第21話 初戦闘後【3】


「うるせぇ。余計な事を言うな……!」

「な、なにそんな怒ってんの……!? やめろよ可哀想だろ!」

「そ、そーゆー使い方は良くないと思いまーす!」

「っ……!」

「やめてください、セーヤくんまで痛がってて可哀想じゃないですか! と言うか、GF電波の悪用は僕も反対です!」

「し、進路! 進路の話に話を戻しましょう!」

「そうですよ、ザードさん!」

「え!? なんかよく分かんないけどザードのせいなのか!? やめてやれよ、可哀想じゃん!?」

「……」


 瞳の色がともに戻る。

 すると、頭を抱えてしゃがみこんでいたギベインとセーヤがきつく閉じていた目を開いた。

 未だ辛そうな表情……一体なにが起きたのだろう。

 GF電波の、悪用?


「大丈夫か、ギベイン、セーヤ」

「だ、大丈夫だよ……怒られた理由は分からないけど……」

「ほんとですよ!」

「お前、そういう横暴は良くないぞー?」

「……ああ?」


 美形のひと睨み。

 その威力たるや。

 一瞬で口籠るマクナッドとサイファー。


「出る幕じゃねーのにしゃしゃり出てくるからだろうが。拾われた分際で……!」

「……それはそうだけど」

「……とばっちり……」

「悪かったよ。そんなにキミの気に障るとは思わなかったんだ」

「いやいや、今のは確実にザードのやり過ぎだから。……ホント、やり方酷いぞ、ザード!」

「テメェはまず進路を決めろや!」

「う……。……ええと、それじゃあその、建設中の基地でいいでしょうか、皆さん……」


 全員が一度各々と顔を見合わせ、とりあえず変な笑顔で頷く。

 シズフはすっかり寝息を立てていて役に立たない。

 そんな状況で、アベルトはザードに頷いてみせる。


「じゃ、解散って事で」

「あ、待ってザード、ラミレスの歌の事で報告があるんだけど」

「知るか。アベルトになんとかさせろ。俺は忙しい」

「俺!?」


 ふよー……と出ていくザードの前を横切る眠ったシズフ。

 閉じる扉。

 静まり返る艦橋。


「……場所はイゼルくん、知ってますか?」

「はい、存じてます! 建設中とはいえ『ジークフリード』の施設ですから、自動操縦でも辿り着きますよ。……ここからだと一週間ほどですね!」

「最短距離と、回り道を検証させてください」


 さすが艦長、すぐ持ち直してイゼルと進路について話し合いを始める。

 変な空気の残ったままのその場。

 ラミレスはちらりとアベルトを見た。

 顔が髪の色みたいに青い。


「……お、俺に分かる事……?」

「分かんないんじゃないかなぁ」

「キレた後は放っておくに限るからなぁ、あいつは。そんならまず五号機の坊やの見舞いにでも行ったらどうだ?」

「ラウト!」


 確かにあの子の事も心配だ。

 顔が見れるなら見に行きたい。


「……反対……。……歌い手の事……最優先にすべき……。……戦闘の勝敗に直結する可能性……ある……」

「そうですね、蔑ろにして良い事ではないと思います」

「……まあ、そうだけどよ……」


 確かに。

 歌は登録者たちの命に直結している。

 あまり後回しにはしたくない。


「どちらにしろ解析はこれからだよ。焦ってもいい事はない。その頃にはザードの機嫌も直っているさ、きっと」

「……情報共有を要請……」

「そうだね、そこは了解だ。とりあえず効果は確認された。並行世界のラミレスの歌でも、同調率は安定して高まり、ギア上げは出来た。しかし、のあるラミレスに比べておっぱいのないラミレスはなぜか歌が後半になるにつれて効果が下がるというか……同調率に激しい乱れを生じさせた。反動と僕は考えている。これは一刻も早い改善が必要になると思う。もちろん、まずは解析して原因を突き止める必要がある。というわけで、原因とその改善は明日以降でどうかな」

