銀の弾丸と機械姫

ゆーにー

新たな英雄譚

Prologue

ドゴゴゴゴゴーーーーン!!!!!


轟音が鳴り響く。

 その音はアラン帝国の最前線基地、将官クラスの部屋までにまで届く。

「ん、んーー! 良い朝だ」

そして、その音を目覚ましがわりにでもするようにその部屋の主が目を覚ます。

 本来ならここでモーニングティーでもいただきたい所だがあいにく外は戦争中。そんな悠長な事はしてられない。まぁ、そうでなくてもこの少年にそんな貴族や王族のような嗜みは元々無いのだが。

 少年がベットから降りるとドアのノック音がする。

「入れ」

青年は鋭くそう言うと勢いよくドアが開かれる。そして

「失礼します!」

と焦った声と共にドアが開ける。白いローブのような軍服。アラン帝国作戦参謀の着る軍服を着た金髪の青年だ。

「真斗様! 寝起きの所申し訳ありま」

「建前は言い。状況報告」

「ひ、失礼しました!」

と慌てて金髪の青年は敬礼し、現在の戦争の状況を説明する。

「朝方、午前ニ時十三分敵国が進軍を開始。それを我が軍が食い止めようとし、ただいま交戦中。

 最前線ラインからの後退はありません!」

「それだけか?」

「い、いえ! 先程、敵国通信が入り降伏せよ。さもなくざ魔華機(エリーゼ)により鏖殺をする、と」

金髪の青年の顔が曇る。

 だが、真斗と呼ばれる青年はそんな金髪の青年の知らないと言うように淡々と言う。

「三分待て。それまでに支度を終わらせる。その間に、今展開している全ての軍を自陣まで下げろ」

「! それは、降伏すると言う事ですか!」

金髪の青年は驚くよう言う。

 それを見た真斗は、ため息をつく。

「そうじゃない。なんの為に俺がいる。魔華機(エリーゼ)は俺が狩る。それに、仲間が巻き込まれては元も子もないだろう」

「失礼しました! そのように伝えます!」

そう言い金髪の青年は勢いよく部屋を出て行く。

「騒がしいな」

真斗は、後ろ姿を見ながらポツリと言う。金髪の青年の後ろを見送ると真斗は、手早く軍服を着て耳に通信機をはめ、腰にベルトを巻く。ベルトには弾丸が入ったポーチの他に他の銃の部品が取り付けられている。

 後ろのホルスターには一回り大きい二対のオートマッチグガンをホルスターに直す。銃身の下には刃が取り付けている為ホルスターも少々特殊だ。

 最後に愛用のアサルトライフルを肩にかける。

 真斗は、保存食であるスティックを齧りながら部屋を出る。

 向かうのはカタパルトのある発射場。彼はそこにある自分専用の魔鋼靴(マジックブーツ)を履くとカタパルトに乗る。

 と、そこで耳つけている通信機から声がする。

『真斗様?!』

「ハッチを開けてくれ。俺が出る」

その言葉だけで管制室の兵士は理解したのだろう。

『わかりました。ご武運を』

そして、ガコンと重たい音が鳴り響きハッチが開く。

「俊猊(しゅんげい)真斗(まさと)……参る!」

徐々にスピードが上がり、カタパルトを飛び出す。

 そして、一瞬にして景色が変わる。眼前に広がる景色は機械の空間から人が人でなくなる地獄に変わる。

(あの青年はちゃんと命令を下さしたみたいだな。そして、どうやら敵の参謀か頭が足りない……いや、この場合は常識人というべきか)

と冷静にそれでいて無機質にそう思う。そして、自軍が引いた事で勢い付いた敵国の軍の真ん中まで飛ぶと肩にかけていたアサルトライフルを構えてスコープを除き弾丸を装填する。

