第3話

 アイコへのイジメは、教科書を隠されたり、ノートにいたずら書きをされたりは日常のことだったが、ある日体育の授業の前に体操着に着替えようとしたアイコは、ジャージのズボンに穴が開けられているのに気がついた。あまりにも酷い仕打ちに、教室でひとり泣き崩れているアイコの姿を見た金太は、このままでは犠牲者が増える一方と思い、勇気を振り絞ってイジメのリーダーである中曽根大基なかそねだいきに挑戦状を突きつけた。

 そのとき金太は中学生とは思えない体格の中曽根大基に勝てるなんて1ミリも考えてなかった。でもここで目を瞑ったら男じゃないと自分に言い聞かせた。

 その挑戦状というのは、「度胸だめし」だった。それは、夜中にひっそりとした神社の賽銭箱の上に置いてある消しゴムを取って来るだけの単純なゲームだった。自分からいい出したことだけに金太は、ほとんど灯りの点いてない神社は心臓が停まるくらい怖い場所だった。でもそれをしなければ、また明日からもあいつらがのさばり続ける。それだけは絶対にさせてはならないと思った金太はひたすら恐怖と戦い、賽銭箱の消しゴムを手にしたあと、脇目も振らずに家に帰った。

 次の日学校に行くと、中曽根大樹はいつものように窓際で仲間を集めて話し込んでいた。金太はつかつかと中曽根の前まで歩み寄ると、「この臆病者!」とみんなの前で大きな声で罵った。大基意外の連中は事情を知らないために、きょとんとした顔で金太を眺めている。理由がわかっている大基だったが、みんなの手前金太にいわせて置くわけにもおかず、「なんだと?」とすごんでみせたが、その言葉に被せるように金太はいった。

「おまえ、いつも偉そうなことをいってるが、結局は臆病者の意気地なしだったじゃないか?」そういいながら金太が開いた手のひらには、大基が取って来るはずだった消しゴムが握られていたのだった。

 金太に神社に行かなかった証拠を突きつけられた大基は、その後みんなに合わせる顔がなくなって学校に出て来なくなってしまった。心配になった金太は、クラスのみんなと一緒に大基の家に行き、そこではじめて彼の家庭事情を知ることになり、さらには不良グループから脱け出せないでいることも知らされることになる。

 そこで今度はロビンのメンバーとこれまで大樹のグループとが手を組んで「中曽根大基・救出作戦」を決行することとなった。

 改めてリーダーとなった金太は毎日大基救出の方法について頭を捻った。そして数日が過ぎた頃、金太の頭のなかで突然投光器が点灯したように名案が浮かんだ。早速みんなと相談をして実行に取りかかった。

 その名案というのは、不良グループの在籍する高校に匿名で告発状を送りつけることだった。上手く行くかどうか半信半疑だった金太たちだったが、これ以外に方法がないと考え、結果が出るのをひたすら待った。

 告発状の効果は意外と早く現れ、それ以後大基のところに不良グループからの誘いがなくなり、長いこと苦しんでいた中曽根大基は、金太たちに感謝をしそれ以後というものはイジメというものがまったく姿を消した。

                    (第1話「友情の交響曲」に収録)

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