第2話 球技大会

 ピロンッ!

 スマホの通知音で目が覚める。

 時刻は午前9時ちょうど。

 はいはい、寝坊です寝坊です。今日行かなくてもいいかな?

 あ、でも昨日の女の子にいくって言っちまったしな……。しゃーなし、準備していくか。

 その前に、先生にライン入れなきゃ。

 俺はキッチンに行って、窓際に置いてあるタバコを取って、火を付ける。

 スマホで先生へ連絡しながら煙を吐き出す。


『すみません。寝坊しました。今から行くので10時ごろ到着になります』


 これで、よし。

 灰皿にタバコを押し当てて揉み消し、部屋に戻る。

 球技大会なんて、タバコ吸って、野次飛ばして、帰るだけのくそイベントだろ……。

 ぐちぐち思いつつ、カバンに運動用のTシャツや、ズボン、体育館用の運動靴を詰め込んでいく。

 他にはいつものMac bookとipadを詰め込む。

 さーて、くそだるイベント行きますかい。

 ズボンのポケットにジッポとタバコをしまい、イヤホンを耳にさして家を出る。


「うっわ、雨かよ。くそだな」


 急いでビニール傘を取って最寄りの駅に向かう。

 5分くらいだから楽なもんだ。

 ピロンッ!

 またスマホが鳴る。

 グループか。


『真冬来ないの?』

『始まってるぞー』


 秀樹からじゃん。あいつ暇なのか?


『今さっき起きて、今向かうとこ。10時過ぎそうw』


 送信、と。

 あとは、電車に揺られてガッタンゴットンすればいいんだな。


 *************************


 1時間弱電車に揺られて、目的の体育館の最寄り駅に着く。

 一回の乗り換えで着くけど、1時間弱は長いんじゃ!

 先生についた連絡でもするか。


『最寄り駅つきました』

『急いでください』


 既読も返信も早過ぎだろこいつ。暇なのか?

 先生、女性だからスマホいっつも見てんのか?

 十分ほどの道のりを歩く。喫煙所ねぇな。

 んー、どうしよ。周り誰もいないし、歩きタバコするか。

 ポケットから取り出したタバコに火をつける。

 音楽を聴きながら、マップを見る。


「このマップわかりずら過ぎ」


 なんとかマップを解読して、目的地まで歩く。

 疲れてきた。帰りたい。

 体育館の目の前にあるコンビニでタバコ買おうと寄ったら、見知った男の先生とばったり出会う。遅刻の時って先生に会いたくなかったんだけどなぁ。


「あれ、真冬遅刻?」

「お、れんれん先生じゃん。その格好は、フットサルのやつっすか? それとも格好だけでサボりっすか?」

「なわけねぇだろ。さっさと行け行け」

「うーす、タバコ買ったら行きまーす」


 手をひらひら振って別れて、一応愛煙しているキャメルメンソールを買う。本当はクールブーストの8mgが吸いたいけど、金ないから我慢。

 よし、コンビニ前でタバコ吸ったら行こう。

 ゆったりとタバコを吸ってから体育館に向かう。

 入り口から広い通路をまっすぐ行ったところにあるホール。その奥にはガラス張りになった吹き抜けが見える。うわー雨降ってるよ。出れもしない中庭作るって体育館って金あんのな。

 ホールから一番近い扉が俺らの学校が使っている体育館。

 わちゃわちゃと陰気臭いやつしかいないうちの学校の生徒がはしゃいでいる。

 何がそんな楽しいのかわからんな。


「お、真冬! 今来たのかよ! 佐藤先生なら中だぞ! 俺は青と話してる!」

「おう、サンキュ。ん? まあいいか」


 秀樹とすれ違いつつ体育館に入る。いつ知り合ったんだ?