 そして、

「ふぅー……」

と、はやる気持ちを落ち着かせる為に息を吐く。

「〈散式魔弾(さんしきまだん)01メテオ〉」

引き換ねを引く。

 弾丸を放った衝撃で空中に浮かんでいる真斗の体は後方に退がるが、そこを足の角度と魔鋼靴(マジックブーツ)に流している魔力量で照準の修正を行う。

 そして、放たれた弾丸は光を纏い6つに分かれ敵国の軍の真ん中に直撃した。

 被弾した余波で砂塵が舞う。それが晴れるとそこにあるのは人であったであろう物体。

 真斗にとっては見慣れた、そして築き慣れた死体の山だ。

 真斗は足を曲げ空気を蹴るように足を伸ばす。

 一秒後。

 彼は元いた場所から60メートル離れたところに空いている。そして、そのまた1秒後。

 彼の横に極太な魔力の奔流が光学兵器として放たれた。

 それが数秒で止みふと下を向くとそこは高熱により湯気を上げ抉れた地面。そして、今先程まで生きていた人間の変わり果てた姿。

 真斗は数秒冷たく睨んでいると、突如地響きがなる。否、そう思わせる程の駆動音が響く。

 真斗は駆動音に目をやるとそこには深い紺色に薔薇の蔦のような鞭を持ち、肩に二つの砲門を持った巨兵が現れる。

 人々は、それを戦争の申し子と呼び人間の技術の結晶と呼ぶれる名を魔華機(エリーゼ)。

 現代戦争の華型と呼ばれるその姿を真斗は鋭く睨む。

 敵の魔華機エリーゼの肩の砲門が上下に動く。どうやら、狙いは真斗のようだ。その砲門から先程と同じ光学兵器が発射される。

 光学兵器は、地面とそこに立っている人間全てを巻き込み真っ直ぐ真斗に向かってくる。その速度は軽く音速を超えているすら思える。

 そして、その兵器は、余波の熱だけでも人間を殺す事ができる。故に真斗もそれなりに距離取る。

 砲撃が止むとまた下には人だった者達の成れの果てが転がる。

「雑兵は所詮雑兵、か。ま、合理的ではあるな」

兵士のそれも歩兵の命なぞここでは紙切れよりも軽い。そんな事真斗はとうの昔に理解している。

 それでも、味方を巻き込んだ攻撃を容認する事はどうしても出来なかった。と、そこで息を吐き真斗は頭を冷静にする。この怒りを力にする。

 この戦争に勝つ為に。

「さて、戦争の時間だ」

真斗は、両足を曲げそれに合わせて両足の魔鋼靴(マジックブーツ)に魔力を流し貯める。

 一気に解放する。その姿はまるで空にある見えない壁を蹴っているようだろう。

 空気を切り裂く音が真斗の耳に届く。

 視界が急速に変わる。常人なら耐えれるスピードじゃない。しかし、そんな事は知らないとばかりに真斗はよりスピードを上げる。

 スコープを覗くと急速に敵の魔華機エリーゼが近くなる。だが、真斗は止まらない。

 三十メートル、二十メートル、十メートルの所で真斗はグイッと急上昇する。その時腰に装填していた手榴弾のピンを抜き投げる。手榴弾は数秒で爆発する。

 しかし、その程度の爆発で傷がつくほど魔華機(エリーゼ)はやわじゃない。

 真斗もそれは理解している。故にこれは目眩しだ。

 真斗は、爆煙が止む前に煙の中から出るとスコープを覗き引き換えを引く。

 その弾丸は赤黒い光を纏い螺旋状に回る。それは、直撃する事により魔華機(エリーゼ)は多少ぐらつく。だが、ダメージはそんなにないようだ。だが真斗は気にしない。すぐに六発の弾丸が放つ。

 魔華機(エリーゼ)は腕を払い爆煙を払うとすかさず腕を振るい鞭を真斗に向ける。しかし、元々巨大な魔華機(エリーゼ)専用の武器が真斗に当たる事はない。だが、その風圧で真斗は体を吹っ飛ばされるがそこは足の角度を調整する事でギリギリ地面の激突を避ける。

