最終話:訪れる最後の時/報いを受ける覚悟はいいか

 麗華と恵夢の間で繰り返し交わされる口づけ。

 つかの間、繰り広げられる2人の世界。それを邪魔する者は誰もいなかった。


 薔薇ガキ隊は現在進行形で陣太に夢中になっており、桃山姫子にはそもそもどんな形であれ事態に介入するだけの力がなかった。


 灰戸鋭介は目の前の愁嘆場しゅうたんばをニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべて見守っていた。

 彼にとっては、今更何が起ころうとこの後で自身が行う狼藉ろうぜきへのアクセントに過ぎない。


 自身を囲む火炎の勢いが衰えた時、目の前の女3人をどのようになぶってやろうかと、さらなる獣欲をかき立てていた。


 だが、事態を動かしたのは灰戸鋭介ではなかった。


「ひぎいいいいいいいいいいいい!!」

 とどろいたのは薄汚く濁った悲鳴。


 あげたのは薔薇ガキ隊のボーンナム。

 血まみれの股間を押さえて地面をのたうち回る。


「ボッカ・デラ・ベリタ……。切り落としてやったぜ。真実の口に入れられた嘘つきの手首のように」

 おののき、動揺する薔薇ガキ隊の間から、清谷陣太がゆらりと立ち上がる。


 衣服は剥ぎ取られ全裸。傷とキスマークだらけの身体は泥まみれ。顔面には幾筋もの涙の跡。


 どこからどう見ても哀れをもよおす敗北者の風体。

 だが、目には鬼神のごとき闘志が宿り、その股間は天を衝かんばかりに反り返っている。


 血と不快な粘液にまみれた股座から、ずるりとボーンナムのものだった海綿体が落ち、地面でべチャリと音を立てた。


「お゛、おれのチ○コがああああああああ!!」

 己が分身を失ったボーンナムが絶叫し、それを耳にした薔薇ガキ隊の股間が萎縮する。

 それはすなわち性闘力の減衰を意味する。


 瞬間、陣太が吠えた。


「お前らには、一片の慈悲さえ与えない。喰らえ、ナッツクラッシャー・四連轟!!」


 放たれる4連撃。

 正確無比な鉄拳が傍若無人な人非人どもに襲いかかる。


 それもただの鉄拳ではない。

 なぜなら、かつて無い(処女喪失の)苦しみと悲しみを乗り越えたことで、陣太はある種の境地へと至っていたからだ。。


 いうなれば、穏やかな心を持ちながら激しい性欲によって目覚めた新たな清谷陣太。

 超・清谷陣太スーパー・セイヤじんたとでも言うべき存在なのだ。


 打ち込まれた拳はまず、薔薇ガキ隊の陰嚢いんのうを粉々に粉砕。さらに浸透した衝撃が前立腺をはじめとした諸器官を徹底的に破壊した。


「「「「ぴぎいいいいいいいい!!」」」」

 去勢される豚の悲鳴とともに4人のゲイが崩れ落ちる。

 これでもう、薔薇ガキ隊は二度と勃起することはない。


「てめえ、あの状況からどうやって」

 戦闘面ではもっとも信用していた部下の敗北に灰戸鋭介は忌々しげに吐き捨てる。


 答えたのは、それまで恵夢と濡れ場を演じていた麗華だった。

「ざまあないね。勝ち誇って、余裕をかましているから足下を掬われるのさ。」


「そうか。お前らの濡れ場はソイツに見せつけるためか!?」

 その質問に答えはなかったが、沈黙こそが答えだった。


 そう、女王様たる九院麗華は決して諦めることはない。

 先ほど、恵夢と演じた濡れ場はそれ自体が目的ではない。陣太に見せつけることこそが目的だったのだ。


 陣太は純愛趣味であるため、レイプ、痴漢、NTRと言ったジャンルには強い拒否反応を示す。


 しかし、純愛であれば女性同士、いわゆる百合も好物だった。

 そんな純愛雑食動物の前で濃厚な百合を演じることで一度は尽きた陣太の性闘力コスモをわずかに回復させた。


 さらには、薔薇ガキ隊によってもたらされる本能的危機感。

 貞操を失い、生命の危機さえ感じられる状況で生存本能フル稼働。


 子孫を残すべくわずかに芽生えた性欲は爆発し、チ○コは瞬間的に限界を超えて硬質化したのである。


「麗華さん、ありがとうございます。あとは、俺に任せてください。」

「ええ、よろしくね」


 そう言うと、麗華は力尽きるように膝を突く。

 彼女もすでに限界だった。


 対照的に恵夢はかつてないご褒美に完全に発情しており、今も麗華の頬などをチュッチュしているが、それを止める元気もないようだった。


「桃山さんは2人を頼む。」

「は、はい」

 姫子はオロオロとしているばかりだが、それでも返事はしっかりしていた。


 そして、陣太と灰戸鋭介は向き合った。

 麗華が放った炎は消え、2人の間には灰色の煙だけが漂う。


「もう、お前を守る仲間はだれもいないぞ。」

 狼の眼光をたぎらせながら陣太が吠える。


「オカマ掘られるだけじゃあ足りねえようだな。お望み通り殺してやるよ。」

 灰戸鋭介は狂犬のごとく唸る。


 静寂の刹那。

 先手をとったのは灰戸鋭介。

「喰らえ、ハウンドプラトーン!!」


 ハイ○ース行為の邪魔者を即座に排除するための容赦ない連続攻撃。


「ライクアヴァイブレーション!!」

 対する陣太も超速の連打で迎え撃つ。

