第38話 同情

「まあ、敏雄君から聞いたのはこんなところかな」


 そう言って、母さんは父さんと紗希との過去を語り終えた。


 なんだよ。そんなことがあったのかよ。


 というか、たぶんこれって。


 父さんは紗希が不幸をもたらしたと考えているようだが。


 紗希のそれって多分だけど、未来を見たってことだよな。


 そんなすれ違いってありかよ。辛い。辛すぎる。


 今まで、紗希が家族の話になったときバツの悪そうな表情になるのはこういう事情があったからか。


 親友、いや、人生の恩人を失って辛いという父さんの気持ちもわかる。ただ。ただな……


「いつもの優しくて誠実な父さんなら、紗希を一方的に拒絶なんてしないはずだ!」


「そのくらい光司君を失ったという代償が大きすぎて、極限まで追い込まれていたのよ」


 母さんは「それでね」と言って言葉を続けた。


「そのくらいって強く決心したんだよ」


「ッッッ!!!」


 そうか。父さんそこまで……


 でも不思議な心地だった。父さんの僕への思いの強さに感銘を受けはしたが、それを聞いて父さんありがとうという気持ちにはならなかった。


 父さんは間違ってないけど、間違ってる。


 自分でもよくわからないが、現状に、紗希と一緒にいられないこの状況は絶対に嫌だと僕の深い部分、核がそう訴えている。


「でも僕は紗希と一緒にいられないのは嫌だ。父さんに守られる筋合いはない。僕は僕のやりたいようにやるぞ!」


「そういうところは父さんにも、そして光司君にもどこか似ている気がするわ」


「紗希の父さんに?」


 思わぬ母さんの言葉に興味がわいた。


「ええ。光司君は医者になるって言いだして最初は無理だって止められてたんだけど、『自分が決めたことだから誰にも邪魔はさせない』ってよく言ってたわ。そういう自分を貫くところがさっきの凌太と重なってね」


「そうだったのか。でも僕は紗希の父さんに会ったことはないよな?」


「一度だけあるわ。光司君が我が家に訪問したことがあってね。でも凌太はガチガチに緊張しちゃって、全然話してなかったから印象に残ってないのも無理はないわ。結局光司君が帰るときにちょろっと手を振ってただけだし」


「そうか……」


 僕はふと何かが思い出せそうな気がしたが、あとちょっとでそれは儚く消えてしまった。


「紗希ちゃんが、敏雄君のこと覚えてないのも当然だと思う。だいぶ昔に一度会ったきりだしね」


 そのまま続けて、母さんがこう言った。


「まあ、凌太ならお父さんの言いなりにならないと思ってたよ。このことは黙っててあげるからあとは凌太が頑張りなさい」


「ああ。言われなくてもそうするつもりだ」


 そう言って僕は自室に入り、紗希へ連絡を取ろうとした矢先、五人のグループチャットに紗希のメッセージが入った。


『今度、私、用事ができて遊べなくなったの。ごめんね』


 絶対父さんにさっき釘を刺されたからだ。紗希はそういう女の子だ。僕は知っている。


 でも僕はなんて反応したらいいかわからず、そのまま放置してしまっていた。





 その翌日。


 個人で紗希に送ったメッセージも既読が付かないし、電話もつながらない。


 どうしたものかと頭を悩ませていたとき、黒野からこうメッセージが届いた。


『凌太、冬知屋さんと何かあった?』


 こいつはほんと察しの良い奴だ。


 家族絡みの問題に赤の他人を巻き込むのはどうかと思ったが、僕一人ではどうしようもなかったので、相談に乗ってもらうことにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


最近シリアス続きですみません〜


明々後日にはシリアス展開終わっていると思います。

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