第40話 巻き込まれトラブル

(何故、こんなことになったのか)


 今、オレの目の前には、姫様の完治記念パーティーで出会った勇者の子孫と名乗るシビル・キャクストン・ナオトという人物が立っていた。


 豪華絢爛という言葉が似合うような、真っ赤な鎧を身にまとっている。戦うための装備というよりも、目立つための格好のように見える鎧だ。若くて、カッコいい顔をしているので、よく似合っているとは思う。そんな身なりをしている勇者の子孫は、殺気立った目でオレを睨んでくる。


 その手に剣を握り、切っ先はオレに向けられていた。




 パーティーの翌日。何時も通り、姫様の経過観察を行って、肺や肝臓、胃など体の器官に異常は特に見られないことを確認した。パーティーの疲れも特に無いようで、安心した。


 診察を終えて、部屋から出ようとした時だった。シビル・キャクストン・ナオトが無言で姫様の部屋へ入ってくる。何事だと、部屋に突然入ってきた男を見て、昨日のパーティーでの出会いを思い出しながら、オレも無言で彼を見返した。


 彼は、オレに視線を返したと思ったら、付いて来いと言った。


 最初から、姫様の部屋に居たオレを探しに来たのだろう。彼は姫様に目もくれず、それだけ言うと部屋を出ていく。用件も分からないまま、とりあえずオレは彼の言う通り、あとをついて行く。


 城の廊下を歩く間も無言で、スタスタと先に行ってしまう勇者の子孫。用事は何か分からぬまま、城の兵士たちが使う修練場に辿り着いていた。


「構えたまえ」

「は?」


 シビル・キャクストン・ナオトが、オレに向かって静かにそう言った。光り輝く、飾り付けられた目に痛い剣をまっすぐとオレに向けて。


 勇者の子孫はオレに何の説明もなしに、戦いを仕掛けてきた。状況が理解できず、間抜けな声を出してしまった。彼の声には、殺気がタップリと込められていた。


(構えろ、だって? オレ、何か彼の気に障るようなことをしたか?)


 なぜ彼は、こんなにも殺気立っているのだろうか。


 何か原因があったのかと記憶を思い返してみるが、思いあたるフシがない。昨日のパーティーでは自己紹介をしただけで、別れたはず。記憶を辿ってみるが、その場面でも彼がこんなにも殺気立つ理由が思い当たらない。


 なので、彼に聞いてみる事にした。


「なぁ。オレ、あんたに何かしたか? 何でそんな殺気立って……」

「問答無用」


 質問を無視して、斬りかかってきた。突然の事で驚きながらも、オレは急いで腰の剣を抜き、彼の攻撃を受け止める。レベルが高いおかげだろうか、勇者という職業をセットしていたおかげなのだろうか、目の前の攻撃にも難なく対応できた。


「ちょ、ちょっと待てって」


 斬りかかられる理由を知りたいオレは、彼に何故を問うが、聞き入れられない。


「聞く耳を持たん」

「チッ! 何なんだ、一体これは」


 次々に繰り出される攻撃を受け続ける。縦横無尽に剣を振り回す、目の前にいる男の太刀筋は、見ていて綺麗だと思うほどだった。が、今のオレは異常なレベルアップによるステータス値の上昇で、軽々と対応できていた。


 切り上げ、切り落としの二段階攻撃を繰り出す。スキル攻撃か。それを受けると、彼は後ろに飛び上がって距離を離してきた。


「あの女の言うとおり、なかなかやるようだな」

「あの女って?」


 聞くが、返事は魔法で。あの女、というのが今の出来事を引き起こしたらしいが、やはり思い当たるフシがない。


「炎の精霊よ、闇を払う炎を発現させよ、ブレイズブロウ」

「くそっ、ファイヤーボール」


 魔王との対決のときにも使用した魔法、ファイヤーボールを放った。とっさに出してしまう魔法は、いつもファイヤーボールだなと思いながら魔法を打ち返す。相手の魔法と、オレの魔法が間でぶつかり合った。


 相手の放った魔法は競り負けて、霧散する。


「なにっ!?」


 自信のある魔法だったのか、その魔法が打ち消されて驚愕の声を出している勇者の子孫シビル・キャクストン・ナオト。


「ぐあぁっ!?」


 そのまま呆けて、避ける動作もせずにオレの放ったファイヤーボールが命中する。


「熱いっ」


 彼の体に火がつく。肩パッドにファイヤーボールの火が燃え移った。彼は、地面の上にゴロゴロと転がりながら、肩パッドに移った火を消した。無様だった。


「くそう、こんなはずでは……」


 彼は立ち上がると、汚れてしまった真っ赤な鎧に付いた土を払って、なおもオレに向かって殺気の目を向けてくる。


「本当に、オレが何をしたんだよ。理由を教えてくれ」

「覚えていろ!」


 捨て台詞を吐いて、シビル・キャクストン・ナオトは走り去っていった。本当に、一体何だったんだろうか……。



 後日、彼が何故あんなにも殺気立っていたのか、なんとなくの理由は分かった。


 勇者の子孫が言っていた“あの女”とは、魔王の事だったらしい。城の中で、魔王と勇者の子孫が偶然出会って、いざこざがあった結果だという。


 どういう出来事があったのか魔王から話を聞いたが、よく分からなかった。魔王が勇者を挑発して、そして何故か、その矛先がオレに向けられたらしい。


 それからというもの、勇者の子孫シビル・キャクストン・ナオトはオレを襲撃してくるようになって、その対応に追われる日々が続いた。

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