 あまりの打撃の速さに腕がまるでその場で振動しているだけのように見えた。


「おらあああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおお!!」


 互いの拳圧により、双方、はじかれるように距離が開く。

 同時に陣太の右こめかみ付近から血が噴き出す。


「どうした。口ほどにもないな。」

 自身の優位を確信した灰戸鋭介がニヤリと笑う。


「かすっただけだ。それよりも、いまので全力か?」

 陣太も動揺を全く見せることなく、挑発を返す。


「上等だ!バッドガイズトゥーバッド!!」

 放たれたのは猟犬の狩りを彷彿とさせる凶悪なコンビネーションブロー。

 左右の連打で相手のガードを揺さぶったところに、本命の強打がボディへ深々と突き刺さる。


「死ねぇええええええええええ!!」

「ぐおおっ!!」


「清谷さん!!」

「ふん、たわいねえ。」


 激しく吹き飛ばされる陣太の姿に姫子が悲鳴を上げ、灰戸が勝ち誇る。。


 だが、その顔色はすぐに青ざめることになった。

 大地に大の字になった陣太。その股間がなおも高々と天を衝き、屹立していたからだ。


 チ○コの堅さは意思の堅さにして性闘力の証。


「なん、…だと」

 灰戸鋭介の攻撃が、清谷陣太の闘志を、性闘力を、なんら損なうことが出来ていないことを何よりも雄弁に物語っていた。


 そのことをなおさら強調するように、陣太がむくりと立ち上がる。

「効かないな。」


 完全に見下す視線。

 はじめて感じる圧力に灰戸鋭介の背中を冷たい汗が伝う。


 心に生じたのは恐怖。しかし、それを否定するように灰戸鋭介は雄叫びを上げて襲いかかった。

「がああああああああ!!」


 渾身の右。


 だが、陣太の右手がそれを受け止める。


 轟音が響くが、陣太の右手は小揺るぎもしない。

 そこには万力のような力が込められていた。


「やっぱり軽い。そして、今ので確信した。お前、童貞だな?」

「何言ってやがる。俺が今まで何人……」


 反論する灰戸鋭介を陣太は殊更ことさら冷ややかに否定した。

「お前こそ何を言っているんだ。レイプはセッ○スじゃない。か弱い女性の身体を無理矢理使って、オ○ニーしてるだけだ。オ○ニーで童貞が捨てられる訳がないだろうが。」


 だから、レイプじゃ処女も喪失しない。俺はまだ処女だ。陣太は心中でそう叫んだ。


「性闘士は飢えるほど強くなる。セッ○スを知らず、ただ自分勝手なオ○ニーで飢えをごまかしてきたお前の攻撃じゃ、俺は倒せない。」

 込められた殺気に灰戸鋭介はひるんだ。


「ひいッ」

「覚悟はいいか。今から、お前に報いを受けさせてやる!」

 宣言と同時に繰り出された左フックが灰戸鋭介のアゴ先をかすめ、脳を激しく揺さぶる。


「な、…え、ぁ!?」

 たたらを踏んで後退する。脳しんとうのためにゆがむ視界の中で、陣太が構えをとっていた。


「断罪・ナッツクラッシャー百式!!」

 雄叫びとともに百発の打撃が灰戸鋭介に襲いかかる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」


 玉は砕かれ、前立腺は破裂。

 全身の骨格は粉砕されたうえに、内臓諸器官はホルモンを異常分泌。

 人類史上最高レベルの痛みと不可解な症状を味わいながら灰戸鋭介は空高く飛翔した。


「ふギッ」

 そして、落下。潰れた蛙のように、無様に大地に沈んだ。


「俺の、勝ちだ。」

 宣言するように口にした陣太の身体がぐらりと揺れた。

 そのまま、まるで支えを失ったかのように地面へと倒れ込む。


「清谷さん!」

 姫子が慌てて駆け寄る。


 一歩遅れて九院麗華も駆け寄り、容態を確認する。

「医者じゃないから絶対じゃないけど、どうやら気を失ってるだけみたいね。」


「そうですか。よかった。」

 胸をなで下ろす姫子。


「とりあえず、サッサと帰ることにしよう。あっちに車が止めてある。ちょっと距離があるけど、歩ける?」

「あ、はい。大丈夫です。」


 答える姫子の顔がちょっと赤い。

 そういえば、麗華にお姫様抱っこされてましたが、まさか新しい扉を開いてしまったのでしょうか。


「ほら、恵夢もいい加減シャキッとしな。」

 そう言って、今の今まで自分にへばりついていた雌豚にビンタをくわえる。


「ッ、ありがとうございます~。」

 頬への痛みに礼を言いながら、恵夢は正気を取り戻す。


「恵夢、貴方は陣太を背負って、先導は私がするわ。桃山さんは一番後ろ。頭をやっつけたから、ハイ○ーサーたちも性従士セフレの力を失っているはずだけど、残党がいるかもしれないから気をつけていきましょう。」

「りょうかいしました~」

「はい、分かりました。」


 麗華の指示のもと、陣太を含めた一行は戦場を後にした。

 荒野には、理性を失った豚、文字通りに玉が砕けて玉砕したハイ○ーサー、そして100台のハイ○ースだけが残されたのだった。

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