第38話 姫様完治記念パーティ

 姫様の快復は、すぐ国中に伝えられた。姫様が病気だった事については、隠された情報である。しかし、どこからか情報が漏れてしまい国民にも知れ渡っていた周知の事実でもあった。


 姫様が快復したことについても、すぐに知れ渡ることになった。国民にも人気で、慕われていた姫様の完治を祝って、国民の皆が喜びながらお酒を飲み交わしていた。城下町の酒場は連日、姫様の快復を祝って非常に繁盛しているという。


 城の方でも女王が主導して、国中の貴族たちが集められて、姫様の完治を祝うためのパーティーが開かれる予定だそうだ。オレは姫様から、そんなパーティーの詳細について聞かされた。


 それから、そのパーティーに出席してくれないかとお願いされたので、その催しにオレも参加することになった。


 


「本当は、あまり大々的にして欲しくは無いのですが……」


 姫様は、祝ってくれることは嬉しいけれど、あまり大事にしてほしくは無いらしいようで、貴族たちを集めたパーティーを催されるのは複雑な心境だと話した。



「それだけ皆から大事にされている、ということですよ。さて、今日も体調に問題はないようですね。夜は、しっかり眠れていますか?」

「はい、夜中に目が覚めることもなく、朝までぐっすりでした」


「うん。それは良かった」


 本人の申告通り、眠気もなさそうだし大丈夫かな。肺の治療を終えてから、他には特に悪そうな部分も見当たらなかった。


「食欲はありますか?」

「えぇ、朝食もパンをお代わりしてしまいました」


 食欲も、しっかりとあるようだ。問診してみて特に異常も見当たらないし、問題は無いようだから、よかった。医者のスキルを駆使して、彼女の健康状態を、くまなくチェックしていく。見落としはないように、注意して。


「大丈夫なようですね」

「えぇ、ありがとうございます」


 いつもの診断を終える。経過観察でも特に異常は見られず、順調に健康状態が続いている。


 姫様の診察を終えた後。オレは城の中にある図書室に戻ってくると、勇者に関する資料を集め始める。


 こちらは、あまり順調に進んではいなかった。勇者に関する物語、逸話、伝説などありとあらゆる数があって、本当かどうか真偽も疑わしいものもある。そんな中で、特に記述が少ないのが帰還に関する情報だった。


 勇者は最後に自分の国へ帰っていった、ということは分かる。だがしかし、それがどんな方法なのかという事、何時、なぜ、情報が欲しい。


 そんな風に診察と調べ物をして日々を過ごしていると、いつの間にかパーティーの開催される日となっていた。時間が過ぎるのは、あっという間だと感じる。


 姫様に、パーティーには参加すると約束をしていた。オレは、パトリシアを一緒に横につれて、パーティーが開かれている大広間に行こうとした、のだが。



「ユウ様、パトリシア様、お待ちください」


 大広間へ向かう途中、警備をしていたらしい女兵士に呼び止められた。何事だろうか。


「ん? どうした?」

「こちらに、お召し物を用意しましたので着替えていただけませんか?」


 そう言われて、自分の格好を確認してみる。確かに、オレの今の格好というのが、いつも着ている旅人の服で、今から参加しようとしているパーティーという場所には相応しくないかもしれない。



「うん、わかった。用意してくれてありがとう、着替えてくるよ」


 用意してくれたという衣装を受け取って、一度、自分の部屋に戻ってくる。すぐに着替えた。スーツのような、この世界では珍しい作りの服。こんな感じかなと、服を変えて部屋から出てきた。


「その服、似合ってるわね」

「そういう、パトリシアもね」


 着替えのために別れてから、再合流したパトリシアも、オレと同じような真っ黒なスーツに、マントを羽織っていた。


 似合っているよと褒めると、嬉しそうにしていた。着替えを終え、気を取り直してから、大広間へと向かう。


 大広間には、既に何十もの人たちがいて、会話や食事を楽しんでいるようだった。彼女たちは、貴族だろうなと思われる高貴な見た目をしている。オレたちの格好とも同じ、スーツのような服装を着ている。この格好が、貴族の姿ということかな。


 外から見てみたところ、広間に集まった人たちの男女比はやはり女性が多いように見えた。その中には男性もいるが、人数は少ない。


 オレたちは、広間の中央付近に集まっている人たちの中には混ざらすに、壁際の方に寄って、他の人達の会話に混ざったりもせずに、ボーっとしていた。


 


 10分ほど、そうして待っていただろうか。女王と姫様が広間に現れた。女王は、真っ赤なスーツ、姫様も同じ色の真っ赤なドレスを着ていた。2人は、パーティーの主役であるとひと目で分かる、とても目立つ格好をしていた。


 姫様が、今回のパーティーの主役である。食事と会話を楽しんでいたお客たちが、パーティーに参加するため集まった人たちの視線が、2人の方に向けられる。


 姫様のもとに挨拶しに行くのは、集まった客たちが一段落してからでいいだろう。今行くと人混みで大変そうだし、後回しに。


 客たちが、食事の置いてあるテーブルから離れて空いた隙に、そばに近寄り食事を堪能する。パトリシアも一緒に、スペースが空いた場所に来て食事を楽しんだ。


 豪勢なパーティー。出てくる食事の旨さも十分で、オレは、とても満足していた。そんな風に食事を楽しんでいる最中だった。人だかりになっていた輪が、こちらへと徐々に近づいてくる。




(挨拶が終わったかな?)


 集団の人々が近づいてくるので、食事の置いてあるテーブルから離れようと思った時、声を掛けられた。


 


「ユウ様」


 姫様だった。来賓客たちが彼女の両脇に付き従うようにして、姫様とオレの間には立たないようにしている。貴族だと思われる者たちの目線が、オレに集中する。まぁ気にしないようにしよう。


「完治おめでとう、ローレッタ様」


 オレは、とりあえず姫様にお祝いの言葉を伝える。


「ユウ様に治療していただいて、今日を迎えることが出来ました。本当にありがとうございます」

「いえいえ、そんな!」


 頭を下げて、お礼を言われる。そして彼女はそれだけ言うと、また客たちの相手に戻っていった。



(うーん、注目されていたな)


 姫様の方から声を掛けられたので、周りに居た人たちからの注目を浴びていた。

 興味深そうな目線を向ける者も居れば、物騒な鋭い目つきを向けてくる者もいた。厄介なことにならなければいいが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る