「ええ……? 俺はそんなの感じなかったけどな……?」

「キミは同調率の安定性がそもそも高いからじゃないかな。一番波形が乱れたのは五号機だ」

「……あのガキんちょ、不安定の極みだからな……」

「そう、それも原因だとは思うけれどね。はっきりとした事は言えないし、効果そのものが低下したのは今のところデータ上間違いない」


 ちらりとそのデータとやらを覗き込んでみる。

 ラミレスにはさっぱりわからないが、確かにグラフのようなものは急速に下がっていた。


「……解析にはどれほどかかる?」

「今夜には終わらせるよ」

「そうか。必要なら声をかけろ。協力出来る事があるならやろう」

「俺も!」

(ものすごい眠そうだけど……大丈夫かな……)


 めちゃくちゃうつらうつらしている。

 さっきまで寝ていた人なのに。

 けれどきっと一応起きていたいと思っているのだろう。

 だから突然話に入ってくるのだろう、と、思う……きっと、多分……。


(……話は聞いてたのかなぁ……)


 寝ていたようにしか見えなかったが。


「……じゃあ、俺も仕事に戻るぜ。届けもんも預かっちまったしな」

「よろしく頼む……」

「いや、戦力が増えるのはありがてぇしな」

「でも私たちきっと仲良くは出来ないわ〜。『大鷹』に落とされた基地や砦は数知れずだもの。よっぽどいい男じゃなきゃ顔見た瞬間殺したくなっちゃうかも……☆」

「はは、そんなら心配ねーな」

「え、それどういう意味?」

「あいつかっこいいからなぁ。なあ、シズフ?」

「……そうだな……あいつかっこいいからな。なあ、マクナッド」

「そうですね。優しですし仕事は出来るし、フォローもお上手ですしすごくオシャレにも気を使われていて……素直にカッコイイ大人の男性という感じで……! シズフ隊長と並んでも歩いておられても全然見劣りしないといいますか! とても素敵な方ですよ! 艦橋に限らず女性スタッフはカイさんカッコいいって騒いでました。なんというか、そう、包容力があるというか! あとすごくイイ匂いなんです!」

「や、やだ……! なによそれ、しかも大和人でしょ? どんだけハイスペックイケメンなのよ……やめて、楽しみになっちゃう……!」

「手のひら返すの早すぎだろ」

「シズフさんと並んでも見劣りしないのは相当カッコいいよな」

「そうで、……ん?」


 同意しかけて、ラミレスの真顔に喉が詰まるアベルト。

 ちょっと真顔すぎやしないか。


「ったく。大和の大鷹には何度も煮え湯飲まされたっつーのにお気楽か」

「それに『瑪瑙』……あれが味方になるのは確かに心強くはありますが、大和の技術力の集大成であるあの機体すら『α』の前ではジャックされてしまう。それを一体どうするつもりなのでしょう」

「それは今開発中のスプライトシステムでなんとか出来るはずだよ」

「だからそのスプライトシステムってなんなんだよ」

「開発途中だから詳しくは話せないな」

「っち」


 心からの舌打ち。

 確かに気にはなるけれど。


「ところで、殿下……朝食が途中でしたし、もし宜しければ新しく何かお作りしますよ? 解析結果の出る夜まではお時間があるのでしょう?」

「あ、そうか。そういえば特にやる事ないって言われたんだっけ。……どーしよ、なにしよう。ラウトには会いに行くけど……まだ無理そうかな?」

「昨日サボった検査もやってるみたいですしね。波形が戻るのも夜って言ってましたし……」

「……ぐう……」

「……俺はこの人の事もデスカ先生の所に連れて行かないと……」


 あはは。

 と乾いた笑い。

 首根っこを掴まれても起きる気配のないシズフさん。

 なんて残念な姿。

 だが、それなら確かに食事の続きをするべきか。

 それとも……。


(シャオレイを探そうかな。でも、あいつは俺に会いたくないみたいだし……)


 やはりラウトの事も気になる。

 ラウトのお見舞いに行きたい気持ちもあった。

 だが、行ったらゆっくり休めないだろうか?

