第2話 Phone rings

ピルルルルルル…

けたたましく携帯電話の呼び出し音が部屋に響いた。

(うぁ…!? 目覚ましが鳴ってる? 

いや、携…帯? あれ?どこに置いてたっけ?)

うつらうつらしていたしていたアレックスは現実に意識を引き戻された。

半分寝ぼけながら寝る前に置いた自分の携帯の場所を思い出そうとしていた。

思い出せなかった。

呼び出し音は鳴り続けている。

(あ…ん、やかましい…な)

そう思いつつも面倒がって身体は動かなかった。

10回。

15回。

20回とコールが切れることなく続く。

この電話に出なければ一生鳴り続けるぞと脅しているように。

あまりの五月蝿ささにようやく手がピローやベッドのあたりを探り始めた。

ポン、ポンと手がシーツの上を跳ね回っていた。

(携…帯…、どこだ!?)

顔を振ったので載せていた本が床にバウンドした。

指先に冷たくて堅いものが触れた。

それをぎゅっと握りしめた。

ようやくの発見だ。

携帯は彼の耳元。

ピローのすぐ横にあって、鳴り続けていたのだ。

親指を使って、通話のボタンを押した。

「はぁい!!」

目を見開いて、大声で怒鳴るように言った。

「……」

沈黙。

電話の向こうにいる相手は言葉を発しなかった。

アレックスもその一言っきり何も発しなかった。

(なんだぁ~悪戯電話か!?)

いい気分で寝ていたのを邪魔されたものだからちょっとムカついてきた。

PWRHLDボタンを押して、通話をやめようとしたその瞬間。

「アレックス・オッドさん?」

若い男の声だった。

「そうですけど。あんたは?」

一度、携帯を耳から外して電話番号を確認しようとした。

非通知の表示が出ていた。

また再び耳にあてがった。

「……」

男は再び黙り込んだ。

(何だこいつ?)

仕事柄恨みを買うことが多いので、最近のことを思い出していた。

それでも思い当たる節はなかった。

受話器の向こうの男は感情を出さないようにまたボツボツと話し始めた。

「彼女を預かっている。」

「!?」

「返してほしければ、」

「預かっただとっ!?」

「Central Parkのstrawberry field西へ来い。もちろん独りで…だ」

アレックスの言葉には耳を貸さず一方的に男が話し続けた。

誘拐の二文字が頭をかすめる。

壁にかかっている時計に目をやった。

彼女が部屋を出て行ってから優に5時間は経過している。

食料品の買い出しだけに5時間はかかり過ぎだ。

とうに日は沈んでいる。夜のNYほど恐ろしいところはない。

男性を伴ってならいざ知らず、彼女独りでは…。

おまけに彼女はスコットランド貴族の血を引いている。

誘拐にはうってつけの存在であることに違いない。

「おい、ローナの声を聞かせろ!」

努めて冷静に、感情を出さないように対処した。

だが、精神安定剤の煙草がないためそれ以上に思考が働いていなかった。

「……」

「で、なければ信じられないね。そんな悪戯電話はよくかかってくるんでね。」

「30分後に、指定の場所で………プツッ」

彼の揺さぶりのかいもなく通話は一方的に切られてしまった。

「くそっ」

無造作に携帯を閉じるとベッドの上に投げ出した。

何度かバウンドして、シーツの上に落ち着いた。

ちっと舌打ちをすると、アレックスはいらついたように頭を掻いた。

「あんのお嬢様ばかがwww 面倒ばっかりかけやがってぇ」

口では文句を言いつつ、ピローの下に手を滑り込ませ何かをつかんだ。

鈍い光を放つリボルバーが握られていた。

左手で銃身を持ち、指で強く押すと左側に弾倉が飛び出した。

ポケットに手を突っ込み、ジャラジャラと金色の何かを数個取り出し空いている弾倉にひとつずつ丁寧に込めていった。

全て入れ終わると右手を右に強く振った。

バチン!

と、重たい音がして弾倉がモトの位置に戻った。

セイフティ1の状態になっていることを確認してホルスターに収めた。

習慣というのは恐ろしい。

胸ポケットに入っているはずの物に手を伸ばそうとしてハッとした。

いつもならここで煙草を取り出して、火をつけるのだが。

今は禁煙中。

イライラが最高潮に達していた。

断片的な思考を整理しようと2、3度深呼吸をした。

(それをしたからといってどうなるものでもないのだか…)

彼の思考展開の一部。


前提条件:ローナが誘拐された!?

彼女は殺されるかもしれない。今、生きているのか!?

殺させるわけにはいかない。助けに行くべきか?

No! 助けに行かなければならない。

なんで俺が…

なんたってお嬢様だからな

世間知らず のほほん あほ 箱入り娘

箱? 部屋の外に出なきゃならないじゃねーか

かったりぃ~

煙草がねぇから頭がハッキリしねぇよ

あぁ煙草が吸いたいっ

手元に煙草がない! 吸いたいのに

ムカムカムカ…(だんだん苛立ってくる)

何のために俺は禁煙してるんだっけ?

ムカムカムカムカムカ…(はっきりいって腹を立てている)

煙草を手に入れるには外へ行くしかない。外へ。ローナのもとへ

結論:ローナを助けに行けば、煙草が吸える


と、いう無茶苦茶な思考展開で納得したアレックスは黒いジャケットを着込み、サングラスをかけ部屋を飛び出して行った。

それはいつもの彼だった。

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