第14話ゴシック&ロリータ

四百メートル走。走る系の競技で一番走る距離が長くて、走るのは男子だけ。風に吹かれて、雫月の母親譲りの金髪がさらりと揺れる。校庭の端の方に座ってきゃっきゃしているさくらと雪が見えたのか、彼の表情が少し柔らかくなった。


「きゃっ、雫月様がこっちを見て笑ったわ!」


その辺で騒いでる数名の女子、あいつが見て笑ったのはあの癒しの空間だぞ。


「一年で出る人は並んでね~」


そう担当の先生に言われ、一年の走者たちが並びだす。因みに芽里はクラス代表リレーに出るので四百メートルには出ない。


「位置について、よーい」


うーん、今年の青組って足速いやつ多いんだな。男子は大体青組が一位になってる。もしかしたら優勝とか? ま、まだわかんないんだけど。一位でゴールを駆け抜けた青組走者を眺めながら俺はそんなことを思う。


「次、二年せーい」


雫月がスタート位置に立った。それまで主に女子たちのせいでざわざわしていた会場が急に静かになる。話しているのは親たちだけだ。


「位置について、よーい!」


パンッ。ピストルの音が鳴る。相変わらず雫月は足速いなー。髪が太陽と重なってきらっきらしてるよ。しかも余裕そう。まあ俺も余裕なんですけどね。運動神経いいのなんなんだろうね。


「一位、青組!」


「きゃあああああああああ! 雫月様かっこいいいいい!!」


静まり返っていた会場が、一気に盛り上がった。芽里と雫月ってすごい。顔がいいの得してるよね。


「前半の競技が終了しました。これより昼休憩に入ります。次の集合時間は一時です」


どうやら昼ご飯の時間らしい。生徒たちが自分たちの親のところに向かって歩き出す。さて、俺はどうしたものかと迷っていると、隣をすっと雫月が通り過ぎた。俺のジャージのポケットの何かつっこんで。


「なんだ……?」


雫月と芽里が合流したのを確認して、俺はその何かを取り出す。入っていたのは小さなメモで、さくらの丸い字でこう書かれていた。校庭の階段を上った上にある、倉庫の裏に来てもらえますか。え、何するの? とりあえず行ってみるか。ざわつく会場を横目に見ながら、俺は指定された場所に向かった。



「さくら? どうしたんだ?」


「あ、お坊ちゃま。とりあえずこの服に着替えて頂けますか」


青いリボンのついた麦わら帽子が風で飛ばないように抑えながら、彼女は俺に着替えを渡す。仕方なくその服を息を吸ったタイミングで広げた俺は、思わずむせそうになった。


「え?」


それは黒いワンピースで、フリルやらリボンやらがたくさんついていて、見るからにゴスロリ感あふれる服だった。俺にこれを着ろというのかい?


「早く、みんな待ってますよ」


「わ、わかった……」


さくらに急かされ、俺は慌てて着替え始める。そんなにごてごてしてるわけじゃないけどめっちゃゴスロリじゃん……


「着替え終わりましたか? じゃあ髪型変えますね~」


眼鏡をはずされ、髪をほどかれて下手な化粧を落とされて、ちょっと困惑しているすきにさくらは何もかも完成させてしまったようだ。黒いワンピースを着て、ボンネット風の帽子をかぶった黒髪の美少女が、彼女が差し出した手鏡に映っていた。やばい。これが自分とか信じられないし信じたくない。人形じゃん。


「これで皆さんと一緒にお昼が食べられますね」


満足げに彼女は告げた。そういうことか。俺これでみんなとご飯食べるのか。


「いいですか? お坊ちゃまは雪お嬢様の姉設定です」


「わ、わかった……」


半ば押し切られるような状態で承諾する俺。おかしいな、さくらって俺の家のメイドじゃなかったっけ。



「征太さーん! ただいま戻りました!」


校庭の端っこの方になられたテントの中を、さくらが覗き込む。外から見えにくいからと完全にリラックスモードに入っていた四人が、一斉にこっちを向いた。と同時にふき出した。


「ちょ、と、透だよね?」


くすくすと笑いながらそういう芽里。


「可愛いと思うよ」


やっぱり笑いながらそういう雫月。


「あはは、おにいへーん!」


笑いすぎて今にも涙が出てきそうだという様子の雪。


「ふ、あはは、はははは」


ひたすら大爆笑している征太。おい征太。笑うな。どうせお前の発案だろうが。


「もー、早くご飯食べましょうよ」


ちょっと笑いながら昼食の準備を始めるさくら。俺だって自分のこと笑ってやりたいよ。

どうやら今日の昼食は運動会らしくいなり寿司らしい。さくらが手作りしたものだ。今朝俺の家でひたすら油揚げにご飯を詰める作業をやっていた。


「さくらのいなり寿司だ~!」


雪が嬉しそうに顔を輝かせる。はあ可愛い。


「雪ちゃんはどんなお店のお料理よりもさくらのご飯が好きだもんね」


さくらのご飯美味しいもんなー、こんなにおいしい料理はなかなかないと思う。


――――――――――――――――――


運動会の様子は私の学校とおんなじ感じで書いてます! とはいえ私の行ってるところは中高一貫なので私たち中学生が徒競走やってる隣のグラウンドで後期生がその他の競技やってるんですけど。あと親は来れないので親のところは小学校参考にしてます。


さて、次の更新は明後日です。よろしくお願いします!

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