第48話 氷狼

ずりずり……


スピカは、レオの死体を引きずると……少し離れた所に横たえる。


「ふい……重い!」


スピカは、涙目で叫ぶ。

レオ、もっとダイエットして!


溜息をつくと。


「ニーヴェルタッタ、ニーベタッタ。四巻の欠片、より戻りて、いざわん。ルールータッタ、ルータッタ」


おおよそ、戦場では絶望的な長さの詠唱。

おまけに、詠唱中は外界の情報を遮断しなければならない。

欠陥だらけの……残念魔法。


「はーい、いくよー。はーい、いくよー。いくよー……」


詠唱も格好良く無いし。


「そーれ、復活の輪タイニーサークル


全ての記録アカシックレコードに接続。

レオが死ぬ直前の記録を読み出し、レオに上書き。

レオが蘇生──いや、レオの死が

その上で、


甘い光ウィスプ


光属性、第捌階位エイスを発動。

レオを昏睡させる。


まだ寝てて。


リン……


あたりの気配を探るが、幸い別働隊は居ないようだ。

そして。


「ええ……」


都合が良いと言えば良いのだが。

棒立ちになって立っている男達。


咄嗟に無詠唱で発動した幻術……まだ惑わされているのだ。


「リン……フィ……ウィ、ウィーラ。リー、タイニー、タイリー……」


あまり手は汚したくない。

だから……


「おやすみ……妖精の輪フェアリーサークル


魔術、秘蹟と並ぶ、最強の魔法、神秘。

いや……魔術と秘蹟が、他属性を強くした物なのに対して……神秘は、常識を改変する存在。

同列に数えるのは失礼だ。

魔術と秘蹟に対しても、神秘に対しても。


先程までの幻覚と異なり……


--


「貴様……このままでは……埒が明かぬ」


「トラリオン将軍……それは本気で言っているのかな?」


「?!……何故、私の名を?!」


「貴方のその生き様……根底に有るのは恐怖……」


「?!」


見透かされている……?


トラリオンは、汗が噴き出すのを感じた。

そう……


ずっと、トラリオンは、怯えていた。

これまでの人生も……そして……


さっき、あれを見た瞬間から。


若き日に、手合わせをして、絶望したあの日。


炎帝アネモニと、神手クレマティス。

その、圧倒的な力。


炎帝アネモニから聞いた、不死鳥フェニックス

そして……


くすり


スピカが手を伸ばし。


「嘘だろ……やめろ……やめてくれ……」


トラリオンが懇願。

だが、そんなものを受け入れる義理は無く。


氷狼デス


ギジ


部下の1人が……動かなくなる。


対象を死に至らしめる、究極魔法。


「こ……殺せ!」


詠唱の隙を与えたら、死が待つのみ……いや、そもそも、詠唱をしていたか?!


トラリオンが、槍を振り回し。

スピカはゆるゆると躱すと、


氷狼デス……氷狼デス……氷狼デス


「やめろおおおおおおお!」


1人、1人と、部下が倒れていく。

天界ヴァルハラに行く事すら許されない。

ただ、死に、消える……


くすくす……


スピカの微笑みが……世界を……満たす……

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