第2話 ユウタ、寝ぼける

  目覚まし音に設定していたガーディマンのオープンニングテーマが部屋に鳴り響き、ユウタは手探りで音の出所を探る。


  左手の指を左右に蠢かしていると、指先が堅いものに触れてそれを手繰り寄せる。


  手に持ったその薄く四角い物から、延々とアラームを鳴り続けているので、目を閉じたままそれを停止させた。


「う〜〜ん。まだ寝かせてよ〜。せっかくいい夢見てたのに……」


(それに今日は日曜日、学校も休みだよ)


  ユウタは寝ぼけまなこのまま、手に持った四角い端末に視線を落とす。


  端末は二千年代に流行ったスマートフォンに似ていて、薄く角を取った四角いボディに、中央に大きな液晶画面がある。


 その名は万能オールパーパス端末ターミナル。略してオーパスという愛称で親しまれていた。


  液晶画面に映されたデジタル時計は学校がある日より一時間も早い。


(あれ。今日学校ないのになんでアラームセットしてるんだっけ……)


  眠気で頭が働かないユウタは、考えることを放棄し、あったかな布団に潜り込んで再び夢の世界の扉を開いた……。


「って、寝てる場合じゃなかった!」


  バネが仕掛けられていたかのように勢いよく起き上がる。


 今日お隣に住む幼馴染とイベントに行く約束をしていたことを思い出したのだ。


 西暦二〇七〇年。少し肌寒く、よく晴れた日曜日の事だった。




  ユウタは、空気を含んだように柔らかな黒髪の寝癖に気づかずにベッドから降りると、


 タンスを開けて服を出し、寝巻きのスウェットをベッドの上に脱ぎ散らかしながら着替え始める。


  彼の部屋はドアから見て奥に無線アンテナが内蔵された窓があり、左側にベッド、右側には机と服が収納されたタンスというシンプルな部屋だ。


  机の上には自習や動画を見るのに使うタブレットが常時充電され、その周りには彼のお気に入りのヒーローのフィギュアが所狭しと置かれている。


  もちろんそのヒーローとは特撮番組ガーディマンの事で、各々スペシャルウェポンを装備した姿だ。


  向かって右から、ドリルトランスが合体したガーディランスを両手でまっすぐ構え、


 隣は身の丈ほどもある両手剣ツーハンドガーディソードを肩に背負うように構えている。


  更に、斧によく似たガーディアックスを両手に持った者もいれば、


 巨大な拳ガーディギガントナックルを装備していたり、サーフボードによく似たガーディスラッシュボードに乗ったガーディマンもいる。


  極め付けはバイクに跨ったガーディマンだ。その名はガーディチェイサーという名前だ。


  これに乗ったまま体当たりして怪獣を撃破した回は今も語り草になっていて、自転車で真似して怪我する子供達が沢山いたとかいなかったとか。


  灰色のパーカーに紺色の長ズボンに着替えたユウタはそのフィギュアたちを見てニヤニヤしていた。


(今日もカッコいいぜガーディマン)


  ユウタにとってこの五体のフィギュアは宝物である。何故なら全部自分で買ったからだ。


  このフィギュア達は、真・合金シリーズという、去年発売された最新作。


  放送当時から様々な玩具会社によってガーディマンは立体化されてきた。


  フィギュアはもちろん、プラモにソフビ。数百円で買えるものから数万円する超リアルで高価な物まである。


  子供の頃から大好きだったユウタも、もちろん欲しかったのだが、


  安いものは小さい時に見ても、あまり似ていなく、だからといって精巧で高いフィギュアを母親が買ってくれるはずもなく、


 よく、おもちゃ屋の前で駄々をこねていたのを今も覚えている。


  だから幼いユウタは考えを改め、自分でお金を貯めて買うことにしたのだ。


 お小遣いとお年玉を貯めに貯めて、できる限り使わないようにした。


  手強かったのは、何年かに一度発売される全話収録のコンプリートBOXだ。


  誘惑にも耐えて、公式サイトで配信されてる動画で我慢しながら、いつか自分が欲しいと思えるようなガーディマンフィギュアを待っていた。


  そして以前発売されていた合金シリーズのリニューアル真・合金シリーズを電子雑誌で見つけ、全て予約して買ったのだ。


 もちろん貯金は底をついてスッカラカンだが、ユウタは後悔していない。


 心の中は、後悔という汚水が入る隙間もないほど幸福の真水に満たされていた。


  自分の手で集めたフィギュア達を堪能していると部屋の外から声をかけられる。


  その声は凛としていながらも優しさに満ち溢れていた。


「ユウター。起きてるの? 朝ごはん食べる時間なくなっちゃうわよ」


  言われて時計を見る。起きてから着替えてガーディマン達を眺めていたら二十分も経っているではないか。


(やばっ!)


「今いくよ。母さん」


 ユウタは机の椅子に引っ掛けてあった緑色のリュックサックを左肩にかけて自分の部屋を後にする。 

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