75年前の約束

日下奈緒

第1話 タイムスリップ

私杉沢蕾は、高校生になり遂に、初めて彼氏ができた。

浮かれ調子の私は、毎日色ボケしている生活を送った。

「好きだよ、潤くん。」

「俺もだよ、蕾。」

何もかもバラ色で、幸せだった。

けれどそれは、2年生の夏に終わった。

潤君と別れたのだ。


「はぁー。」

「嫌ね。若い子がため息だなんて。」

傷心の娘に、冷たい麦茶を、母は出してくれた。

「男に振られたぐらいで何よ。次の恋があるでしょ。」

今日は、結婚したお姉ちゃんも、実家に遊びに来ていた。

これが厄介だ。

「お姉ちゃんは、失恋した事ないから、分からないじゃん。」

蝉がミーンミーンと鳴く中、私は麦茶を一気飲みした。


お姉ちゃんは、高校生の時に付き合った彼氏と就職を機に結婚。

順調な結婚生活を送っている。


「とにかく私は、もう2度と恋なんてしないから。」

私の密やかな誓い。

もう誰かを好きになって、傷つきたくない。

「年寄り臭いわね。」

「若い女の子が言うセリフじゃないわ。」

もちろん、お姉ちゃんとお母さんは、大反対。

次の恋を猛烈に推してくる。


「じゃあ、どうすればいい人に巡り合えるか、教えてよ。」

するとお母さんとお姉ちゃんは、顔を合わせた。

「まあね。お母さんはお父さんとお見合いだったし。」

「私も旦那に告白されて付き合ったから、何かした訳じゃないしね。」

私はお母さんとお姉ちゃんに、カチンときた。

「もう!私には恋しろ恋しろって言っておいて!二人は全然恋の事なんか知らないじゃんか!」

それなのに、二人でハハハッと笑っている。

「もう、いい!」

私は不貞腐れて、畳の上に横になった。

そんな私に、二人はお手上げのポーズ。

「そうね。私達は力になれないけれど、お祖母ちゃんが生きていたら、力になってくれたかもね。」


「お祖母ちゃん?」

お祖母ちゃんは、お母さんの母親で、私が小さい時に亡くなった。

とても優しいお祖母ちゃんだって、記憶があるなぁ。

「ただお祖母ちゃんも、苦しい恋をしてきたし。それでお父さんも苦しい思いをしてきたからねぇ。」

「えっ?なに、それ。聞きたい。」

お姉ちゃんがワクワクしながら、お母さんに尋ねた。

「いやね。私も詳しく聞いた訳じゃないよ。ただ……時々泣いている母と、それを見つめる父の悲しい顔を思い出すとね。そう思っちゃうのよ。」

「ええ!なんか理由あり?」

「みたいね。そんな夫婦が嫌だったから、私は恋なんてしないで、お見合いにしたのよ。」

「へえ。」

お母さんとお姉ちゃんの話を聞いていると、恋って悲しい思い出しかないのかと、思ってしまった。

「お祖母ちゃんか……」

私が呟くと、お母さんは棚から一枚の写真を、私に渡した。

「これがお祖母ちゃんの若い頃の写真よ。結構美人でしょ。」

「うん……」


お祖母ちゃんは、どんな恋をしたんだろう。

泣いて暮らす程の、辛い恋って何?

お祖母ちゃんは、そんな恋をして不幸じゃなかったの?


ボーっと見つめていると、急に周りが暑くなった。

「暑い……」

天井を見るとそこは、見た事もない天井だった。

「えっ……」

私が起き上がると、そこは見た事もない風景が広がっていた。

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