 真斗は、もう一度上空に上がる為に魔力を溜めるがそこを見逃す程、魔華機(エリーゼ)は敵は優しくない。

 肩の砲門が真斗を狙うように下に向く。砲門の奥が怪しくゆっくり光った。

 そこで真斗はニヤリと笑い真斗はパチンと指を鳴らす。

 それに反応する様に魔華機(エリーゼ)の機体に黄色の術式が六つ現れ、そして6つの術式は線で結ばれ一つの術式を形成する。

「〈術式魔弾01雷神(トール)の鉄槌(ハンマー)〉」

突如、魔華機(エリーゼ)は巨大な紫電に襲われる。

「終わりだ」

そして、トドメの一発とばかりライフルを構えて引き金を引く。

 その弾丸は彗星のように尾を引き銀色に輝いていた。

 そして、その弾丸は魔華機(エリーゼ)の胸を貫ら抜いた。

 魔華機(エリーゼ)は、正気を失ったように膝から崩れ落ちた。

 この日、この時をもってサイラ前線での戦争は終わりを迎えた。


          ♢♢♢


「はぁー……ひっく」

真斗は、勝利した高揚と酒での高揚を噛み締めながら自分の部屋に戻った。

 別に自軍の仲間と飲むのが嫌だ、とかでは無いのだがどうも大勢の者と飲むという行為は慣れない。

 故に、真斗は早々と基地でやっている戦勝パーティーから離脱。

 自分の部屋に戻り横になる。

 酒による眠気だろうかベットに横になると瞼が重い。だが、そこをグッと我慢する。

 後数分もすれば新たな命令が届く。そうしたら、新しい戦場に行き敵を殺す為の準備をする。

 これが彼のいつもの日常。

 他の者からすれば勝った余韻に浸る事もなく新たな戦場に行くというのは耐え難い苦痛かもしれないが彼はもう何も思わない。

 真斗がベットで横になっていると部屋に備え付けられていた魔具(アイテム)が光だす。

 真斗は、ゆっくりベットから上体を起こすと、魔具(アイテム)に触る。

 真斗の目の前に半透明のパネルが現れる。

「こちら真斗」

『ニャハハハハ!! よぉ、真斗! 元気にしてたかー?』

ブチッ

真斗は、魔具(アイテム)から手を離す。

 パネルが消失する。

「はぁーー」

真斗は溜め息を吐く。そして、思考を冷静にさせる。

(落ち着け、落ち着け。アイツは確か、今はどっかの紛争地域でなんかのテロリストのスパイをしてるはず。俺に連絡ができる訳が無い……そうだ。今のは幻聴。そういう事にしておこう)

と、そこでまた魔具アイテムが光だす。しかも今度は点滅。

 早く取れ! とまるでさいそくしているようだ。

「真斗です」

『ヨォー真斗ー。酷いじゃねーかー』

「お前、ミトだよな」

『うん? そうだぜー』

「……俺とお前の襲撃勝負」

『53対53。1引き分け』

「はぁーー。やっぱりお前か」

真斗の頭には赤髪にアーモンド型の瞳をしたまるで猫のような女の悪友の顔が頭に浮かぶ。

「けどお前、今任務中だろ」

『あー、今終わった』

「そうかよ。で、なんで俺に連絡を? まさか、俺の声が聞きたかったとかいうなよ」

『お前の声が聞きたかったー』

「切るぞ」

真斗は今にも手を離そうとする。

『ニャハハハハ。冗談だ。今回は伝言を伝える為にかけたんだよ』

「伝言? 誰からだ」

『名目上王様』

「……軍部……か」

真斗雰囲気が変わった。今までの緩い雰囲気から糸がピンと張ったような空気に変わる。

「という事は」

『あぁ、任務だ。次のお前の任務は』

真斗は唾を飲み込む。自然と体に力が入る。

『ピューリアス学園で教師をする事だ』

「……はっ」

空気が固まった。ただ悪友の笑い声のみが響く。

『ニャハハハハーー!!!』

「本当に怒るぞ」

『それがマジなんだなー……ニャハハお前が教師……ニャハハハハー!! 考えるだけでも笑える』

「黙れ……で、それマジか」

『あぁマジだ』

真斗は思考する。

 いきなり「教師をしろ」という命令。何か裏があるのではと深読みする。だが、正解が出ない。

 そこに悪友であるミトの声が響く。

『理由なんて意外に面白いからじゃねーの』

「……」

(あるかもしれない)

真斗は、軍部の事を考えてげんなりした。

 軍部とはこの国の軍の上層部の事である。そして、名目上は真斗の上司なのだが……実質、真斗はこのアラン帝国帝王の直轄の部下のようや存在でもある為、正確に言えば言えば真斗に命令を出すのはお門違いだ。

 また、これは真斗の私情なのだが軍部の事をあまり信用していない。そして、それは軍部も同じだったりする。

 と、そこで真斗は試行を止める。

《考えるな。兵はただ上の命令に従うのみ》

師匠の言葉を思い出し真斗は口を開く。

『で、どうするんだ?』

「はぁー……分かったよ」




 

 

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