第6話 小さい頃の私


父は繊維会社に勤めているサラリーマンだ。

四人家族の私達。

父はいつも朝早くから出勤し、夜遅く帰ってくる生活をしている。

だから父は、私と姉とは普段から顔を合わすことが少なかった。

私達が起きる頃には、父はもうすでに出勤していたし、夜はいつも十一時過ぎに帰宅して顔を合わせなかった。


そんな生活をしていたが、日曜日だけは家族揃って夕食を食べたり外食をして楽しんでいた。


そんなある日、平日にもかかわらず、父は早めの帰宅をし、食卓に座っていた。

珍しい事なので

「父さん、今日は早いはね。」

と早い帰宅の理由を聞いてみた。

お父さんは落ち着いた顔で

「そうか、こういう事もあるよ、まぁ座りなさい。ところで姉のミユはまだ、帰ってないのか?」

ぶ然とした表情の父の前で私は言った。

「お姉ちゃん、まだみたい。」

「そうか…、それじゃ少し待ってみよう。」

とテレビのスイッチを入れる。

何かあったのかな~?

少しだけ胸騒ぎをおぼえた。


父の会社は昔からある会社で、地方のあちこちに工場などがあった。

繊維会社ということだけあって、水がキレイな所に工場が建っている。

社団法人としも有名な会社で、各地方にあった。

私が小さい時は、山口県の岩国に一歳まで住んでいた。

それから、父の転勤で福井県に引っ越しして四歳になる頃は、兵庫県神戸市に移り住んだ。

小さい頃の思い出としては、次に移り住んだ、福井県の記憶が少しあるだけだった。


かすかにある記憶の中でも覚えてる事があった。


ある日、幼稚園に通っていた。

帰宅するときは、いつも母が迎えに来てくれるが、何を思ったのかその日の私は集団の中で帰宅した。

班に混じって入り込んでいたのだ。

結局、全然違った方向へと帰っていった。

皆と別れて一人になって初めて不安に襲われ、私一人引き返したものの、歩道橋の上で迷子になっていた。

その場で立ちすくんで泣いていた。


時間の経過が遅く感じられた。

何十分その場にいただろうか…。


突然、目の前に女の人が現れた。

その彼女とは、近くに住む、中学生のお姉さんだった。

私を見つけてくれたのだ。


その頃、幼稚園の方でも大騒ぎになっていた。

母が幼稚園に行ったものの、私の姿がないので慌てて探したが、見つからずに途方に暮れていた。

そこにご近所のお姉さんがたまたま見つけてくれたのだ。

私と一緒に家の方に帰って来てくれたのだ。

母も先生たちも見つかって安堵した。

私を抱きしめ、泣き出す先生もいた。

肩に手をやり、柔らかい声で

”よかった、よかった”

という。

私も開放されたかのように泣いた。

その後で聞いた話だった。


福井県に住んでいる時の私は、写真で見る記憶しかなかった。

冬には雪が降り積もる。

朝、起きたら、私の背丈ぐらいの雪が積もっていた。

慌てて家の前だけ雪かきをし、姉と一緒に雪に囲まれている私達の一枚の写真があった。

その写真を見ると、雪国ってすごいなぁ〜と思った。


小さいながらも、最初のうちは喜んでいた。

それでも降りしきる雪にハイテンションだった私も、家にこもるようになっていった。

雪を見ることも嫌になっていったのか、圧倒されていたのか…。

あまり覚えていない。

小さいながらもそんな記憶しかなかった。



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