猫のナオさんと私の異世界ダンジョン物語
三和土
第一章
第1話 猫飼い的週末の夜
突然部屋に穴が空いた。
何を言っているんだと思うだろうが、こっちだって何が起こったのかさっぱり分からない。
「ナオさ~ん。ただいま~」
玄関の扉を開けて、身体を滑り込ませると素早く閉める。
金曜日の夜。飲みに行こうと誘って来る先輩には、無理ですと素っ気なくかわし、仕事は気合いで定時に終わらせる。
駅前のスーパーでそろそろ買い置きが無くなりそうな日用品を、まとめて買い込んでから、急いで帰宅する。
名前を呼べば、部屋の奥つまり窓際の指定席から、胸元と四肢の先だけ白い黒猫が迎えに出て来る。
目の色は黄色味の掛かった緑。鼻も肉球も真っ黒。
捨て猫だったからなのか、成長期に栄養が足りなかったのか、ちょっと小柄だけれども、割りとやんちゃで、そして賢い。
うちの子天使かな?
異論は認めない。
真っ先にナオさんに挨拶をした後は、スーツから部屋着に着替えて、買って来た物を片付け、ナオさんのご飯を用意してから、自分の夕飯の用意をする。
一人暮らしで、コンビニ弁当とか外食とか、酒のつまみ的なもので腹を膨らませて居たけれど、ナオさんと暮らす様になってから、自分が倒れる訳には行かないと思う様になったから、取り敢えず健康。健康には食生活。と言う流れで自炊をするようになった。
自炊と言っても大した事はしていない。
豚肉ともやしの炒め物とか、切った茄子と挽き肉を食品メーカーが出している合わせ調味料(素人が下手に作るよりプロの調合したものの方が美味い。料理上手なら違うかもだけど)で炒めた麻婆茄子。等々。お手軽でそこそこお腹に溜まる様なメインを一品。
あらかじめ切って冷凍してあった、薄揚げやえのき茸やネギとかを適当に入れた味噌汁。
カット野菜として袋売りされてる奴にプチトマト何かを足したサラダ的な物。
大体こんな感じである。
一人暮らしだと大概の食材は多過ぎて余るから、買って来たときに処理して冷凍しておく。肉類とかも、一回分ずつにラップして冷凍しておく。
後は日持ちしやすい食品を選ぶようにするとか。
やらない時は酷く面倒に感じていたあれこれも、いざ工夫しながらやれば思ったよりも面倒では無かった。
職場で年配のお姉様方に混じって、家事の手抜きテクを拝聴するのも慣れたものである。
話題がループしなければとても有意義なんだけど。
食卓代わりのローテーブルに、出来上がった夕飯と、週末を理由に発泡酒ではないビールを、調理に掛かる前に冷凍庫に入れて冷やしておいた素焼きのタンブラーに注いで並べる。
座布団に座って、テレビのリモコンに手を伸ばし、ニュース番組にチャンネルを合わせる。
太股に軽く重みが掛かったなと思えば、ナオさんがやって来て、踏み踏みと足下を確認してから、足の上に収まる様にくるりと丸くなった。
猫は人よりも体温が高いから、触れ合うとほんのりと温かい。すべすべの毛並みと程良い重さが心地好い。
行儀が悪いと思いつつ、右手で食事を左手でナオさんを撫でながら、週末は何をしようかと考える。
洗濯とか掃除とか、やらなければならない事も溜まっているのだ。
「猫砂のストックもそろそろ切れ掛けかも……」
重いものとかはネットで購入して、宅配ボックスで受け取りしているけれど、買い物に行くとあれもこれもと買い忘れに気付くのは、どういう事なんだろうか。
デザートにりんごでも剥くかなと、果物ナイフに手を伸ばしかけて、自分の回りが淡く光っているのに気が付く。
それは座布団の下、フローリングの床の上に、まるで魔方陣のように複雑な模様を描いた光の線が拡がって行く。
「ちょっ……、何これっ?」
何となく嫌な予感がして、ナオさんを抱えて慌てて立ち上がる。
この光っている範囲から出なければ。そう思って足を踏み出すのと、魔方陣の様な物が一際強く光を放ったのは同時だった。
「……!」
唐突に足下に出現した穴に落ちながら、ナオさんだけは守らなければと抱き込んで、来るであろう衝撃に備える。
所で、どこに向かって落ちているのだろうか?
何時まで経っても辿り着かない。
私の住んでいる部屋は、そんなに高層階じゃなかった筈。
と言うか、この距離を落ちたとして、ミンチになる未来が案じられる訳だけど、どうすれば良いのだろうか?
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