第4話 事実と嘘を交えた告白

俺は直近の問題であるヴァネッサへの対応を考えた。


すべてを正直に言えたらいいのだが、この世界で転生のことを聞いたことがない。

長い時間考え俺は答えをだした。

自称女神の存在をおおいに使わせて貰おう。

よし明日ヴァネッサに話し、そして棒術が上達していることを訓練で示そう。


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 いつものように棒術の訓練を行っている場所へ行くと先にヴァネッサが来て落ち着きなく歩き回っていたのが見えた。

そして俺の方を見ると

「待ちくたびれたぞ。

とはいっても私が勝手に早く来て待ってただけなんだが。

気になって仕方なかったんだ」

ヴァネッサは臆さず正直に話す。


眩しいな、ヴァネッサのこんなところが格好いいんだよな。


「じゃ 昨日の続きの話をしようか」

そう言って彼女はニカッと笑った。


俺は静かに深く息を吸い吐いた。

昨日じっくり考え何度もシミュレーションしたから大丈夫。


何気ないふりをしてわざと明るい声で話し出す。

「ああいいよ、ただし信じられないような話が出てくるけども」


「大丈夫だ、どんな不思議な内容でもとにかく話を聞こう。

なんてったってタウロが急に強くなるという不思議なことがあったんだから」


「うん、実は昨日の時点で 棒術が 中級になったんだ」

ヴァネッサごめんね、本当は特級になったんだけど。


「まさかそんなことは…… 。

ああ済まない、話を聞こうと言いながらいきなり話の腰を折って」


「いいよいいよ、信じられないもんね」


「うむ、普通ではあり得ない。

一昨日訓練した時点では 明らかにお前の実力は下級のままだった。

しかも下級でもまだ中級には程遠い感じの技量だぞ」


「うんそれは分かるんだけども でも本当に中級に上がったんだ。

じゃなきゃ 俺が あいつら十三人をいっぺんに 倒すことなんてできないだろう」


「やっぱりビサールたちを伸したんだな。

でも信じがたい 、いくら中級に上がっても彼ら全員を相手に勝つのは無理だ 不可能だ 。

いやまだ何か隠してるな」


「いやいやいや、ヴァネッサ慌てないで。

まだ途中だから」

と言いつつ俺は慌てた。


こんなにヴァネッサって鋭いんだ?


「これから話そうと思ったんだ。

それこそ信じがたい話なんだけども」


「そうか、続けてくれ」


「昨日ビザール たちに 一旦伸されてしまって 気を失ったんだ。

そしてその時に、意識のない時に、夢の中へ神様が現れたんだ 。

それこそただの夢だったかもしれないし 、でもこんだけ強くなったから夢じゃなくて神様は本物だと思うんだけど 」

これが俺が考えついたシナリオだった。

あの自称女神に役に立って貰おう。


「タウロ、いくら何でもそれは、うん、 でも そうでもしないと 納得できないよなぁ。

十三人をタウロが伸すことができるなんて、神様から力をもらうぐらいしかないか」


途中からは俺に話すというよりブツブツ独り言のようになる。

よしもう少し具体的に話して信憑性を高めよう。

「そうなんだその神様は女神様で」

「女神様なのか!」

ヴァネッサは即座に反応した。

もしかして興味を持ってくれたの?


「タウロはこの国で 崇められてる 神様のことは知ってるかい 」


「えっ、知らない。

本物の神様かどうかはわからないけど なら知ってるよ。

あっ神様が この世界を作って皇帝のご先祖様になったって話も聞いたことあるけど」


「その話は男の神様かそれとも女神様か」


なんでそんな質問する?

意図がわからん。

「そこまではわからない」


「 ならいい、ごめん続けてくれ」


「その女神様が 俺に力を与えてくれたんだ。

それが棒術だけじゃなくて格闘術とか剣術とか沢山色々 トレーニングしてくれた。

それは 気が遠くなるぐらい長い時間だったけども そのトレーニングが終わると 俺は目を覚ましたんだ」


彼女を見ると黙って真剣に聞いている。

俺は続けた。

「気がついた俺は、目の前の奴らが自分の相手にならない弱い存在だと理解したんだ」


「なるほど その話を聞くとどうやってタウロが力を得たのがわかる。

でも疑問があるんだ 。

でもどうして 女神様がタウロに力を与えたのか」


そうくるよね。

「なんか力を与えて貰った代わりに しなきゃいけないことがあるみたいなんだ」


「ほほう、それは教えてくれるのかい?」


頷くと肝になる話を始めた。

「十七歳になった時の夏に 帝都にある 第一魔法学園 に在籍してなきゃいけないみたいなんだ」


「それはタウロがってことか」


「そうなんだよ」


「第一魔法学園は魔力がなきゃ入れない学校だぞ。

魔力って千人に一人しか使えないって話だが」


「ってことは俺には魔力が」

そこでヴァネッサが口を塞ぐ。

「この話はそこまでだ。

何らかの呪いが掛かっている奴隷の立場でこれ以上聞くのはまずい。

意思とは関係なく」


そこでヴァネッサは口を閉じた。

隷属の呪いを用心してのことだろう。

手でと合図し、何も起こらないのを確認すると彼女はまた話し始めた。

「第一魔法学園《帝都第一》って最低でも中級貴族の 子息もしくは縁のあるものでないと無理だろう。

奴隷のお前があの学校に入るのはまず無理だ」


「よくわからないけどそこは可能性があるんじゃないのかな。

じゃないと女神様がそんな無茶ぶりするはずないから」

そして俺は半分愚痴のつもりで続けた。

「ホントそれにしてもあのギンギラギンのネエチャン本物かなあ」


「タウロ、もしかしてその女神様は銀の大きな瞳を持ち 」


「そうそうよく知ってるね。

銀色の長い髪をした美しい、けどちょっと高飛車な」


「不敬だぞお前」

みるみるヴァネッサの態度がおかしくなった。

小刻みに震えている。

「まさかあのお方が。

どうしてタウロなんかに。

私が近くにいるからタウロに。

これも私も運命なのか」


ボソボソ言ってるが全部俺には聞こえてるぞ。

でもそれってどういうこと…… わからん。



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