第6章 デーモンズブリゲード①……霧隠才蔵

 化け物と化け物と化け物が、俺たちを囲う。

 味方は居ない。誰一人として。

 そんな中、俺たちは剣を合わせる。

 襲いかかる化け物共を再々薙ぎ払いながら、この俺、霧隠才蔵とガウェインは戦い続ける。

 太陽は黒く染まり、ガウェインの加護は消え失せた。

 それでもこの男の剣は鋭く、熱い。

 だから俺もそれに応える。

 分るだろ?俺の剣は暗く冷たい。

 だから哀しみも解る。苦しみも解る。

 妹を救いたいと願うおまえの気持ちだって解る。

 

袈裟懸け

 

 俺だって同じだから。モードレッドを救いたいと思ってる。

 思ってる。

 あれ、何で俺はそんな事思ってるんだ?

 

逆風


 確かモードレッド救出はただの任務で、そもそも救出じゃなくて誘拐で、利用するために攫ったんじゃなかったのか?

 それが救う。何でだ?

 

右薙ぎ

 

 確か刑場からぶん投げて、河に落として、服を脱がせて、乾かして、祭りに出て、一緒にクレープを食べて、太ももに挟まれて、ダンスを踊って……。

 

唐竹

 

 一緒に寝て、吸血鬼と戦って、ガウェインと戦って、騎士十人と戦って……。

 

蹴り

 

 怒らせて、泣かせて、慰めて、笑わせて……。

 

頭突き

 

 笑わせて、笑わせて、笑わせて……。

 

刺突

 

 ああ、なんだ。

 俺をこんな気持ちにさせたから、俺は戦っているんだ。

 あの娘を救いたいと思ったんだ……。

 忘れていたよ。誰かを”思う”という気持ちを。

 この世界に来て、どうしようもなくて、人間を捨てていた俺に、あの娘は人の心を取り戻してくれてたんだ。

 怒ると可愛かった。

 泣くと苦しかった。

 笑うと嬉しかった。

 一緒にいると幸せだった。

 この世界に来て初めての幸せだった。

 ああ、だから俺は、あの娘の為にこの男を、あの娘の兄を殺ろ……。

 

奥義”無想の太……”

 

 その時、遠く法螺貝の音が響いた。

 そして俺の剣は、ガウェインの届かなかった。

 その背後の、ガウェインを狙う亡者を斬り裂いた。

 そしてガウェインの剣も、俺には届かなかった。

 その背後の、俺を狙う亡者を斬り裂いた。

 気が付けば、俺たちは背中合わせに立っていた。

 いや違う。

 互いに背中を預けていたのだ。

 その両の切っ先は亡者共に向け、四つの瞳はただ一点を見つめる。

 神の子のように十字架に貼り付けられたモードレッドと、その前に立ち高笑いをあげる吸血鬼の姿を。


「テメェ、今までの言葉に嘘は無いな!」


 背中越しに、ガウェインが問うた。


「何の事だ?」


「ふざけるな!モードレッドを救うとか言ってた事だ!」


「ああ、あれか……」


 こんな時でも、俺は捻くれてる。


「あれは嘘だ!」


 ニヤリと笑ってやる。


「言ってろ、嘘吐きが!」


 嘘吐きが嘘という。

 その意味を、太陽の騎士は違う事無く分っていた。




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