嘘つき社長と天使の恋物語

紫メガネ

第1話 再婚相手は適当に

 総有市。


 都会のビルが立ち並ぶ中、緑の木々も多くみられ、駅前は賑わっているが少し中に入れば住宅地も広がり落ち着いた空間がある。



 夏の終わりを告げる太陽がキラキラと輝く9月。



青空が広がる中。



 チャペルの鐘が鳴り響く。



 幸せな結婚式を知らせる鐘の音。




 こじんまりとした身内だけの結婚式が行われたようだ。


 参列者は3人しかいない。


 白いモーニングに身を包んだ、背の高いスラッとした男性、水森悠大(みずもり・ゆうた)40歳。

 

 爽やかなイケメンで、切れ長の目がとても魅力的で筋の通った高い鼻で微笑ましい口元。


 整った顔立ちにスラッとした長身で、言う事がない完璧な男性。


 大手コンサルティング会社の社長である。 

 

 13年前、前妻と実の息子を亡くして、ずっと再婚しなかったがようやく再婚した。



相手の女性は、水森嶺亜(みずもり・れいあ)25歳、職業は弁護士。


 純白のウェディングドレスに身を包み、綺麗なレースのヘッドドレス。


 可愛い系の丸顔で、目がぱっちりしている。


 背は高めで170センチ前後はありそう。


 柔らかい雰囲気でまるで天使のような女性である。




 ブーケトスが投げられて。


 受け取ったのは・・・。



「あら嫌だ」


 

 参列差にしては随分と派手系の女性。


 ワインレッドの肩が大きく開いているドレスに、髪は長く大きくウェーブをかけて化粧も濃くて派手。


 真っ赤な口紅がまるで魔女のような女性。


 嶺亜の姉・芹那38歳。



「嶺亜ったら、私に結婚しろって事? 」


 ちょっと鼻で笑い浮かべて言う芹那。


「ま、いいわね。せっかくだから、もらっておくわ」


 小ばかにした笑いを浮かべる芹那。




「悠大、良かったわね」


「とても可愛い人だな」


 悠大の母裕子と父の太郎が言った。


 太郎はがっちりしたタイプの頼りになるお父さん。

 

 裕子は悠大と似た感じの美人系。



 2人とも悠大の再婚を心から祝福している。



「さて、私はもう帰るわ。嶺亜、お幸せに」


 

 芹那はさっさと帰ってしまった。







 結婚式も終わり。



 新婚旅行の予定はなく。



 悠大と嶺亜はさっそく新居に帰ってきた。




2人の新居は悠大が1人で住んでいた一軒家。


 一般住宅で、2階建てで割と広めである。



 

 家具も揃っていて落ち着いた空間である。




 

 悠大は特に何も言わないまま、さっさと自分に部屋に行ってしまった。




 リビングのテーブルに携帯電話とメモ書きが置いてあった。




 嶺亜はメモを見た。



(何か用があればメールをくれればいい。後は特に干渉しない、好きにやてくれればいい。部屋は2階の南側奥。好きに使えばいい。後は自分で見て確認してくれればいいだろう)


 それだけ書いてあった。



 嶺亜はそっと2階を見た。



 1階を見て、トイレ、バスルーム、キッチン、和室と洋室、リビング。


 それぞれを確認した。


 


 1階を確認したら、嶺亜は指定された自分の部屋に向かった。




 南向きで広めの部屋。


 机と椅子が置いてあり、クローゼットに必要な服も入っている。



 ちょっと大きめのシングルベッドが置いてあり、ベッドカバーは女性らしいピンク系で枕カバーは白。


 枕元に消灯もついている。



 完璧に用意された部屋に嶺亜はちょっと驚いていた。





 カーテンも爽やかないグリーン系。




 嶺亜はカーテンを開けて見た。



 すっかり外は夜になっていて、星が綺麗に輝いている。



 窓から見える庭は広くてよく手入れしてある。



 花壇もあり、綺麗なバラの花が植えてある。



 今は黄色いバラの花が植えてあるのを見て、嶺亜は嬉しそうに微笑んだ。




 

 一息ついて嶺亜はベッドに腰かけた。


 そしてベッドの枕元にある、小さな鏡を見た。


 ショートよりも少し長いくらいの嶺亜の髪は、軽やかな栗色で軽くウェーブがかかっている。


 結婚式の時は濃いメイクをしていたが、今は軽いメイクだけだが、とても綺麗で可愛らしい。


 耳には小さなダイヤのピアスをつけている。




 鏡を見て髪を整えると、嶺亜はちょっと横になった。



結婚式で疲れてしまった嶺亜は、そのまま眠ってしまった。




 悠大は自分の部屋に入って、パソコンで仕事をしている。


 机の上には写真縦が置いてある。



 写真縦に入っている写真は。


 可愛い小さな男の子と、髪の長いエレガントな女性と悠大が3人で写っている写真。



 仕事の手を止め、悠大は写真縦を手に取った。



「・・・サキ・・・一樹(かずき)。愛しているのは、お前達だけだから・・・」



 悠大が見ているのは、亡くなった奥さんと子供の写真。


 結婚して2年目、子供はまだ2歳の時に2人とも、突然の事故死。



 悠大は今でも亡くなった妻のサキと息子の一樹を忘れられないままである。

 





