さん

「ヤバいな……、今回の石像はかなり強そうだ。確かにこれじゃあ俺の装備では狙うのが難しいぞ」

「だから五代さんは私にやれと言ったのか。だがどうだ? 速度はどれくらいだ」


猛スピードで走る車の揺れになんとか耐えながら、二宮は立ち上がり巨大な砲を担いだ。石像の表面は堅い、そしてのっぺらぼうを倒すのに使った光の耐性が高い。一条の使った弾丸の光では光量が低すぎるのだ。照明弾でようやく表面を焦がせる程度。だから二宮のように高火力で一気に叩かなければ倒すのは難しい。


一条は後方の扉から迫る天使を確認する。車もかなり飛ばしてある、だがそれに追いつく速度で石の翼をはためかせるのだ。そして頭のない首に石膏のように白い光を集めると球体に圧縮していたのだ。


「おい五代、なんかアイツ飛ばそうとしているぞ!」

「安心していろ、ちゃんと見えている。それよりお前はお嬢のサポートをしろ」


バックミラーを見て五代は迫る奴を確認する。そしてほんの少し羽のはためきが乱れたのを察知すると、素早くハンドルを回した。その勢いで再び車内の二人はよろめき、近くの地面は破裂した。


このまま逃げても埒が明かない。不安定な足場のまま、二宮は天井の扉をずらし上半身だけ身を乗り出す。そして銃を浮遊する対象に向けて引き金を引く。光の波が辺りの風景を歪ませながら直進する。しかしその光の波は石像に当たる寸前にかわし、光はそのまま関係のないビルの壁へと染み込んでいったのだった。その行動に思わず二宮は舌打ちを打った。


速度が速く、他の個体を従わせるほどの知能もあった。そして高い防御力に攻撃性、このまま逃げ続ければ封鎖範囲を越えてしまう恐れもある。それ以前にもこの場所を破壊され続けるのもだ。

しかしこのままでは決定力に欠ける。確実に追い詰められる手段が彼らにはまだないのだ。

一条もこの状況で文句だの減らず口を叩く余裕はなかった。今も石像は緩やかに滑空し隙あらばエネルギーを溜め撃ち飛ばしてくる。その度に五代はハンドルを力強く回してその弾を避けるのだった。


「あと残りは七発ほどあるわよ。ただ……命中させるにはあの機動力を何とかしなければまず無理よ」


二宮は静かな声で伝えるが、その頬には冷たい汗が垂れていた。よほど焦っているというのもあるが、自身が言った「機動力をどうにかする」方法が全く浮かんでこないのだ。今目の前にいる敵とは違うが彼女らは以前にも似た敵と戦ったのだ。当時の姿は眼光鋭い八メートルほどある木製の仏像だったが、その体表の時ですら一条や四谷が使った弾丸を弾いてしまっていたのだ。そして倒すことが出来たのは仏像の顔面に直接光を照射したことで頭の八割方を吹き飛ばすことが出来たのだ。


その敵よりサイズは小さいが、今度は石製だ。強度も以前より高くなっているとしたらまず弾丸の光では不可能。残る手段としては光の直接照射しかないだろう。だが奴はあのスピードだ、足止めしない限りは当てるのはほぼ不可能だ。


しかし問題は、どう足止めするかなのだ。


弾丸は通じない、光も当てる前に奴はすぐに回避するだろう。そのことに二宮は苦悶してあり、そしてその意味も一条は先ほどの言葉から理解していたのだ。

今この状況では逃げるしか策はないのか。そう思っていた時だった。耳元でザザッと音が鳴り、そして若々しい声が鳴り響いたのであった。


『先輩方聞こえますか! なにかそちらで爆発が起きているのですが一体どういう状況なのですか』


困惑と焦りが両方まじったその声の持ち主は四谷だった。先ほどライフルのスコープで目視していたのだったが、車の急発進と爆発でおきた砂埃のせいで、彼はこの逃走を見逃していたのであった。


「聞こえるか四谷。今は成すすべもなく空飛ぶ石像から逃げてるところだ。そっちからは見えないか?」

『爆発があったのはわかりますが、さっきから他のビルの死角に入っているので見えないのですよ』


お互い必死な声で通信を取っていたその時、今まで直接車を狙っていた石像は、再び生まれた光を、これから走り抜ける道に放ったのであった。

狙いが違うことを五代はすぐに感知した。だが同時に避け切れないことも感じとってしまったのだ。


「お前ら衝撃に備えろッ!」


普段温厚な彼から信じられないほど野太く力強い怒声を出したとそのすぐに、道は消え失せ、彼らの車は宙を舞ってしまったのであった。


『先輩? 応答してください、先輩!』


四谷は一人ビルの屋上で、大きな爆発が起こった場所を見つめながら叫ぶも、だれもその声に答える者はいなかった。

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