第7話 奴隷からの脱却 1

いつもの場所ではなくかがり火が焚かれた代官所入口近くで俺はヴァネッサと対峙した。


「うん? もしかして授かったスキルはなのか。

じゃあ私と一緒だな」

早合点してヴァネッサは喜んでいる。


「まあ…… 後で教えるから、取りあえずは勝負しよう。

本気でかかってきてね」


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ヴァネッサは真剣な表情でどんどん攻めてくる。

俺はさっきからそれをかろうじて防ぐ。


彼女には前回手合わせした時のような余裕は見られない。

それどころか少し焦っているような感じだ。

俺もいっぱいいっぱいだ。

でもわかった。

ビサールの天恵スキルは戦闘においてかなり使える有能なスキルだ。


同時にヴァネッサの本気の凄さがわかった。


そろそろ試してみるか。

俺は慎重に慎重にタイミングを計る。

ちょっとした隙を見せると彼女から鋭い打ち込みを食らってしまうだろう。

今の彼女は寸止めや手加減する余裕がないはずだ。

大怪我などしたくない。


彼女の打ち込みを止め、反撃すると見せて俺は古武術と忍道から得た技を使う。

ためを使わずいきなり後ろに跳んで下がる。

俊敏も作用しているからヴァネッサには瞬間移動しているように思えただろう。


内唱でを選ぶ。

そしてヴァネッサを対象に『一時交換』と内唱する。

すると俺のスキルから軽銃器取り扱いが消え代わりに『棒術・金級』が表示される。


マジ? ヴァネッサの棒術は金級だった。

図書館情報によると伝説扱いの神級・聖級を抜きにすると宝級に次ぎ金級は実質上から二番目だ。

金級って十万人に一人? それとも百万人に一人だったっけ。

それぐらい凄いんだよな。


彼女の動きがほんの一瞬止まる。

が素早く打ち込んでくる。

充分鋭いがやはりスキルを交換して棒術スキルがなくなると動きのキレがあきらかに鈍くなった。

逆に俺はヴァネッサの棒術・金級が加わり、彼女を手加減してあしらった。


「何をした。急に私は動きが鈍くなったし。

相手を弱体化できるスキルか?」

ヴァネッサが詰め寄ってきた。

なんか感情的になってる。


「落ち着いて。

今種明かしするからさ。

まず自分の能力を視てよ」


ヴァネッサの表情が変わる。

彼女のこんな顔見たことがない。


ヴァネッサはところどころ嗚咽しながらも声を絞り出す。

「ない、ない、ないぞ!