「真奈ちゃん先生! 遅れましたー、さーせん」


 遠くに見つけた連絡していた先生に手を振る。


「ちょっと! 真冬くん遅過ぎじゃない? ちゃんとしてよ。20歳過ぎてるんだから」

「20歳も19歳も変わんねぇけどな」

「言い訳やめてもらえる?」


 威圧的なそういうのが気にくわねぇとこだよ性格ブス。

 顔に出さないよう、反省している表情を作る。


「さーせん。気をつけまーす」


 返答を待たず体育館から出てトイレに向かう。

 ささっと着替えて、2階にある観客席に向かう。


「おお、いたな。悠人。喫煙所どこかしらん?」

「んあ? おはよー。知らんよ?」

「まじか、ヤニ吸いたいんだよな」

「んじゃ、探しに行くか」


 悠人を連れて喫煙所探しの旅に出る。

 

*************************


「なくね?」

「ないね」


 体育館外を一周して探したが、どこにも見当たらない。

 秀樹に連絡するか。


『喫煙所ってどこよ?』


 体育館の外回りを歩きつつ返信をまつ。


「自販機あんじゃん。ポカリでいい?」

「ん? いいの?」

「ええで」


 悠人にポカリを買って渡してやる。

 秀樹から返信がない。

 電話かけるか。好きじゃないんだけどなぁ。

 コールが終わって、応答がありませんでしたになる。


「チッ! あのやろう。電話でねぇぞ。しゃーねぇからその辺で吸うか」


 携帯灰皿を取り出しながらタバコに火をつける。

 青の連絡先も知らんしなぁ。

 どうするか。まあ、秀樹の連絡待つか。

 ピロンッ!


『体育館の外でて右!』


 は? ないぞ? どこのこと言ってんだ?


「悠人、喫煙所体育館の外で右らしいけど、なかったよな?」

「おん、なかったよ。真冬が見つけられないなら、タバコ吸わない俺は見つけらんないよ」


 んんんーーーー????

 秀樹のやつ夢見てんじゃねぇのか?

 しばらく探しても見つけられず、喫煙所の捜索は断念する。

 仕方ないか。とりあえず観客席戻るか。


「戻ろうぜ。あいつの説明はわけ分かんねぇから呼び出したほうが早い」


 二人で観客席まで戻る。

 ちょうど戻った時に秀樹がいたので捕まえる。


「おい、どういうことか意味わかんねぇぞ。喫煙所はどこじゃ」

「はぁ? さっき説明したろ!」

「アレじゃ分かんねぇよ。体育館の外って、外だろ? 一周回ったけど喫煙所なんてねぇぞ」

「外出たの? バカじゃないの?」

「あ?」


 秀樹が心底馬鹿にするように半笑いになる。

 こいつ俺が年上って忘れてんじゃねぇだろうな? タメだろうが、俺が年下だろうが、この態度は腹立つけど。



「そこの扉でた中庭の外って言ったじゃん? 何言ってんの真冬」


 チッと舌打ちして中指を立てる。


「一言もんなこと言ってねぇよ。携帯の履歴見てみろ。お前の目は節穴かよ」

「はぁ!? 言い過ぎだろ! 中庭も分かんない真冬には言われたくねぇ! ……あ、本当だ……ごめん」

「クソが、ちゃんと自分の発言くらい覚えとけや」


 秀樹にそう言ってからコーヒを持って喫煙所に行こうと踵を返す。

 よく見ると秀樹の格好が卓球の格好になっていることに気づく。


「次秀樹の番か? 頑張れよ」

「おう! 余裕だぜ!」


 手をひらひらさせて立ち去る。

 さあタバコタバコ!!

 ホールの真横。そこには俺がカラス張りで中に入れないと思い込んでいた吹き抜けがあった。


「あそこ入れんの? あ、扉あんじゃん」


 ボソボソと独り言を言いながら勢いよく中庭に入る。

 クッソ恥ずかしいな。


「あ! 真冬! 遅くない??」

「うお! 青、いたのか! 寝坊だよ寝坊」


 早速タバコに火をつける。


「見て見て! タバコいっぱい買ったの!」


 パンパンに膨れ上がった小ぶりなポーチから出るわ出るわ。

 ピアニッシモが数種類。KISSが3箱。全部で8箱くらいあるぞ。

 こいつ吸い始めて3日目だよな?

 いや、俺も人のこと言えなかったけど、これは多くない?