 結婚初夜。


 悠大は嶺亜の下へは行かず、すっと自分の部屋で仕事をしながら写真を見ていた。



 嶺亜はずっとベッドの上で寝たまま朝を迎えた。










 翌日の朝。



 嶺亜が目を覚ましたのは6時30分。



 リビングに行くも誰もおらず。


 玄関を見ると、もう悠大の靴はなかった。



 こんなに早く出てゆくものだろうか? と、嶺亜は驚いた。



 

 昨日帰って来てから悠大とはすぐに別々になり、それっきり顔を合わせていない。



 いつ寝たのか、いつ起きたのかも判らない。


 会話すらなかった。



 嶺亜は少しだけ寂しさを感じていた。






 

 いつものように1日が始まる。



 嶺亜は仕事は結婚しても続けている。



 今日は市役所で無料相談が開催されるため向かった。



 結婚して変わったのは名字だけ。


 結婚式の日に婚姻届けだけは書かされた。



 それ以外は住む場所が変わったくらいで、何も変わらない日々である。






 


 悠大は嶺亜と会顔を合わせる事無く仕事に向かった。



 朝ご飯は適当に近くのコンビニで、おにぎりと珈琲を買って、職場に来て済ませていた。




 定刻通り仕事が始まる。



悠大の会社は駅前の高層ビルの中にある。



 大手企業で海外にも支店がある為、外国人の出入りもあり、日々忙しい毎日である。



 社長室は眺めの良い南向きの広い部屋。



 ディスクと座り心地の良い椅子。


 来客用のソファーとテーブルが置いてある。




 コンコン。



 ノックの音に悠大は顔を上げた。



「失礼します」



 声がしてドアが開いて、1人の青年が入って来た。



 紺色のスーツに水色のストライプのネクタイ。


 スラッとした長身で推定180センチ近くある。



 顔立ちはクールと言うより冷たい感じが受けるが、鋭い目がちょっと魅力的。


 俺様タイプのイケメンである。




 悠大の前に来ると一礼する青年。



「初めまして、澤村和也(さわむら・かずや)と言います。今日から、社長秘書兼用身の回りの事をさせて頂くために、やって来ました」



「秘書? どうゆう事だ? 秘書ならもう既にいるが? 」



「はい。社長秘書の田中が昨晩急病で倒れまして。現在集中治療室に入っていますので。私が代わりに派遣されました」


「田中が急病? 私は何も聞いていないぞ? 」


「ええ。社長は結婚式で大変ですから、連絡は控えて頂いたのです。せっかくのオメデタイ日に、わざわざ報告しなくてもいいと判断されたのです」



「そうか。だが、身の回りと言うのは? 」


「はい、社長は大変お忙しく何かと家の中は疎かになられるご様子です。ご結婚され、奥様もいらっしゃいますが。奥様も仕事を持っておられるご様子ですので、私がお助けしようと言う事になりました」


「はぁ・・・。特に助けてもらう事なんて、ないと思うが・・・」



 バン! 



 突然、和也は悠大の机を勢いよく片手で叩いた。



 悠大は驚いた目で和也を見た。



「いちいちゴタゴタうるせぇんだよ! 男一人で、何でもできているつもりになっているのか? 」



 クイッと、悠大のシャツの襟を掴む和也。



「ほら見ろ、シャツの襟汚れてるぞ。こんなんで社員の前でると、笑われるぞ! 」


「あ・・・」



 襟の汚れが目に入り、悠大はハッとした。



 フッとため息をついて、和也は悠大の襟から手を離した。



「いいか? 俺は今日から住み込みで、身の回りの世話をする。勿論、あんたの家でな。昼間はちゃんと社長秘書の役目果たしてやるから。田中の奴が元気になるまで、俺に飯ちゃんと食わせろよ! まだ給料もらってねぇし、金ねぇし。あんたの家広いだろう? 2階に3部屋、1階には和室と洋室があるんだ。俺1一人が住み着いても、別に問題ないだろう? 」



 家の間取りまで知っているのか? 



 悠大はただ驚くばかりで、和也が言うとおりに何故か従ってしまった。



「分かった。では、田中が退院して復帰するまで頼む」


「話は決まったな。さて、とりあえず仕事するか」



 初対面なのにあの態度。


しかも社長秘書のくせに上から目線。



 この人は一体なんなんだ?


 驚きつつも、悠大は何故か逆らえない自分がいるのに気付いた。







 こんなわけで。


 和也は新婚である悠大と嶺亜の家に居候する事になった。

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