。直接的な行為の描写は無いとはいえ……。

 普段の静流なら、1ページ目からアウト判定を下す内容なのだが……。


(私も……宮子さんと、あんな風に……?)


 さっきの、下着姿で抱き合うエヴァと美夢が、脳裏にちらついて。

 何だか、ぼーっとしてしまう。


「まあ、OKなんじゃないでしょうか」


「……ずいぶんあっさりですわね、今年は。一般配布用に内容をソフトにした『表本』とはいえ」


 エヴァが不審がると、美夢が耳打ち。


「部長、これなら……『裏本』の方もチェック通って、堂々と配れるのでは!?」


「雪川さん、実はもう1冊作ってますの。こちらもいかがかしら♡」


 エヴァがにっこにこしながら差し出すのは……表紙からして、裸だ!

 内容はお察し。

 しかし宮子とのことで上の空な静流、


「いいんじゃ、ないでしょうか」


「ええー!? やっぱりおかしいですよ、雪川先輩。いつもと違う……!」


「いいえ美夢ちゃん。これは雪川さんも、ゆりえっち漫画の素晴らしさに、目覚めたということですわ♡ 夏コミの本も大好評でしたし、これなら冬は、初の壁サークル! いけそうですわー♡」


(宮子さんと、私が……。この漫画みたいな関係に……)


 ドキドキ静流、風紀委員のお仕事、忘れてる。

 こんなのは、初めてだ。


 相談してみるのも、いいかもしれない。

 考え方が、違うからこそ。

 視線を感じ、可愛らしく首を傾げるエヴァへ、静流は切り出した。


「あ、あのっ。先輩に、相談したいことが……」 


 ※ ※ ※


【後書き】

初登場のゲスト


・ヴァイオレット・U・ウェールズ 虹星まいる様原案


有栖ありす寧音ねね 星花女子プロジェクト参加者によるリレー小説、「不思議な鏡で遥かな空を見上げて」登場(「ハーメルン」にて連載中)


・高橋及々奏ののか 智秋様作「星花のつぼみ」登場(「小説家になろう」にて連載中)


・永峰涼音 魔物兄貴様作「嘘つきのゼロゲーム」登場(「小説家になろう」にて連載中)


日塔にっとう氷舞理ひまり 斉藤なめたけ様作「冬虫花想」登場(「小説家になろう」にて連載中)


・「クリスタル*リーフ」 水上晶奈と花園彩葉の2人組。 楠富つかさ様作「あの星をもう一度」登場(「アルファポリス」にて完結)


・御山美夢みゆ ありきた様作「恋愛、はじめました」登場(カクヨムにて連載中)




 

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