 夜には回復するとも言っていたし。

 もしくはザードのフォローをしに行くべきという手もある。

 よく考えれば彼もまだ多感な十八歳……歳上としてフォローしてあげたいような。


「ラミレスさん、ご飯を召し上がるならシズフ隊長にも食べさせていただけませんか。昨日食べてないんですよね?」

「……んん……」

「それもそうだな。俺が連れてくよ」

「い、いいの……!?」

「な、なにかですか」

「いや、こんなかっこいい人にご飯を食べさせるなんて……ちょ、ちょっと犯罪臭しないかなぁ、なんて」

「な、なにする気だあんた!?」


 アーン的な、あれを。


「となると誰が残る?」

「飯関係ならスヴィーリオとフィムでいいんじゃねぇか?」

「そうですか? では艦橋居残りお願いしますね、カリーナ、シュナイダー」

「? 二人はここに残るの?」

「ええ、ほんとは殿下と一緒に居たいけど、艦橋スタッフって極端に少ないの。見て分かると思うけど十人以上が本来なら必要なんだけどね……」

「ははは……少し前は海賊の一家が手伝ってくれてたんだが『α』との戦争が激化してからは、別行動になってんだよ。んで、仕方なく志同じくした軍人さんに頼んでるってわけ」

「俺たちも専門じゃあないんだがなぁ……」

「そう言ってたね」


 というか……


「……海賊って……。……『ジークフリード』って技術者の組織じゃないの?」

「海賊と言っても悪い人たちじゃありませんよ。俺はあの人たちに助けてもらいましたし……」

「ちいと前までは傭兵崩れの海賊や空賊は多かったんさ。大国は高い金を払うのが面倒になると傭兵を囮なんかに使って、陥れる事も少なくなくてなぁ……。……俺も下手したらそっち側だった」

「……そういえばサイファーさんは傭兵だったんですよね」

「ああ。ザードに出会わなければまだやってたかもな」

「ザードに雇われたとかじゃないんですか?」


 大国から隠れて活動していたような事を言っていたし、用心棒的な人を雇っていてもおかしくない。

 だがなぜかサイファーには大爆笑された。

 なぜ。


 「まさか! 逆だ逆!」

 「ぎゃ、逆?」

 「……だが確かに長い付き合いになってきたなぁ……。…………そうだな、確かに……俺が一番長くなっちまったか」

 「………………そうですね……」

 「……ごはん、行かないの……?」

 「あ、行く行く……セーヤとギベインは……ギベインは?」

 「……自室に行った……。……ボクも、艦橋に残る……手伝う……」

 「そうか、宜しくな?」


 と、いうのもなんだか変な感じだが。


(そしてアルフィムさんマジ気配がねぇな!)


 一応ずっとそこにいるのに、セーヤより喋らない。

 寡黙な人過ぎて怖いんだが。


「んじゃあな艦長、また次の基地で」

「はい! あ、マカベ副隊長の事宜しくお願いします」

「ああ、任せろよ」


 というわけで、サイファーとアベルト、スヴィーリオとアルフィム……そして寝ているシズフでエレベーターに乗る。

 ふと気になったのだが……。


「サイファーさん、サイファーさんがいない時って艦橋にどうやって行けばいいんですか?」


 あのクソ同じ扉しかないエレベーターホールを思うと、サイファーが留守にするとどうしたもんかと。


「ああ、そうだな。……植物園から離別すれば艦内の構造は通常に戻るが……確かにそれまではどうしたらいいもんだろうなー」

「植物園があると艦内がややこしくなるんですか?」

「ああ、あそこは……一号機の登録者たちの墓地があってな。……遺体を守る為に『デュランダル』内も構造が『ジークフリード』メンバー以外、分からんようになるんだ。お前たちが最初に入って来た辺りは植物園の端っこで、侵入者対策がしてあるところだったからギベインたちが一緒じゃなかったらやばかったんだぜ?」

「そ、そうだったんだ……!」

「そうだったんですか……!」

「あれー? スヴィーリオさんたち知らなかったんですか!?」


 ……ほんとにやばかったんだな、と思い知った。


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