いち

「コロロセ、ヌガスな! バララバにしろ!」


 胃袋をまるで蛇のように動かしながら二体俺に絡み付こうとしている。残りの四体は壁や電線に張りいたりぶら下がったりしながら追ってくる。動きも気持ち悪いが、何より全員同じ顔なのが一番気持ち悪い。


 彼は路地をあちこち曲がりながら逃げ続ける。もちろんただ単に逃げ回っているだけではない。


 また一条が曲がり角に体を入れると、しつこく四体の人間擬きは追って曲がり角に入った。すると目の前から何かが飛んできた。サラリーマンの見た目をした一体は思わずそれを掴んだ。それは楕円形の黒いゴツゴツとしたボールだった。


「そいつはただの照明弾だ。こんな場所で爆弾なんか使えばこっちだってまきこまれてしまうからな。ただし……、ちょいとその光はアンさんらには厳しいものかもな」


 逃げながらそう吐き捨てると爆弾は破裂した、その瞬間に青白い光がそのサラリーマンに当たると、風船が割れて中に入っていた液体がこぼれるように体が溶け片腕と頭だけを残し地面に落っこちた。

 光の余波に煽られて、近くにいたセーラー服を着た化物の腕も一緒に溶け落ちた。

 追っていた内の一体が消滅、そしてもう一人も腕が溶け落ちたことに、残りの白髪の方と主婦に似た格好の二体はほんの少し動きを止めた。


 一条はその隙をも逃さなかった。


 走っている身体にブレーキをかけ、地面を滑りながら上半身だけ振り返ると、腰に提げた拳銃を五発、間髪入れずに撃ち出した。

 その弾丸は、先ほどの照明弾と同じ光の残像を伸ばしながら、止まった二人の眉間へと一直線に進んだ。

 この出来事はほんの数秒の間に迅速に行われた。それを驚いた状態で対応できる訳がない。それぞれ二発ずつ頭にめり込むと、弾丸は青白い光を放ち小さな爆発を起こしながら彼らの頭を完全に溶かし切った。

 一条が撃った弾は五発。残りの一発は片腕を失ったセーラー服へと進んでいた。それはブレなど存在しない完璧な弾道だった。

 セーラー服の残党は口から胃袋出すと、先に倒された主婦の体に纏わりつくとそれを盾にし弾丸を防いだ。

 盾にされた体は腹部に当たり胴部と脚部を分かつ形で破裂した。その体が地面に落ちるときには、セーラー服は出した胃袋をロープのように使い移動していた。


(マジか今まで何体か同じタイプの奴と相手したが、こうも頭を働かせる奴は初めてだ)


 予想外の動きに驚いたがすぐにその場を移動した。今倒したのは三体、ちょうど半分を片付けたことになるが、残り半分の一体が怪しい動きをしていた。

 残りの二体も深追いせずに胃袋を伸ばしていたこと考えると知能が高いのかも知れない。

 とにかく一人で殲滅するのは難しい。まずは応援とすぐに落ち合えるようにと、路地を抜け大通りを目指すことにした。

 周りには細心の注意を払いながら路地を走り抜ける。だがそれでも、ビルの屋上を伝って追いかける二つの陰には気づいていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る