第9話 進捗と出張

 

 ロシア人に怒られそうなタイトルをもちいてのソシャゲ市場への進出をするあたって、我が社にはより高度なプログラミングの力が必要になった。


 普通なら優秀な人材を確保するところだが、うちでほ少しやり方が違う。


 とはいえ。


 まずは優秀な人材をさがす、という部分だけにおいては変わりはない。


「社長できたー! 『スクロール』の情報をクラウドに保存できちゃった!」


 自室で親玉感をだして微笑み、ひとり楽しく展望あるプランを思案しているところへ、活発な自称・英雄フリーターの声が聞こえてくる。


 扉を破壊せん勢い。

 突入していた少女へ、のっそり顔をむける。


「ほう。それは上々。まず第一段階。それでガチャとして引き当てたあと、画面の向こう側で遠隔によるオートマチック能力付与のうりょくふよは可能なのか?」

「まだ出来ないかな。それでと、いくらでもいじくり回せそうだから、もうすこし時間掛かるだろうけど、将来的には可能だと思う!」


 素晴らしい。

 わたくし、重課金アギト、なんて都合のいい能力持ち帰還者を、道端で拾えたことでしょうか。


「ふっふ、小鳥遊遥香たかなしはるか、引き続き能力の開発につとめよ! 遠隔オートマチック能力付与が完成した日には昇給もかんがえよう!」

「ははー! 一生懸命頑張ります!」


 敬礼ひとつ、遥香は頬染める満面の笑顔で、意気揚々と綾乃の部屋へと戻っていった。


 さて、これでひとつ目の難関はクリアした。

 技術的にかなり不安な部分だったが、存外にうまくいく気がする。幸運値EXエクストラのおかげが、はたまた彼女の頑張りのおかげか。

 あるいは異界の能力を工夫すれば、不可能な物事を探すことが難しいということだろうか。


「さてと」


 ジャケットを羽織り、着慣れたスーツに身をつつんで鞄をもつ。

 そして、逃げられた妻の部屋へ新しく入居した者のもとへ。


「入るぞ」

「どうぞ〜」


 扉をあけて、迎えてくれたのはかつての後輩、今は名も無き我が社の新社員となったスズだ。


「これより、ステルスミッション、ソシャゲ運営からの能力引き抜きに入る。……準備はいいか?」

「ついに、この時が来たんですね」


 部屋の主人、スズこと鈴鹿乃江すずかのえは決心した顔で、ゆったりした緑水髪を束ねてポニーテールをつくる。その瞳には、覚悟のようなものが感じとれた。


「ああ。たった今、遥香がスクロールの電子情報化に成功した。見通しも明るい。計画を次の段階に進めるためには、課金させるためのシステムとしてのガチャ、課金したくなるくらい魅力的ソーシャルゲームが必要だ。

 なぁ、スズよ、昨今のソシャゲ事情は酷いものだと思わないか? 美しいイラスト、可愛い声、ゲーム内で有用なステータスーーそれらを低確率のガチャの奥にそえて、息つく間も与えずプレイヤーたちを踊らせて、金をむしりとる。その割にはプレイヤーへの還元があまりにも少ない! 低い! 小さい!

 悪逆非道もいいところだ! どれだけ悪徳をつめば気が済むのか。もう俺は我慢ならない。お天道様が見逃しても、この重課金アキラが見逃さないのさ。

 我が社はこの市場を変えるぞ。金をむしりとるところは変わらないにしろ(小声)……我が社は、本人が本当に満足できる『能力アビリティ』もコンテンツに含める! 俺たちは夢のソーシャルゲームを作るんだよ、スズ!」

「っていう建前ですね、はい、よくわかります、アキラさん」


 力強く握り拳をつきあげ、悪い顔するスズの白い手をとって硬い握手をかわす。


「さぁ、では天罰を待ち受ける第一のソシャゲ運営へ乗り込むとするか」

「優秀な能力は、優秀な企業に集まるということですね。して、どこに乗り込むんですか?」

「ふっふ、手始めにまずはこのソシャゲの潮流を作りだしたといっても過言ではない、諸悪の根源、グンホー・オンライン・エンターテイメントから引き抜きをおこなう」


「っ、それってまさか、その昔、社会現象にまでなった『パズル&デーモンズ』を世にだしたあのグンホーですか!? いきなり大物を狙いすぎでは?」


「なに、ちょっと行って、帰ってくるだけ。難しいことはない。十分甘い汁をすすった先輩からいろいろ頂くとしようじゃないか」


 グンホー、その名を聞いただけで緊張感に唇を震わせだしたスズとともに、俺は収穫祭のため、千代田の街へととむかうのだった。


 第一章 大英雄の帰還 〜完〜

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