第8話 応援隊長

 今日はクリスマスイヴ、パパと一緒にお姉ちゃんを迎えに行く日です。


 おじさんを『パパ』と呼び始めたのはついこの前からです。あの忌まわしいレイプ未遂事件があって、北島家にお世話になり始めて少し経った頃、いつから続いているのか定かではないが、いつものように就寝前の、お姉ちゃんと二人だけのスマホの中での茶話会、最初の頃は、挨拶に毛の生えた内容だったが、最近では、お互い人生相談になる事も屡々(しばしば)である。その日、お姉ちゃんから、彼氏が出来た事を報告された。相手は大学生で、バド部の友達の兄だそうだ。友達の家に何度か行って、お互いに気になったそうです。そして告られたそうです。その後スマホ活用は、文字交換から会話に移って長々と惚気(のろけ)話を散々聞かされました。その後、お姉ちゃんは、


「彩夏は、まだ彼氏とか居ないよね、いたら私が知らない訳がないもの」

 そう言うと、

「でも、彩夏はルックスもスタイルも性格も良いから、もてるでしょう?」


「うーん、今まで告られたのは、えーと――五人くらいかな」

「でも、いつもその場で『ごめんなさい』なんだ」


「へー、誰か好きな人いるの?」


「うーん、いると言うか……憧れかな?……えー、よく判らない」


「あ、でも気になる人はいるんだ!」

「へー、誰?私の知っている人?」


「………………」

「お、お姉ちゃんもよく知っている人だよ」

「いっ、今、彩夏の一番近くにいる人だよ」


「……えっ!」

「もしかして、私のお父さん!?」


「そうみたい」

「私ね、小さい時にお父さんが天国に行ってしまって、一番寂しい年代じゃん。そんな時にお姉ちゃんに仲良くなってもらって、お姉ちゃんのお母さんとお父さんにも可愛がって貰ったよね」


「うん」


「その頃は、おじさんの事、お父さんの代わりみたいに思っていたと思うのね」

「でも、中学生になった頃、周りのみんなは結構、初恋だとか、誰がかっこいいとか、そんな話をするけど、彩夏は同年代の男子には、全く、ときめかなったよ。それは今も同じだけどね」

「でも、おじさんが家族サービスで出かけたとき、一緒に彩夏も連れて行ってくれたよね」


「うん」


「彩夏、とっても嬉しかったんだ」

「お姉ちゃん達と楽しく過ごせた事も勿論だけど、おじさんと一緒だった事も嬉しかったんだ」

「お父さんに対する気持ちとは、なんか違っていたと思う」

「おじさんから、優しい言葉とか掛けて貰った時とか、お父さんとの時とは全然違う種類の嬉しさだったの」

「それが、初恋だったのは間違いないと思う」


「うーん、……多分初恋だわ……でも、相手が史絵のお父さん!」


「でも、確実に実らない恋だったのは間違いないとも思っていたよ」


「うーん――ちょっと複雑」

「それで、彩夏は今でも気持ち変わらないの?」


「て言うか、今一緒に住んでいるしょ。それでぇ――好きな気持ちが強まったと言うか」

「お姉ちゃんとか、お姉ちゃんのお母さんには悪いと思うけど、お姉ちゃんだから、自分に正直にお話出来るよ」


「うーん……彩夏の気持ちわかったわ。私はお父さんとは血は繋がっていないけど、お父さんに対してそんな気持ちになった事は一度もないよ。本当のお父さんに対する気持ちだけだよ。今でも」

「うーん――それじゃ、彩夏の事応援するよ」


「本当!お姉ちゃんありがとう」


「そうだねー、じゃ手始めにお父さんの事『パパ』って呼んであげて。お互い親しみが沸くはずだよ」

「うーん、それと、二人でテレビ見ている時とかなるべく密着しなさい」


「えー……それ恥ずかしい」


「そんな事ないって、私だって彼氏とは……いや、私の事はどうでもいいから」

「一緒にいる今がチャンスじゃない。それとお父さんは絶対狼にはならないから、それは私が保証するよ」

「お父さんの心の中は、まだお母さんが占領しているから、少しずつ領地を広げるしかないのよ。頑張りなさい」


「はい」


 そんな会話をしたら、なんか、益々パパの事が好きになっていました。

 それから私は、お姉ちゃんの作戦通りにアタックを続けました。でもパパはやっぱり私の事を子供扱いしていた。けど、密着作戦は効果がありそうかな?



 そして今日、パパからネックレスをクリスマスプレゼントとしてして貰いました。急に思い出したクリスマスイヴの突発性の贈り物だった様ですが、お姉ちゃんへのプレゼントの付録でも、前もって考えていなかったとしても、私にとってはどうでもいい事でた。そのネックレスがすっごく嬉しかったです。今までで一番の宝物に成りまた。


 そして、お姉ちゃんが用意していたパパへのプレゼントの表書きを、彩夏の恋の応援隊長が書き換えてくれたのでした。


 MerryXmas

 ―お父さんへ―    史絵より

 ―パパへ  ―    彩夏より

 ―いつもありがとう―


 そのマフラー代金の半分は勿論お姉ちゃんに渡しました。

 受け取ったパパは涙ぐんでいましたが、今はまだ、お父さんとしてだと思います。

 来年は、パパとしての領域を広げようと心に誓いました。



 お母さんは、あのレイプ未遂犯人に出て行って欲しいと告げたそうですが、あの事件を平謝りされて、それとは別に、愛しているとか、定職に就くから結婚してほしいとか、色々言われて、保留中だそうです。パパの家にいてもお母さんは、一緒に私の洋服を買いにショッピングに行ったり、仲が良いのは依然と同じ親子関係です。変わったのは、たまにおかずを作って道路を渡って持ってきてくれたり、おはよう、おやすみの挨拶が活字になったりするくらいです。それと、私とパパの同棲、いや同居が予定より長くなりそうなので下宿代をパパに払っているそうです。


 いずれにしてもパパとの同棲生活がもう少し長くなりそうです。



 来年の目標がはっきり見えた今年ももう暮れようとしています。


 来年十八歳に成ったら、パパにあげたいなぁ…………私を。


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