第7話 買取

「えっと、ヤマノ草2つに、素材用の青い宝石2つ。合わせて、1000ゴールドで引き取らせてもらいますよ」


 渋い顔をしている店のオヤジに、町の周辺でモンスターを手に入れてきたアイテムを鑑定してもらって買い取ってもらう。入手したアイテムは、マリーの予想していた通りの価格で1000ゴールドになった。


「それで、お願いします」


 オレの答えに頷いて、アイテム屋のオヤジが金庫から1枚のコインを取り出した。それを、受け取る。これは1枚で、1000ゴールド分の価値ある硬貨なのか。


「はい、じゃあ1000ゴールド、コイン一枚ね。お間違いなく」

「どうも」


 オレは鑑定に出したアイテムと引き換えに、初めてこの『Make World Online』の世界で、お金を手に入れた。


 『Make World Online』で初めての出来事があった後には、念の為にログアウトを試してみる、という習慣が出来ていた。今回もログアウトを試してみたけれど、残念ながらログアウトできず。結局ダメなのかと、ため息をついたオレ。


 店の外で待っていてくれた、マリーと合流する。


「アイテムの換金は、どうだった?」

「マリーの言ったとおり、1000ゴールドに成りました。コイン1枚ですが、これどう分けますか?」


 俺は、アイテムと交換してもらった1000ゴールド硬貨を手のひらの上に載せ、マリーに見せながら言った。どう分けるのか、マリーが小銭を持っていればいいけどと思いながら、俺は聞いた。


「そのお金は、全額貴方のものだよ。取っておきなさい」

「いや、しかし、狩りを手伝ってもらいましたが……」


 アドバイスをしてもらって、モンスターを倒していった。付き合ってもらった分、幾らかお金は分けないといけないと思っていたのだが、マリーは頑なにオレからお金を受け取ろうとしなかった。


「いや、手伝ったと言っても見ていただけ。それに、モンスターを倒したのは貴方の力だからね。私は見てただけ」

「うーん……。そうですか。それじゃあ、ありがたく頂いておきます。正直言うと、かなり助かります」


 マリーにお礼を言って、ありがたくもらうことにした。言葉の通り、今はちょっとでもお金が欲しかった。無一文は辛い。


「と、ところでユウは今日、泊まるところは決まってるのか?」


 そういえば、町に来たばかりだし泊まるところを探さないと。マリーの問いかけに宿屋を探さなければいけないことに、気がつく。


「まだ、泊まるところは決まっていないのです。いい場所は有りますか?」

「そ、そうね。お金はあるの?」


 マリーは何やら緊張しながら、そんなことを言う。お金があるかどうか、正直言うと今手に入れた硬貨が全財産である。


「いえ、お金はこの1000ゴールドだけですよ」


 持っていた1000ゴールド硬貨を腰に下げている袋の中に大事にしまいながら、オレは正直に言った。宿屋の料金の相場なんて分からないが、1000ゴールドだと泊まるのは厳しいかと考える。最悪、宿屋なんて借りなくてもゲームなんだし、夜が明けるのを町の中で適当に待つか。


「そ、それならさ、ウチに泊まっていけば?」

「え? マリーさんのお家ですか? 宿屋なんですか?」


「いいえ、違うわよ。普通の家。でも、この街の宿屋は高いからさ、ウチに泊まればタダで済むわよ。家には、部屋が沢山余っているし、泊まらせてあげるよ」


 マリーの言葉が本当なら、すごく助かるな。今は少しでも冒険者身分証明証を発行してもらうため、必要な25万ゴールドを貯めるために節約したい。


 色々と都合がいい。もしかして、ここまでが正規ルートなのかもしれない。マリーに協力してもらって、お金を貯めるというのが最初のクエストなのかも。


 そうじゃなかったとしたら、マリーは美人の女性だと言うのに不用心すぎる。町の門番を務めているぐらいだし、それなりに戦闘能力に自信があって戦えるのだろうが、それでも危ないだろう。


「良いんですか? マリーの家に泊まらせてもらっても?」

「歓迎するわよ、ぜひウチに泊まりに来なさい。出会ったのも何かの縁だし、家まで案内するわよ。ついて来て」


 オレが確認すると、マリーは喜びながら歓迎するという。それから、さっさと歩き出したので、オレは急いで彼女の後ろをついて行った。


 町の中、建物を間を慣れた足取りで進むマリーの後ろをついて歩いていく。そして着いた場所は、少し古ぼけた建物だった。ここが彼女の家なのか。


「どうぞ、中に入って。楽にして」


 扉を開けて、招き入れてくれるマリー。

 彼女の家の中に招き入れてもらい、部屋へと案内される。ベッドもあり、休むには十分の部屋だった。


「お腹も空いてるでしょ。食べなさい」


 そう言って、夕食も用意してくれた。正直、かなり腹が減った感覚があったから、助かった。なぜこんなに親切にしてくれるか聞いてみると、どうやら俺が男だからというらしい。


「女の私が、男性を助けるのは常識でしょ?」

「は、はぁ。ありがとうございます」


 食事の後、オレは借りた部屋へと行き、ベッドの上に寝転がる。なぜ今、こうしているのか考えてみた。


 もしかしたら、俺はいつの間にか『Make World Online』というゲームのプレイをキッカケに、異世界トリップというモノに巻き込まれたんじゃないかと、そんな考えに行き着いた。というか、ずっと前から薄々感じていた。


 異世界トリップなんて小説の読み過ぎだろう、現実のことじゃないとも思ったが、あまりにもリアルな世界、NPCと思われる人間のプログラムとは思えないリアルな挙動、会話の内容もしっかりとした応答。


 そして、ログアウトが出来ないという状況。異世界トリップと考えるとおかしな点もいくつかある。ひとつは、ステータス表示がゲームの仕様通りにコールと共に表示されることだ。ゲーム的な要素が残っている。これは、一体どういうことだろうか。


「ステータス・オープン」


 口に言って、目の前にステータスが表示される。オレは、ステータス数値について改めて確認してみる。


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ユウ

Lv.66


STR:301

CON:396

POW:660

DEX:559

APP:21


職業:冒険初心者

EXP:1320

SKILL:61


スキル:全力斬り Lv.5


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 間違いなく、ゲームのような表示である。目の前に浮かび上がるステータス表示を見て、そう思った。


 もう1つ、頭のなかに流れてくるシステムアナウンスについてだ。レベルアップをした時、パーティを組んだ時などに頭のなかに流れる誰かの声、異世界だとしたら、これはどんな原理でオレの頭の中に流れているのか。


 異世界トリップなのかもしれないと考えてみたが、ゲームの仕様も残っているし、不思議な世界。


 俺は、数々の疑問を頭に残しながら疲れで眠りについた。

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