3

 次の日になってもキャリーは戻らず、オリバーはデビットに様子を見に行かせることにしたらしい。


 エリザベスとレオナードは、朝食のあと、図書室から持ち出した『復活』と書かれた本を読み進めていた。


 レオナードが言うには、この本はどうやら、闇の宗教の経典の一部らしかった。


 ソファに並んで座って、レオナードの手元の本を覗き込んでいたエリザベスの頭を、レオナードが時折ぽんぽんと撫でる。どうして頭を撫でるのだろうと思ったが、不快な感じはしなかったので、エリザベスは文句を言わずに好きにさせた。


「退屈なら『青騎士物語』の続きを読んでいていいんだよ?」


「退屈じゃないわ。こっちのほうが気になるもの」


 文字が読めても内容が理解できないくせに、エリザベスは強がった。


 レオナードはエリザベスのそんな強がりはお見通しのようで、いったん本をおくと、彼女に例の紙を持っておいでと言った。


 エリザベスが『青騎士物語』とともにベッドのサイドボードにおいていた紙を持ってくると、レオナードはその紙をテーブルの上においた。


「ここまででわかったことだけどね、この『ベルヴァ(堕落)』『ダリヴァ(堕胎)』『ウルガ(快楽)』『ジーニャ(傲慢)』『セスタ(王族・権力)』の五つの言葉がさすものは、闇の宗教で信仰されていた不老不死をつかさどる闇の王の五人の側近のことみたいだよ」


 エリザベスは首を傾げた。


「じゃあ、この紙の絵はなに?」


「それはまだわからない。だがこれで、この紙が闇の宗教に関係しているのは間違いないと言うことがわかった。なんだろうね、これの絵が示すことを読み解いたら、古い神殿にでもたどり着くんだろうか?」


「……神殿かぁ」


 エリザベスはちょっとつまらなそうに口を尖らせた。神殿では少々面白みに欠ける。もっと面白いものの方が気分も盛り上がるのに。


「おっと、古い神殿を侮ってはいけないよ。意外と面白いものが発掘されたりするからね。呪いの絵とか壺とか出てきたら面白いね」


「……わたしはそんなものより、金とか宝石とかの方がいいな」


「そんなもの、俺がいくらでも買ってあげるよ」


「そういうんじゃないの! ほしいとかじゃなくて、なんていうか、わくわくするじゃない!」


「君は本当に変わっているね」


 レオナードの知る女性は、宝石を買ってあげると言えば喜んで飛びついてきた。それなのに、エリザベスは買ってもらうよりも見つけて楽しみたいという。


(何をあげたら、君は喜んでくれるんだろう?)


 レオナードは、エリザベスが喜ぶのなら、それこそ金でも宝石でも何でも買い与えたいと思っている。けれども何をあげれば彼女が喜ぶのがわからないから困っていた。ましてや、彼女はレオナードの過去の恋人たちとは違い、可愛らしく何かをねだると言うことを知らない。彼女にねだられた唯一のものは、祭りの夜に「腸詰が食べたい」だけだった。色気もへったくれもない。


(君はどうしたら、俺と結婚したいと言うんだろう)


 レオナードは、エリザベスは意地を張っているだけで、そのうち折れるだろうと高をくくっていた。しかし、彼女は思っていた以上に手ごわかった。


 レオナードは彼女の髪に手を伸ばした。この感触は本当に癖になる。ずっと撫でていたいと思うのだが、あまり撫ですぎるとそのうち手を振り払われそうな気がして、何気なさを装ってちょっと頭を撫でるのが精いっぱいだった。


「そろそろ昼食だろうし、いったん中断しようか」


 レオナードは本を片付けようと立ち上がった。


 その時、コンコンと扉を叩くような音がして、遠慮がちに声がかかった。


「レオ、ちょっといいかな?」


 扉を開けるとオリバーが立っていた。その顔には動揺のような焦燥のような表情が浮かんでいた。

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