第16話 推薦状
草原へ向かっている途中、クララから積極的に話しかけてくれた。見た目は、全身黒で人を寄せ付けないような格好をしていると思ったが、意外と社交的な人らしい。
「今、レベルはいくつだ?」
レベルを聞かれた。これも、推薦状を書くための質問なのだろうと考えたオレは、正直に答える。
「冒険初心者Lv.100です」
「ひ、ひゃく? 本当に、冒険初心者でLv.100だって言うのか?」
慌てた様子でオレにレベルを聞き返す、クララ。これ以上は上がらない最大値まで上がっているのは、変だったかな。
「はい、そうですが。なにかマズイですか?」
「マズイというか、聞いたことがないな。普通、冒険初心者はLv.20に上がったらすぐに上位転職するというのが普通だからな。上げたとしても、Lv.30ぐらいまでしか聞いたことなかったんだが、Lv.100か……」
そうか、上位転職はLv.20から可能だったのか。オレは、それを知らなかった。
でも男性受付にレベル玉という道具を使って見せたこともあったが、上位転職のことについては何も言われなかったし、そこまで驚かれなかったような記憶もある。
とりあえず絶句しているクララに、オレはさらに質問してみる。
「その上位転職って、どうやるんですか?」
「冒険初心者からの上位転職ならば、街のギルドで販売をしている、転身の衣というアイテムを買って、それを使うことで上位の職業にレベルアップすることが出来る。しかし、そのレベルがあるなら、戦闘能力を見るまでも無いかもしれないな」
条件を満たしていればアイテムを買ってきて使うだけで、上位転職できるらしい。やはり、ゲームのような世界だった。
推薦状を入手したら早速、その転職アイテムを入手しよう。次の目標が決まった。しかし、またお金が必要になりそうだ。
***
そんな会話をしているうちに草原に到着。そこに居た、何匹かモンスターを狩って見せた。
町の近くに生息しているモンスターは弱くて、一撃を加えるとそれだけで倒せる。次々と仕留めていく。その様子をジーッと見ていたクララは腕を組み頷いて、オレの観察を続けていた。
「もう少し、戦いを見てみたい。森の方まで行ってみるか」
「はい」
クララが、そう提案し、草原から森の方まで行くこととなった。森の方には、ここよりも強いモンスターが出現する。
森に住むモンスターは、草原のモンスターに比べて動きが少々速かったが、特に苦戦せずに仕留めることが出来た。その様子も、全てクララが観察していた。
「魔法は、使えないのか?」
「え? はい、魔法はまだ使えません」
今後修得する予定だが、まだ魔法使いの職業の取得の仕方が分かっていないため、魔法スキルを習得できていない。今のオレは、魔法を使うことが出来なかった。
「そうなのか。男性なら、そんな風に剣を振るうんじゃなくて、魔法で戦う物ばかりだと思っていたが」
どうやら、男性は魔法を使って戦うらしい。オレのように剣を振るう男性が珍しいというクララ。どうやらまた、オレの常識が異なっている。
「実力については、十分に分かった。町へ帰ろうか。推薦状は街で書いてやろう」
どうやら、推薦状を準備してもらえるようだ。よかった。
オレたちは、すぐに町へと戻っていた。
ギルドに戻ってきたオレたちは、出会った時と同じようにテーブルを挟んで対面で向き合い、席に座っている。クララは懐から、何かの紙を取り出した。
「推薦状の用紙は、ギルドから受取済み。あとは、ココに私の所感とサインをして、っと」
サラサラと、紙の上に文字を書いていくクララ。ちなみに、クララが今書いている紙というのは、現代にあるような真っ白いモノではなくて、羊皮紙と呼ばれるモノのようだった。
「ほら、書いたぞ」
クララに書いてもらった推薦状を受け取る。確認をするために、目を通していると彼女が話しかけてきた。
「ところで、ユウは今、特定のパーティーとかに入っているのか?」
「パーティーですか? いえ、今は1人です」
マリーと一度パーティーを組んだが、今は解消している。彼女の仕事は門番だし、冒険者のパーティー仲間、というわけではない。だからオレは今、1人。
「そうか。良ければ、私たちのパーティーに加わらないか?」
勧誘ということか。オレは誘ってもらったし、一度彼女のパーティーに入ることを考えてみた。だが、まずはやる事をやってからにしようと思って、やんわりと断りを入れる。
「そうですね、考えておきます。まずは、この推薦状を提出して冒険者身分証明証を発行してもらわないと」
「うん。そうだな、私たちのパーティーは、毎朝か夕方にはギルドの建物に居るからな、よければ話しかけてくれ。会えて良かったよ」
座っていた椅子から立ち上がって、クララが手を差し出してきた。オレも同じように席から立ち上がって手を差し出し、握手する。
ガッチリと固い握手を交わした後、クララさんは直ぐにギルドから去っていった。オレは、たった今書いてもらった推薦状を手に持ちながら、男性受付と話をするためカウンターの方へと歩き出した。
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