★第三章★ 予期せぬ再会

★第三章★ 予期せぬ再会(1)

「状況はわかったわ。今回は深刻な事態にはならなかったとはいえ、また接触してくることも十分あり得るでしょう。警戒を怠らないで」

 通信用の魔法陣からプラーネの声が響く。

 時刻はそろそろ零時を回ろうかという頃。ヴィエラ星群の拠点、山頂の休憩所の中でシホたちは夕方の出来事――謎の獣人との接触の件について報告を行っていた。

「そうね……近いうちにそちらに行くから、詳しい話はその時に。ハレイ様には私から報告しておくわ」

 プラーネ星団を構成する二十一の星群には各々管轄が与えられており、蒼星の各地に展開、活動を行っている。星団長であるプラーネはグレイと共に各星群を転々としており、現在はここから遠く離れた異国に設置された星群を訪れているとのことだった。

 ちょっと意外なのだが、グレイは魔導機の構造に精通しており、こうして定期的に各地で活動する魔女の元に赴いては法器の点検や整備を行っている。そして同時に、各地の状況をハレイに報告する監察官のような役割も果たしているらしい。

「それから――あなたたちのヘクセリウム確保量だけど、正直芳しくないわね。獣人の件を考慮しても」

 プラーネの語調がやや厳しいものになり、重苦しい空気が漂う。

「それは……」 

 ヴィエラが口を開きかけたが、後に続く言葉はなく――そのまま下を向き、沈黙する。

「先の人員の件に加えて、目標達成率もこの水準が続くとなったら、いずれ厳しい対応がとられる可能性も否定できないわ。出来る限りのフォローはしておくけど……覚悟はしておいて。いいわね?」

「…………ああ、すまない。星団長」

 彼方から響く朧げな木霊のように、トーンの低いヴィエラの声が聞こえる。

 シホはいつの間にか自分がコンクリート床に埋め込まれた石をぼんやりと眺めている事に気がついた。

 …………

 重苦しい雰囲気のまま、報告は終了した。しばらくは――誰も口を開かなかった。

 やがて――不規則に明滅を繰りかえす山道の灯りが何度目かの瞬きを見せた頃。

「ええと……ヴィエラ、ベネット。ごめんなさい、わたしのせいで……」

 ようやく沈黙を破ったのはシホだった。

「いや……全部アタシの責任だ。獣人の件は不測の事態まで考慮できていなかった作戦ミス。慢性的に十分なヘクセリウムが確保できてないのも、アタシの方針のせいだ。シホやベネットのせいじゃない」

 そう言ってヴィエラは顔をあげ、シホとベネットを見る。努めて平然としたその表情からは、少しでも二人の不安を拭い去ろうという気遣いが感じられた。

 何か言わなくては、シホが手さぐりに言葉を探していると――

「ふ、ふん! 当然ですわっ! まったく仕方のない星群長ですこと! ……でも、わたくしを有する星群の長が更迭なんて、あってはならない事態ですの。だっ……だから安心なさいっ! 明日からはわたくしも本気を出して、ガンガン巻き返しますわ!」

 ベネットが早口で、陰鬱な空気を吹っ切るように言った。

「……わっ、わたしも! 本気出すからっ!」

 慌ててシホも続いた。ここはベネットに乗っかっておいたほうがいいだろう。

「あら、おかしいですわね? シホは既に毎日全力だとお見受けしてましたのに?」

「むぐっ……」

 ベネットとシホが軽口を叩く。しかしそれは、ヴィエラの想いに応える決意の表れだ。

「ははは……ありがとうな。二人とも。本当に。頼りにしてるよ」

 張り付けた表情が崩れ、ヴィエラの顔が緩んだ。目元に少しだけ熱いものが滲む。

 本当にいいチームだと、この三人で良かったと、ここにいる皆がそう思っていた。

 きっとこの先何があっても、大丈夫。

 …………

「よし、そろそろ解散するか。今日は遅くなって悪かった。何もなければこれで――」

「あっ……一つだけ、いいかな」

 おずおずと言うシホ。ヴィエラが頷く。

「うん……ちょっと変なことを聞くかもしれないんだけど、その……星団長が言ってた人員の件、っていうのは……?」

 プラーネの言葉に、自分の配属について何か問題があるんじゃないかとシホは心配でならなかった。

「あー……。シホには関係のないことだから、言わないほうがいいかと思ってたんだけど……こうなっちゃ隠してるほうが良くないよな……」

 ヴィエラは少し躊躇った様子だったが、自分の事じゃないとわかりシホは安堵する。

「人員の件ってのは、シホが来る前にいたメンバーの事。ミーティアってやつの話だ」

「えっ……」

 思いがけぬその名に、シホの心が揺らいだ。

「もういないけどな。ある日突然、いなくなっちまったんだ」

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