第一章 四月その2

父の気持ちを汲んだわけではないが、いや汲んだ結果もあり、僕はカーリング部へ入部届けを出した。


色々考えては見たのだが、腰に爆弾を抱えた僕は激しく動くスポーツは出来ない。


剣道をやっていた時にも騙し騙し続けようとはした。


だがその度に僕の腰はじくじくと嫌な痛みを発し続け、僕を悩ませた。


カーリングを生涯スポーツと言う父の言葉が全て信じたわけではないが、また痛むなら…その時は辞めればいい。


僕はこの知人もいない土地で、学校が終わったあと何をするのだろう?


そんな事を考えた。


部活にでも入らないとそれはとても空虚で、落ち着きのない時間のように思えた。




部活初日。


カーリング部の部室に集まった僕らはそのままカーリング場へと向かった。


それはいいのだが。


『また雪の中を歩くのか…』


雪は止んでいたが、だからと言って寒さは変わらない。そして雪かきされていない場所の雪は根雪となり、翌日以降足下を滑らせる。




「寒いですねぇ…」


おもむろに話しかけられ、隣を見る。


全体的に線の細い、そして何より目が細い男子。


背は僕より頭半分くらい大きいが、猫背ぎみのせいで目線は同じくらいだった。


「あ、申し遅れました。わたくしこういうものでございます」


と、ポケットから名刺を取り出す仕草。


その仕草がやけに慣れており、本当にサラリーマンのようだった。


そしてその手には名刺が……ない。


『名刺を渡すんじゃないのかい』


思わず心の中で呟くと


「次は声に出して突っ込んでくださいね」


細い目を一層細くして笑う。


ふっ、と僕も釣られて笑ってしまった。


これでコイツとの関係は決まった、な。そんな瞬間だった。


「ゆうり、です。長峰友利ながみねゆうり。ゆうりという字は“友”を“利”用すると書きます」


『その紹介は…』


「どうなんだって思ったら、声に出して突っ込んでくださいね」


どうも先手を取られている気がする。


「森島和平もりしまかずひら。かずひらは平和を逆さに書くんだ。和平わへい、ね。くれぐれも…」


「わへい君ですね。よろしく」


わへいって呼ばないでくれよ、という言葉は虚しく宙に消えた。

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