ハーフ・アンド・アーク

赤里キツネ

第1話 ハーフ・ミーツ・アーク

はあっ……はあっ……


少女は、走る。

長く美しい、桃色の髪。

幼さの残る顔立ち。

戦闘には向かないドレス。

武器も身につけておらず。


王貴血者アーク

大陸最大にして、最古の王国、ロマニア。

その第一王女。

リリー=トルマ=ロマニア。


本来は、深窓で着飾った令嬢では無い。

むしろ、同世代では屈指の強者。


だが、今その命は風前の灯火であった。


使者の役目を果たし、帰還の途中。

信頼していた部下の裏切りで、馬車は道を外れ。

親衛騎士達がなんとかリリーを逃し。

しかし、それすら敵の手の内で。


「けけ、王女様ぁ、ここまでのようだなぁ?」


「貴方達……何故この様な事を!」


「おっと、依頼主の情報は渡せねえなあ。幾ら今から殺すとはいえ、そうそう漏らさねえぜ?」


悪役が、べらべら背景を語って……そんな展開は、そうそう無いだろう。

だが。


「もっとも、殺す前にはたっぷり愉しませて貰うがなあ!」


絶世の美女を前に、ただ殺すだけ、という事も珍しいだろう。


「く……天上に光有り、大気に力有り──ひゃあ!」


詠唱を始めたリリーを、後ろの男が羽交い締めにする。

これでは、印を結べない!


「おおっと、捕まっちまったなあ?」


「やめ──嫌、何処を触──」


リリーの目に、涙が溢れ。


「今からたっぷり触ってやるよ、恥ずかしい所をなっ」


男が、リリーの胸元に手を伸ばし──


「おい、ちょっと聞きたいんだが」


割り込む、鋭い声。

いつの間にか傍に来ていた少年が、男の手を掴んでいる。


白髪に、あかみどりのヘテロクロミア。

華奢な身体つきで──しかし、信じられない程の怪力で、男の腕を止めている。

妖艶とすら表現できる美しさ。


「な、何だ貴様は?!」


「聞きたい事は幾つか有るが……まず、王都ロマニアってどの方向だ?」


「こんな街道から外れた所に来やがって……いいか、ロマニアはなあ──」


ザンッ


少年が立っていた場所に、部下が斧を振り下ろす。

だが、少年は既に場所を移動しており。


「ふむ。やはり都会は恐ろしい所だな。道を尋ねただけで殺されそうになるとは」


「貴様、ふざけやが──」


サンッ


男の首が飛ぶ。

少年が、素振りをする様に軽やかに、切り飛ばしたのだ。


ひゅひゅひゅ


剣を振り、次々と男達の命を奪い。


チャ


「後は君だけだな」


「殺さないで下さい?!道は教えますから!!」


「殺さないよ?!」


涙目で懇願するリリーに、少年が突っ込んだ。

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