第25話 捕食衝動

「……ディアナさん……大丈夫かね?」


ディアナの息が……荒い……


「すみません……木の匂いが好きで……抑えられなくて………ごめんなさい、少し落ち着くまで、こうさせて下さい」


ディアナが、リブラに顔を埋め、消え入りそうな声で言う。



何だこの状況は?!

リブラが戸惑う。

ディアナの高い体温が伝わり、心地良い。

凄く良い匂いがして……



喰べたい。



ディアナの魂が、心が、完熟した果実の様に感じる。


リブラの父親は、魔樹。

S級危険隔離指定地域の支配者達。

人を襲い、捕らえ、生かさず殺さず飼い……魂を喰べ尽くし……輪廻の輪に戻れず、ただ消える……


リブラは、自分が魔物で無いと強く自負しており、今日まで捕食衝動など感じた事が無かった。

舌を噛み、耐える。


自分を信じてくれている存在を裏切るなど……有り得ない。



ディアナは、リブラの胸に顔を埋め、思う。



私、何やってるんですかああああ?!



これじゃ、痴女か、変質者か……本の匂いかいだからって、トリップする危険人物って……!

引かれて当然なのに、リブラからは蔑視の感情は感じない。

不味い……好き過ぎる。


もともと、リブラに悪い感情は持っていなかったけれど。

人物の様な持たざる存在には、眩し過ぎる存在。

恋愛感情なんて、感じてはいなかった。


リリーにあてられたのもある。

だが、リブラと近くで接して、その雰囲気や……容姿……性格……実が弾けた様に、好きになったのだ。

それに、二人きりになった事、良い雰囲気、空想にふけった事、本の匂いに一瞬くらっと来た事……要因が重なり、大胆な行動に出てしまった。



永遠とも感じた時間の後、ディアナは顔を上げる。

心配そうに見てくれているリブラ。


ごめんなさい……そして……ディアナは、恋を知った。

リリーが、必死になっていたのも、分かった気がする。


「すみません、普段は隠せているのですが……発作が起きてしまいました」


「構わないですよ。私も、賤混者ハーフ。多種多様……お互い様です」


リブラが、微笑み、心の中で嘆息する。


この美しい笑顔を失わなくて……自分を抑えられて本当に良かった、と。

改めて、自分が恐ろしい存在であると……自戒した。


--


翌日、部室。


「さて、では、記事の執筆に入るわよ!」


リリーが宣言。


「待ちたまえ」


シリウスが突っ込む。


「あの……まずは、資料を集めるのが先だと思います。各々、手分けして資料を探し……集めた情報をみんなで検討しませんか?」


ディアナの提案。


「それもそうね……では、幾つかのグループに別れて……」


リリーはルシフを見て、


「ルシフ、一緒に調べるわよ」


「ああ、分かった」


ルシフが頷く。


「ええ……調査とか……頭使うの、苦手なんだよなぁ……」


「レオ、一緒に調べよ?」


レオのぼやきに、スピカが誘い。


「リブラさん、手伝って貰えますか?」


「良いですよ」


ディアナ、リブラがペアとなり。


「では、残った私達、組みましょうか?」


「承知した」


ルピナスとシリウスがペアとなった。

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