第3話

 尋常小学校もほとんど通えなかった志願兵が陸軍士官学校に合格する!

 その大変さが理解できる人がどれほどいるでしょうか?

 陸軍士官学校を受験する者は、全国の中学校最優秀の者達です。

 それと陸軍幼年学校の卒業生です。

 特待生制度があるので、中学受験の際に最優秀の者が陸軍幼年学校を受験し、その中から学力と身体と思想に優れた者が合格しています。


 「一高・海兵・陸士」と言われ、最難関なのです。

 そこを尋常小学校もほとんど行っていない龍騎様が、受験され合格されたのです。

 軍部が大量の下級仕官を促成栽培したい時に募集する「部内受験」ではなく、優秀な現役中学生に混じり、正々堂々と合格されたのです。


 龍騎様は既に伍長に任官されています。

 ですから陸軍士官学校に合格されても、中学校出身者のように十二月に士官候補生たる一等兵として入隊する必要はありません。

 幼年学校出身者のように、中学校出身者が上等兵となる翌年六月に上等兵として入隊する必要もありません。

 

 陸軍士官学校の生徒は、八月に伍長となります。

 龍騎様はその時から、近衛騎兵連隊で正式に生徒として認められたそうです。

 それまでは叩き上げの短期伍長として遇されていたそうです。

 ですが、近衛騎兵連隊の将校団は、陸軍士官学校に合格してから直ぐに、徹底的に龍騎様を鍛えていたそうです。


「御嬢様。

 何か必要な物はございませんか?

 必要な物がございましたら、何でもお申し付けください。

 休日に伺わせていただく際に買ってまいります」


「ありがとう存じます。

 ですが大丈夫です。

 龍騎様は勉学に御励みください」


 なんと言っても龍騎様は、自分達の連隊長閣下の御令嬢を救った英雄です。

 私の事なので、少々面はゆいものがりますが、事実ですから他に言いようがありません。

 ですから近衛騎兵連隊の将校団は、龍騎様を優秀な成績で卒業させようと、陰に日向に支援し、勉強をさせたのです。


 だと言うのに、私が龍騎様の足を引っ張るわけには参りません。

 龍騎様の父母はもちろん、甘えたい盛りの弟妹がグッと我慢して、勉学の邪魔をしないように堪えているのです。

 私が我儘勝手を言う訳には参りません。


 それに、龍騎様が毎週屋敷に来て下さるだけで十分幸せです。

 同じ屋敷にいて、同じ空気を吸える。

 こんな幸せを手放す訳には参りません。

 私が我儘勝手を言って龍騎様を煩わせたら、父上様は龍騎様が屋敷に来るのを禁止されることでしょう。


 十二月に軍曹となられた龍騎様は、軍曹に昇任すると同時に、陸軍士官学校に生徒として入校されました。

 それは中学生から合格した者も、陸軍幼年学校から来るものも同じで、全生徒共通です。

 本科の修業期間は一年十ヶ月でした。

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