第28話この料理やばい

「雫月様、芽里お嬢様、雪お嬢様、透お坊ちゃま! それに征太さんも、ご飯できましたよ〜!!」


キッチンの方からさくらのふわふわの声が聞こえてきて、俺たちは作業を一旦おいていそいそとダイニングに向かった。は、でもよく考えたら今日の夕飯ってカロリー爆弾じゃね?


「ごはん! ごはん!」


雪はさくらのご飯が好きだから、すこぶる機嫌がいい。機嫌がいい雪はとびきりかわいい。天使。


「うわー、やっぱりダイニングひろーい! 前の家とは比べ物にならないよ」


前の家、狭かったもんね。うちの家は狭すぎるから、いつも皆でご飯を食べるときはかろうじて六人入れる芽里の家だった。簡易的ってことでさくらと征太の家も俺の家と同じようなアパートを貸してたし。まだテーブルはないから床に座って、オーブンから出したての熱々のチーズトマトスパゲッティを囲む。なんかあれだなー、六枚セットの食器とかあったほうが統一感もでるしいいよな。食器も買わなきゃか……


「わ〜、おいしそ〜!!」


雪はそう言って目を輝かせてるけど、雫月はちょっと引いてる気がするな。まあ雫月だからいいか。


「さくら、なんか適当な皿見つけられた?」


「はい! 使わせていただきますね〜」


お皿を探してダンボールを探っていたさくらがキッチンからこっちにやってくる。うーん、床に座ってるからなんか変な宗教団体みたいだな……


「飲み物は何がいいですか?」


「雪ぶどうジュースがいい!」


一番に自分の希望を言う雪。確かに、さっき買ってたもんね。スパゲッティには合うかも。


「なら俺もそれで」


「皆それでいいんじゃない? 嫌な人いないよね?」


あ、良かった。


「じゃあ食べましょうか」


皆揃ったところで手を合わせて、俺たちは謎の体制で夕飯を食べだした。



「美味しかった〜」


「ね〜、雪ちゃん!」


「また作ってみたいです!」


楽しそうにジュースを飲んでいる雪と芽里とさくら。


「は、はは……そうだね……」


「ええ」


かろうじて姿勢を保っている雫月と、執事魂(仮)ですべてを完璧に隠している征太。


「うぅ……」


そして倒れ込んでいる俺。誰か!! 俺の心配を!! しろ!!!


「おにい邪魔」


「ごめん……」


まあ、雪たちはそんなに大食いじゃないし。わかっていましたとも。俺たちが残り全部食べなきゃってことぐらい! 冷蔵庫はまだないから明日食べようってわけにはいかない。というか明日の朝っぱらからこんなにカロリー高いもの、正気じゃない。


「お坊ちゃま、お茶いりますか?」


「ありがとさくら……」


まあいいよ。美味しかったし。この料理じゃなきゃ余裕な量だった。ただこの料理がチーズのせいで胃にたまる料理だったから悪かったんだ。どんな引っ越し祝いだよ。


「さて、荷ほどきに戻りましょうか。お風呂沸かしておいたほうがいいですね」


なんとか復活している征太がそう言って立ち上がったので、後片付けはさくらにまかせて部屋を出た。



「あー……死ぬ……」


お風呂に浸かりながら、俺はため息をつく。まあ雪も楽しそうだったからいいよ。でも、あの、しばらくあの料理はなしで。


「このお風呂すごく広いな…… いいな……」


さくらと征太の部屋のお風呂はもっと広いときた。最高すぎる。この家買ってよかった。


「ねー、おにい! これどうするの〜?」


「あ、ちょっと待ってろ雪!」


雪に呼ばれてしまっては仕方がない。さっさと上がって早く行こう。というか洗面所とかある大好き。


「おにい遅いんだけど!」


「まって!!!」


まじで待って!!!お願い!!お兄ちゃんお風呂今上がったところなの!!!



「なんかおにい洗面所で変なこと言ってたよね」


「いってないです」


口に出してないのにどうして知られてるんだ。自分のことお兄ちゃんって言ってたこと。


「まあいいや。さくらと調理器具の整理してたんだけど、三家族分あるでしょ? 一応。どれをつかってどれを捨てる? それとも全部残しとく?」


あー、食器もあるけど調理器具も……


「さくらが使いやすいのはどれ?」


この家で料理するのは基本さくらだから、さくらが使いやすいのを残したほうがいいかも。


「私ですか? 私はやっぱり芽里お嬢様の家の物でしょうか……透お坊ちゃまのお家では料理はしませんし、自分の家でもあまりやりませんから……」


「じゃあ芽里の家のだけ残してあとは処分しちゃう? 芽里の家のはかなりなんでも揃ってるし、俺達のなくても十分使えそうだけど」


フライパンとか三個も四個もいらないでしょ。知らないけど。


「そうですね、数が多いものは使わない分だけさよならしましょうか」


なんか解決したらしいので良かった。


「雪は自分の部屋の整理は終わった?」


「けっこう進んだけど飽きちゃったからこっち来たの」


んん、可愛い。いいと思うぞ。ずっと同じとこで一人で作業してたら飽きるもんねえ。


「おにい顔変」


すいません……アイドルにあるまじき……


「そのうち写真撮って人目につくところにあげるよ」


やめて……次のライブで俺のライフがゼロになるから……ただでさえ陰キャなのに……


――――――――――――――――――


透がどんどんやべぇシスコンになってゆく。

次の更新予定日は六月十六日です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る