4. 照らしたもの

 ビルの間から風が吹いて、雨が横殴りになって光司は近くの屋根がある店らしき所に入る。店の看板は英語で書かれていて、光司は見たこともなかった。


 光司の手には、軍服の男から貰った大きな銃が抱えられていた。


 ゲームの中では散々銃は見ているけれど、いざ本物を渡されると、これは何の銃なのか分からなかった。


「こいつ見た目は完全にショットガンだよな......」




 光司は、あの後バリケードの所へ向かった。だが軍服の男が通った時みたいに、バリケードは開かなかった。


 バリケードの高台から、軍帽にレインコートを着た男がこっちを見て大きな声で光司に向かって言った。


「お前さん!こっち側の人間だろ?悪いがもう通すわけには行かない。決まりなんでな」


 軍帽の男はそう言って、中へ戻っていった。結局バリケードは開かず、光司はやむなく引き返すことになった。




 歩いてどれぐらい時間が経っただろうか?止まない雨の中、延々と歩き続けていた光司の裸足の足は、踵から血が出ていて足の裏はボロボロだった。


 光司は家の事を考えた。今頃、本当はゲームでもしていたんだろうなぁ。また明日になったら深山とか白鳥先生に言われんのかなぁ。そう思うと何故だか光司は、目の前が潤んで良く見えなくなっていた。


「......何処なんだよここぉ......」


 その時、光司が雨宿りしていた店の中から、ガタッと物音がするのが聞こえた。光司はその音に敏感に反応して勢いよく振り返る。


 店の中は真っ暗だった。だが確かに物音は聞こえた。


 光司が店のドアノブに手を触れると、鍵は開いていた。意を決して、光司はドアを開けて店内へゆっくり入っていく。


 外のやや明かりを灯している街灯で、店の手前側はかろうじて見えていたが、奥は暗くて何も見えなかった。


 店は雑貨屋、コンビニにみたいなもので色んなものが置いてあった。入り口近くの棚に懐中電灯が置いてあるのが、光司の目に留まる。


 光司は懐中電灯を手に取り、スイッチをカチッと入れると、懐中電灯から真っ直ぐに伸びた光が現れる。光司は懐中電灯を使って店内の奥を照らしながら、歩き始める。


 歩いていくと、靴下とタオルが棚に並べられていた。それを見つけると、申し訳なさそうに棚から取って使い始める。


「びしょ濡れだけど、これ置いておきますよ......」


 光司はスウェットのポケットに入っていた雨に濡れた千円札を、靴下とタオルを取った棚に置いた。千円札は棚にぺったりと貼り付いている。


 ふと、光司はぐるりと店内を見回す。店内は荒らされたような有り様で、棚が倒れていたりと散らかっていた。人の気配など感じられない。


「......物が棚から落ちた音だったかな......?」


 そう思った時、また物音が聞こえてくる。その音に、光司は振り向く。......気のせいか?


 だが今度は今までよりも大きな音が聞こえる。何かが叩きつけられるような音。続けてまた聞こえてくる。


 光司は音が店の奥、ドアの先から聞こえてくるのが分かった。光司がドアの方を見つめると、バンっとまた音がする。


 音の後から、ドアがキィィと軋むような音を立てて、ゆっくりと開いていく。だがドアからは何も出てこない。


 ドアが開いた瞬間、光司は生暖かい空気を感じた。それと同時に妙な臭いを鼻が嗅ぎつく。不思議に感じた光司は、警戒しながら一歩ずつ静かにゆっくりとドアに近づいて行く。


 ドアまであと少しの所で、光司は足元に何かぶつかるのを感じた。それに気付いた光司は足元を懐中電灯で照らす。


 懐中電灯で明かりを向けた先にあったのは、手だった。伸びた手の先から、なぞるように懐中電灯を照らしていく。光司は呼吸が荒くなっていった。そして、懐中電灯は胴体から顔へ向かっていく。


 照らされた顔は、目が白目になっていて、口から血を垂れ流していた。顔色は青い。


「うわっ!!」


 光司は思わず声を上げて、その場に尻もちをつく。


 すると、耳に生暖かいものを感じた。


「あ......あ......」


 うめくような声が、ポツリポツリと聞こえてくる。


 振り返ると、そこには血だらけの人間が光司の顔のすぐ側まで顔が近づいていた。

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