第24話家族だよ

「で、雪のさらに隣の部屋が俺の部屋」


俺が扉を開けると、みんななぜかきゅっと眉をひそめた。


「え、なに?」


怖いんですけど。と思ったら芽里に肩を掴まれた。


「なんで透の部屋だけウォークインクローゼットがあるわけ?」


あ、そ、そのことでしたか。ははは……


「ほ、ほら、ライブの衣装とかそういう系をまとめてここに収納しようと思ってさ。俺が個人で使うわけじゃないから!」


「ふーん?」


信じて。そんな顔で見ないで。


「まあ確かにアイドル関係のものは置き場所に困ってたからちょうどいいかもね」


そうだろうそうだろう。


「よし、次がほぼメインと言っても過言じゃないぞ」


みんなで俺の部屋を出て、突き当りにあるもう一つの部屋をさす。ここは外せない。にやにや笑いを浮かべながら、俺はドアノブに手をかけた。


「征太と、さくらの部屋だ」


「え、……」


どうだ驚いただろう? と二人を見れば、案の定どちらもぽかんと口を開けて呆然としている。これだけは征太にも内緒にしてあったんだ。二人を喜ばせたくて。


「マスターベッドルームって言うんだよ。一番大きい寝室。こんだけ広いから誰か一人の部屋にってのもあれだし、二人の部屋にしようと思って。ウォークインクローゼットもあるし、簡易的なキッチンもある。洗面所とトイレとお風呂も一通りそろってるからこの部屋だけで住もうと思えば済めるぐらいには充実してるよ」


「で、でも、いちばん大きい部屋ならお坊ちゃまやお嬢様のご両親のお部屋にした方が……」


さくら、そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。


「ほら、俺たちはさ、両親が仲良くて生まれた時からずっと一緒にいる幼馴染だから気が置けないというか、なんならもはや一つの家族なんだけどさ。やっぱりさくらと征太はいくら俺が雇ってるメイドと執事ってったってまだ出会って一年かそこらじゃん。しかも、園乃唯家っていう別の家庭を持ってる。俺のこと変な風に思ってないから軽口叩いたりしてくれてるんだと思うけど、やっぱり俺たちに知られたくないこととか、肩の力を抜きたいときとか、あるでしょ? だからさ、こうやって、プライバシーもちゃんと考慮したうえで二人をこの部屋にした」


言いたかったことを何とか言い切って、俺はもう一度二人を見つめる。どうせいつも一緒にいるんだから、仲間外れになんかせずに二人とも同じところに住みたい。でも、こういう家族ごっこは受け入れてもらえないかもしれない。だからこうした。ハウスインハウス。この部屋は、園乃唯家の城。


「いろいろ、考えてくださってありがとうございます」


普段軽い笑い声ばかりあげている征太が、いつもと違う。なんかこう、その……


「まだ未熟なくせに家を飛び出して、ぎりぎりで生活してるところを透様に雇ってもらって、結婚までしてこの年にしてはいい暮らしをさせていただいていたのに、こんな……透様と、芽里お嬢様と、雫月様と、雪お嬢様の家族だって言ってもらえたような、こんなこと、本当にいいんですか……?」


ぽろ、と征太の眼から、涙が零れ落ちた。え、まってあの、あの征太が、ない……てる……? 今まで一度だってそんな顔見せなかったくせに。しかも、さらっと俺のこと透って……


「私も、こんなに透様に考えて頂けてるなんて思ってなくって、ただお優しいから雇ってくださってるのかなって思ったことだってあって、なのに、」


こらえきれなくなったのかさくらまで泣き出す。どうしよう、俺の方が二人より年下だよ!? でも……


「……まだ、二十歳だもんなあ……」


ぎゅっと俺の服のそでを掴んで床に崩れ落ちた二人に目線を合わせるように、俺もしゃがむ。そして、二人の頭を抱き寄せた。


「いつもありがとう、征太、さくら。二人とももうずっと前から、俺の家族だよ」


成人の年齢といったって、まだ親の庇護から外れたばかりの二人。ちっちゃい頃から親があっちこっち飛び回ってるのを気にも留めてなかった俺たちと違って、子供な一面だってたくさんあるんだ。その証拠に、いつもの悪ふざけは兄弟にするようなものだから。


「俺たち二人より年下だけどさ、なんでも頼って。だってこの俺が」


そう、この俺が。


「二人の雇い主なんだからさ」


「そうだよ、さくらも征太もみんなで楽しく暮らそう!」


「雪勉強教えられるから何かわかんないことあったら言ってね?」


「僕が一番年齢も近いし、相談して?」


ほら、芽里たちもこう思ってるってさ。ちゃんとさあ、征太とさくらの幸せだって頭数に入ってるって。


「ほら、泣き止んで? 部屋の中見て回んなよ。ここの部屋はお風呂円形なんだぞ」


「ええ~、いいなあ! さっきのところも広くて楽しそうだったけど!」


そう言ったら二人とも嬉しそうに部屋の中を覗き始めた。


「雪お嬢様も入っていただいて構いませんよ?」


「ほんと?わ~い!」


ん、調子戻ってきたようでよかった。


「お坊ちゃまの部屋の隣ですか……壁を叩けば起こせるかもせれませんね」


お前は戻りすぎだ、征太。


「んで、最後にこの廊下を曲がった奥にもう一部屋。絶対ないと思うけどもし来客があったときとかには、この部屋をゲストルームとして使うかゲストルームの父さんたちの荷物をここにつっこんであっちを使うかかなって思ってる。あとはいろんなところにちょっとした収納スペースがあったり。部屋紹介はこれで終わり!」


長かった、やっと終わったよ。俺はポケットからカードを六枚取り出す。


「これ。ここの部屋のカードキーね。しっかり六枚しかもらってないから絶対に無くさないように。あとこの部屋に来るにはさっきのエレベーターじゃないと来れないんだけど、なんか不審なやつとかがいたら正面玄関から入って警備員に説明して。ちゃんとそう伝えてあるから」


「「了解!」」


全員にカードキーを配って、とりあえず今日の仕事は終了だ。


「じゃあ今日は引越し祝いにごちそうつくりましょうか!」


「おー!」


真新しいマンションの一室に、明るい声が響いた。


――――――――――――――――――


さくらと征太の過去の話も書いてみたいですね

次の更新予定日は一月十三日です。

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