アリスと不思議な絵本

アリスと不思議な絵本(1)

 アリサがお屋敷に行ったその日から、3日経ってもアリスは屋根裏部屋から出て来ない。

「アリス、いい加減に降りて来なさい!」

 母親の怒鳴り声が響く。

「……」

「そんなに泣いていたってしょうがないでしょ!?」

「……わかってる!」

 しばらくして、アリスは家を飛び出し、泣きながらあの丘の上の木の下に行き。木の下に座って隣町のお屋敷の方を見ていた。


 翌日からアリスは、毎日、毎日、丘の上の木の下に座って、隣町のお屋敷のある方を見るようになり。

 そんなある日。アリスは、いつものように丘の上の木の下に座って、隣町のお屋敷のある方を見ていると。また、涙がこぼれ、涙を拭いていると、後ろ方から笑い声が聞こえ、後ろを振り返ると。近所に住んでいる、アリスと同じ年の男の子が3人、アリスの近くまで来ると。

「あっ、泣き虫アリスだ!」

 アリスは相手にしない。

「そんなに泣いてたら、アリスのお姉ちゃん、帰ってこないんじゃないの!?」

 男の子にからかわれ、アリスは立ち上がり。

「帰ってくるもん! ちゃんと約束したんだから……」

 アリスはその場を逃げるように走り。泣きながら、走って、走り続け。走り疲れたアリスは、涙を拭きながら、今まで1度も来たことがない所に来ていた。


 アリスは辺りを見渡すと、水車小屋が見え。家に帰る気にはなれず。あそこなら、誰も来ないと、行ってみた。

 すると、水車は回っておらず。それに、小川の水は枯れていた。出入り口らしきドアを見つけ。ドアを開けると、鍵はかかってなく、中に入って見ると。

 辺りは薄暗く、蜘蛛の巣だらけ。そして、サビだらけの農機具があるだけで、他にはなにもない。何年も人が出入りしたことがない雰囲気。


 アリスはなんだか怖くなり、外に出ようと思った時だった。

 微かに聞こえる笑い声。天井から聞こえる。不思議に思ったアリスは、天井を見ると、1本のロープが垂れ下がり、ジャンプすれば届く所にあり。もしかしたら、屋根裏部屋があるのかも。そう思ったアリスは、おもいっきりジャンプして、ロープを引っ張ってみた。

 すると、階段が現れ。また、笑い声が聞こえてきた。アリスはその声が気になり。

「誰かいるの?」

 返事はない。

 笑い声は聞こえている。気味が悪くなり、水車小屋を出ようとすると。突然足が動かなくなり。

「あれ!? 足が動かない。動かないよ、お姉ちゃん……」

 何度も足を動かそうとしても動けない。怖くなり泣き出すアリス。


 その時、アリスを呼ぶ声がする。この声は、アリサの声。この村に入るはずもない、アリサの声が階段の上の方から聞え。さっきまで動かなかった足が動けるようになり。

「お姉ちゃん、そこにいるの?」

 返事はなく。あの笑声は消え。

「アリス、泣いたらダメだよ」

 また、あの声がする。やはり、アリサの声、優しい声が心に響き。何かに引き寄せられるかのように階段を上るアリス。上がると。辺りは薄暗く、蜘蛛の巣だらけで、誰も入ない。

 部屋の中をよく見ると、本がたくさんあり。何でこんな所に本がたくさんあるのか。疑問に思ったアリスは、蜘蛛の巣を払いながら、部屋の奥の小窓を開けた。

 さっきまで薄暗い所にいた為、日差しがまぶしく、目に手をやり、少し目がなれるまで待った。

 アリスは目がなれ、外を見ると、あの丘の上の木が見える。しばらく外を眺めていると。いつも屋根裏部屋でアリサと遊んでいたことを思い出し。アリスはふと何か忘れていることに気づき。

「あっ、そうだ。本を見るんだった」


 日差しが入り、この部屋の中は明るくなり。小窓側から部屋を見ると、左側に本棚があり。右側には小さな机がある。本棚も机もほこりでいっぱいになっていた。

 毎日の日課で、アリサと一緒に部屋の掃除をしたことを思い出しアリスは、何を思ったのか、この部屋を掃除することに。

 この水車小屋が誰の物なのか、まったく考えていないアリスだが、この時から、アリスの心に少し変化が見え始めていた。


 アリスは、近くにあたった布きれを見つけ。いつも持ち歩いている水筒に入っている水で布きれを洗い。まず、机の上を拭き始め。手前に引き出しが1つ、右側に3つ引き出しがあり。手前の引き出しを開けると、中は空っぽ。

 右側の1番上の引き出しを開けると。大人の手のひらの大きさ手鏡があり、ほこりをきれいに拭き取ってみると。木目の綺麗な木できており、S・A・A文字が彫られていた。

 すると、何を思ったのか、アリスはその手鏡をポケットしまい込んだ。

 次に、真ん中の引き出しを開けると、中は空っぽ。そして、下の段の引き出しを開けようとすると、なぜか開かず。鍵穴はないのになぜか開ない。何度やっても開かず、開けるのを諦めた。

 次は本棚。本を一旦全部棚から出し。棚を拭き、1冊ずつ丁寧にほこりを払い。今まで見たことがない本だらけ。少し興奮しているアリス。この時、アリサが本に夢中になるのが少し分かった気がした。

 ほこりをかぶった本も綺麗になり。本を全て棚に戻し。床や壁を拭き。見違えるほどに綺麗になり。アリスは、今までこんなにたくさんの本は見たことがない。いったい何冊あるのか、数えてみると。全部でちょうど100冊あった。


 今朝、アリスは母親からこんなこと聞いていた。あと100日したらアリサが帰ってくると。


 ここには、ちょうど100冊の本がある。毎日1冊ずつ読めば、アリサが帰ってくる日と同じになる。読み書きは、アリサから教えてもらっている。そう考えたアリスは、毎日水車小屋へ行くようになった。

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