第43話 死地

「また会ったわね、この魔物……!」


アンナが、わめく。


人気の無い場所にルシフがいた……その好機を逃さず、ちょっかいをかけてきた。

無論、ルシフが誘ったのだ。


アンナは、罠に飛び込んだ獲物……いや。

死地に飛び込んだ、愚者。


「アンナよ、俺もお前に聞きたい事がある」


「様をつけなさいと言ったでしょ!あんたたち、賤混者ハーフは魔物!純人間ピュアのお情けで、殺されずにいるだけの……奴隷よ!純人間ピュアにひれ伏さないといけないのよ。ましてや、私は高貴なる存在……口の利き方を覚えなさい!」


どうでも良い。


「この包み、見覚えが有るな?」


「何よ、それ、私が王女殿下にあげた物じゃない。何でお前が持ってるのよ!」


白状した。


「これはお前の単独行動か?それとも背後がいるのか?」


「何を言ってるの?!ふざけるな!」


アンナがわめくが……ルシフには視えている。

虚偽の色……魂のさざめきを抑えられないのなら、嘘はつく意味が無い。


「一つ問いたい。お前は魔物が危険だと言ったな」


「そうよ、お前は危険な存在よ!」


分からない。

何故だ。


「何故、お前はその危険な存在の前に、そうやって立っているんだ?」


理解できない。


猛獣の前に、裸で寝そべれば、そのまま食されるが道理。

遥かに格上の猛獣の前に出るのであれば、最低でも完全武装し、かつ、隙をつき、先制攻撃を狙うべきで。

一番良いのは関わらない事。

もし排除が必要で有れば、徒党を組んで、相手を上回る戦力を準備すべきだ。


「はあ?ふざけるなよ!」


逃げ出す事を警戒したが、それすらせず。

というか、一切の戦闘準備すらせず、尚もののしる。

理解できない。


だが。


そんな理解できない行為に、付き合う理由も無い。


「え……」


それが、アンナそれの、最期の言葉であった。

もはや、アンナという存在はいない。

目の前に在るのは、ただの抜け殻。


魂侵食ソウルドミナンス


恐らく、ルシフの親は、下位悪魔レッサーデーモンの一種と思われる。


ルシフは、顔をしかめる。

醜い。

魂の輝きは、尊いもの。

一つとして同じ物は無く、何時までも眺めていられる。


だが、魅入られた魂は……酷く醜悪だ。

たった1滴でも、魔が混じった魂は……一片の価値も無い。

その容れ物も、ただの人形。


そこにあるそれは、酷く醜悪な色と臭いを放ち。


「出せ」


ルシフの言葉めいれいに従い、アンナだったものは淀みない動作で、胸をはだける。

それが、人間が行った動作であれば、ルシフも興奮を覚えただろうが。

人形に心を動かされる趣味は、流石に、無い。

それに……それが晒しているものは、乙女が晒してはいけないもの、ではない。

人が晒してはいけないもの、それを、ルシフが手が届く場所にさらけ出しているのだ。

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