「買いすぎじゃね?」

「いっぱい買ったの!」


 満面の笑みでそういう青に苦笑が漏れる。

 心底嬉しそうな顔に毒気が抜けていく。

 どこかホッとしてるところがあって、肩から力が抜ける。


「ようこそ、ヘビースモーカーの世界へ」


 笑いながら煙を吐き出す。


「は!? 私はヘビースモーカー……?」

「立派なヘビースモーカーの卵やな」

「いっぱい吸うんだ!」


 1本消して、また1本に火をつける青。まだぎこちないけど、昨日より圧倒的に慣れてきてる。

 Tシャツに「運動不足」と書かれていることに気付く。


「ふは、そのTシャツ面白いな!」


 思わず吹き出しながら指差して笑う。青が胸を張ってTシャツをピンとさせてドヤ顔を作る。

 なんでこんなに誇らしげなんだ?


「どうだー! いいだろう!! 後ろには健康不足!!」

「やばすぎ! いいな、そのTシャツ俺も欲しい」

「そんな高くないから買ったら?」

「はっはー、俺には金がないからパス!」


 ふざけて高笑いをすると、青の表情がくもる。

 どうしたんだろ?


「……学費も払えないんだよね?」


 え!? なんで知ってんの!?

 そんな俺の学費未納入事件有名なの!?


「秀樹くんから聞いたんだけど、学費払えなくて、来月来れないんでしょ?」

「は? 秀樹!? あいつまじでふざけんなよ! まあ、事実なんだけどさ! 勝手にそういう話するのやめて欲しいまじで」

「え? 真冬が言っていいって言ってたんじゃないの!?」

「そういう話は自分からするもんだろ。人に言わせないよ」


 青が溜息をつく。

 秀樹を引きずり回したくなるな。あいつに話しちゃいけない。


「まあ、学費払えず来月は出席停止になるわ。すまんな」


 ま、言わなくてもバレるからいいんだけどね! なんとなくこういう話は自分からするもんだと思うから腹立つだけで。


「むぅ、せっかく出来た友達なのに……。寂しい」

「友達くらいいないの?」

「いない。私、クラスでぼっちだから」

「マジかぁ。すまんなぁ」


 女子って面倒臭そうだし、そういうこともあるか。それに、青ってコミュ力高いけど、壁作りそうだし、外面は良さそうだしな。


「一人暮らししてたんだけど、家賃滞納して、実家戻って、滞納分の家賃を払いながら毎月8万の学費を払ってるから、金ないんだよね。奨学金もらってるんだけど、それでも追いつかないんだぁ」


 この話を聞くと大半の人は馬鹿にするか、同情するからあんま話したくないんだけどねぇ。

 どうせ、こいつもそんな反応だろうな。


「え!? 一人暮らししてたの!?」


 あ、こいつはきっとバカだ。


「そうだよ。してたけど、ダメになったわ。色々追いつかないんだよねぇ」

「はぁ、ようやるね。少しくらいなら出すよ?」

「ん、ありがとう。だけど、焼け石に水ってな。その気持ちだけもらうわ」

「いくらなの?」

「んー? 2ヶ月分だから17万円」


 眼をひん剥く青が面白くて思わず笑う。


「無理だろ〜? これはきついって。あっはっは!」


 ありゃぁと声を出しつつ、タバコを1吸い。


「大丈夫なの? やめないよね、学校?」

「ここまできたらやめないし、青の少ない友達らしいから辞めれねぇなぁ!」

「でも、来月いないんでしょ?」

「まあ、それは」


 微妙な顔をする青。俺は短くなったタバコを決して灰皿に押し込んで、新しいタバコに火をつける。


「ちょこちょこ顔出すつもりだから頑張れ」


 頰を膨らますのはやめろ。かわいいな。

 いちいち動作が女の子っぽいんだよなぁ。

 照れ隠しついでにタバコの箱を少し開けて中を確認する。


「あ、タバコ後2本しかない! 吸いすぎた!」

「え? 買いに行く?」

「行く行く、財布取ってくるわ」

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