私の努力の結晶であるスキルが。

まさかこのままってことは」


やばい、早く安心させなきゃ。

あっ後十分近くこの状態なんだ。

「大丈夫、もう少ししたら元に戻るから。

それより棒術の代わりに見たことないスキルがあると思うんだけど」


「なんだこれは。

こんな難しい文字は見たこともない」


「そうだろ、それは銀の女神様から頂いた能力なんだ。

俺にもよくわからないけど。

そして天恵のギフトスキルは『一時交換』というんだ。

その名前のとおり一時的な間だけ俺のスキルと俺が選んだ相手のスキルを交換できるらしい」

取りあえず説明しづらい内容はすべて銀の女神と結びつけている。


「なんだその無敵なスキルは。

あのお方の加護の一環に違いない」


ヴァネッサは自称神様の銀の女神のことをと呼んでいる。

あきらかに普通じゃないなあ。崇拝しているのか。

これからも役に立って貰うぞ、銀のネエちゃん。


恐る恐るといった様子で俺に質問する。

「あのお方からのスキルの等級はなんだったか」


あのお方からkどうかはわかんないけど。

「それが、等級がなかったんだ」


「なんとそれは奇跡と言われる…… 。

タウロのそれは魔法よりも優れているといわれるものだぞ」


そしてまた彼女はぶつぶつ言い出した。

「きっと私の役目はゴニョゴニョ。

きっとお力をゴニョゴニョ」


ところどころよく聞こえない。



     ◇        ◇        ◇



忙しくなった。一時交換の使い方や、準伯爵領の歴史や代々の領主のことを調べたり、隷属魔法を使い領内随一の権力者となった家令について調べたり。

本当は手分けして調べたいが、隷属の呪いが発動することを考えると誰も仲間に引き入れられない。


天恵ギフトスキルのについてわかったことだが残念ながら魔法には使えない、つまり交換出来ない。

ちょっと期待してたんだが。


それからだが、なぜかだけは一時交換に使えないようだ。

何度試しても出来なかった。

理由はわからないが、まったく支障はない。


これまで推測されていたことも一時交換のスキルで解明された。

人間以外の動物にもスキルが存在するんじゃないかという説があったが、俺が試してみたところそのとおりだった。

大発見なのだがは隠しているので、ヴァネッサにぐらいしか言えない。


さらには一時交換した後、対象が死んだ場合どうなるかもわかった。

残念ながらリセットされるだけだ。

対象のスキルを俺のものには出来ない。

動物でしか試せてないが人間でも一緒だろう。

地球と違い驚くほど命が軽いこの世界だがそれでも、実験のため人を殺すのは躊躇われる。


一時交換の最大持続時間は約一日だった。



     ◇        ◇        ◇



俺は他の奴隷及び役人、そして街に出て領民に片っ端から一時交換のスキルを使い、どんなスキルを持っているか確認した。

そして誰がどういうスキルを持つかは把握した。


で隠密・潜伏・隠蔽・認識阻害・集音・レンズ眼・記憶などのスキルを一時交換にて拝借し、家令の子飼いである代官の周辺にに探りを入れた。


同時に幾つものためのスキルを使っている効果は何度も街で試した。

気配察知・上級のスキルを持つ者に実験台になってもらったが、まったく気づかれなかった。

だからといって油断はしない。


家令の子飼いである代官とその配下が集まっている。

俺は誰にも気づかれることなくその部屋の大きなテーブルの下でじっとしている。


「ふむ、ではバーナード様は今回は六月十二日に来られるのか」


誰だ、バーナードって。


「ああ、いつもあの奴隷に会う目的で必ず月末に来られているが、今回ばかりは色々準備があってそうはいかないらしい」


「あの奴隷がそんなにいいのかね?」


「君や私は男色の気がまったくないからな。

そっちが好きな者に話を聞くと、大人でも子供でもない感じがたまらないらしいぞ」

俺のことか?


「珍しく緑のサラッとした髪と透き通るような白い肌をした少年だろう。

バーナード様がご執心なのがよくわかる。

儂も一度ぐらいは相手してくれないだろうか」

ヤバい、鳥肌が立ってきた。

俺のことじゃん。

で、家令のクソヤローの名前はバーナードっていうのか。


「そういえば最近あの餓鬼の体調が悪いらしい」


「おい、バーナード様のお気に入りをあの餓鬼とは」


「いいんだ、あいつら奴隷は家畜と同じだろう。

それより体調が悪いのはまずくないか。

六月十二日にみえた後、その三日後に兵を挙げる計画になっているがその時にビラステヤに連れ帰るおつもりだと聞いたが。

体調が悪くて大丈夫なのか」


「そこは大丈夫じゃ。

長旅になるので、その前に体を休めるように儂が指示しておいた」


「さすがはお代官。

今回の計画が成功したら陞爵間違いなしですな」


「男爵にまで上れると踏んでいるんだが。

君たちも貴族の仲間入り出来るかもしれないぞ。

奴隷軍次第だがな。

ビラステヤ公と不意打ちで挟み撃ちにするのだ。

万が一のも負けはあるまい。

後はどれだけこちら側が隣に侵攻出来るかによって昇進が決まるだろう」


「エテ侯爵と首切り大公に吠え面をかかせてやりましょう」


図書館その他で知識を高めている俺には会話の中身がわかった。

エテ侯爵は準伯爵領ここの隣の領主の蔑称で首切り大公とはここ東部をまとめている大公の蔑称。

ビラステヤ公は東部と仲が悪い南部の大公。


あああああああ、これは相当ヤバい話だ。

俺がバーナードとかいう家令を倒し、奴隷からみんなを解放するってだけの話じゃない。

帝国の東部と南部の縄張り争いだ。

このままいけば沢山の人が死ぬに違いない。


           ◇


俺は代官たちのやり取りを最後まで話を聞いた。


こいつらは六月十五日に奇襲攻撃をする計画だ。

その三日前の六月十二日に家令のクソヤローは俺に会いに来る。

その時が勝負だ。

俺がクソヤローのチンチンをアレコレするのは絶対なしだ。

大貴族に俺を売るか献上するからしくて、傷物には出来ないということでそれ以外の被害はないが、許せない、三途の川を渡らせてやる。


そしてそのタイミングでこちら側つまり東部が、攻める準備をしている南部に仕掛けられればいいんだ。

それがベストだろう。

それより前に東部が南部へ攻め込むと、家令のバーナードを殺る機会を失うかもしれない。


今日は五月二十三日、六月十二日までまだ時間がある。

なんとか成功させねば。

そしたらどこかのお偉いさんに恩を売れていきなり貴族とかになれるかもしれないし。













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