第41話 くわばら

ただまあ、話している内容には同意する。

普通に考えたら、能力封印等を施すべきなのだ。

何もせずそのまま動いているのは……危険極まりない。


「更には、職業制限の撤廃の噂まであります。重要な公職、治安を護る指示を行う者、王の警護……考えてもみて下さい……そんな職に、魔物がつけば……この国は、暗黒に沈みます」


賤混者ハーフには、自分を抑えきれず暴走する者も珍しく無いし。

純人間ピュアとは異なる倫理観を持つ者も少なくない。

そして……仕事で平等に評価されるとすれば、上位の職を賤混者ハーフが占める危険性がある。


賤混者ハーフは千差万別……そして、ある能力において、純人間ピュアより特化する事が珍しく無い。

力、魔力、素早さ……そして賢さ。

優秀な者を選んでいけば、賤混者ハーフが優先的に選ばれてしまうのだ。

これは、制限しておくべきだと思っている。

リリーが、リブラを王にというのは、資質だけ見るなら妥当だろう。

あの頭の良さ、冷静さ、謙虚さ、優しさ、責任感……純人間ピュアでは敵わない。


「みなさん、純人間ピュアの為の国を、取り戻しましょう!」


わー


喝采が起きる。

まあ、これが現実。


賤混者ハーフは即殺すべし。

それが他の国の常識だが。

この国では、殺害まではいかなくても……本当に同等の権利を、等と言うのは極めて小数派……というか、リリーくらいじゃないだろうか?

ディアナやルピナスは、一般の人よりは賤混者ハーフに寛容だと思うが。


--


「ルシフさんですね」


突如、呼び止められる。

こいつは確か……ルシフは、古い記憶を呼び起こし。


「アンナ、とか言ったか?」


たしか、リリーを迎えに行った時にいた取り巻き。


「様をつけなさい!無礼者!」


貴族か。


「これは失礼しました、アンナ様」


「ふん……ともかく、貴方に命じます。今後、リリー様に近付かないで下さい」


「それはできません」


向こうから来るからな。


「……魔物風情が……貴方がリリー様を利用して、国を乗っ取ろうとしているのは分かっていますのよ」


「事実無根だな」


俺は実家の薬屋を継ぐんだ。

邪魔しないでくれ。


「だいたい、何ですの、親となった魔物の情報が不明って……親の魔物が不明なら、都市には入れない筈でしょ!」


「ああ。そうなんだが……幸いにも、そこに口を利いて貰ってな」


俺も、入れちゃ駄目だろ、とは思った。


「ともかく、分かったわね!」


アンナは、そう言うと去って行った。


アカネアの傘を着て、意外と腫れ物扱いされる事が多いルシフだが。

王都で実際の身分は、一般市民以下。

貴族に身分を振りかざされたら、取り敢えずそれっぽい態度はとる必要がある。

面倒な要求をされたら、それはそれで断るが。


アンナ自体は、美人。

能力も高そうで、魂の輝きも美しい。

今もハーレムを目指していたら、口説いていたかも知れない。


無論、あの性格は遠慮したいし……勇者の二の舞になるかも知れない。

くわばらくわばら。

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