今都市補完計画

 二〇三×年に高嶋市から離脱した今都市は、旧高嶋市時代に処分・整理された公共施設を復活させる計画を打ち立てた。主に各地域に公民館および公園を設置して『玄関から三分で行ける文化施設』をスローガンに施設を乱立させた。資金源は自衛隊や原発からの補助金だったが……。


「凄かったんやで、今都市役所は無料の大型リムジンバスを二十台も揃えて花見や観光に市民を送迎してたんや。雄琴でもよう停まってたで」(億田金一郎)


 移転した高嶋高校の跡地には『今都市による今都市の為の今都市による英才教育施設』として今都市の住民のみ入学が許される小・中・高一貫校の『今都市立今都学園』が設置されている。


「躾の出来てない猿みたいなガキばかりじゃ、猿の方がマシじゃ」(竹原螢一)


 文化施設以外に体育施設も補完され、広大なグラウンドゴルフ場やスキー場、サッカー場に球場と『今都にオリンピックを!』をスローガンに国際競技に使用可能な施設も乱立された。


「ま、土台無理な話や。そもそも泊まる所が無い」(角愛奈)


 二〇四×年には地上三十五階、地下二階の琵琶湖を望む市庁舎が完成、今都市民は『滋賀県内で最も立派な市庁舎が建った』と大喜びをした。市庁舎完成の日は『今都独立記念日』として毎年祭りが開催される予定だった。翌年からカジノの建設も着工された。


「風俗に博打、それに大麻。『欲望の街今都町』だね」(浅井楓)

「あんなところに行っちゃ駄目よ」(浅井晶)


 文化活動として今都市民会館は立て替えられて名称も『大今都市文化ホール』とされ、市民劇団の『今都市歌劇団』も創設された。


 今都市の市民の七〇パーセント以上が高齢者、高齢者を除く九〇パーセントの労働者が市役所職員。市役所は他の街で就職できない若者の受け入れ場所として旧今都町出身者を積極的に採用している。


「同郷のよしみで採用したら使えないのなんの、よく聞いたら『今都出身ですげヴォ』って威張るの。一か月分のお給料を渡して会社都合で辞めてもらったわ。駄目ね、今都は」(今津麗)


 市役所職員のうち七〇パーセントは病欠で業務が回らず、実際に業務を行っている職員のほぼ全数は旧蒔野町出身。仕事に来ない・能力不足だからと言って旧今都町出身の職員を解雇する事も出来ず、次々と新規職員を採用しては支出が増えるを繰り返すうちに今都市の財政はあっという間に火の車となった。


「何かな、『今都ですげヴぉ!』って面接で言うと採用らしいで」(大島レイ)

「人間は楽な方楽な方へ行きたがるけど、今都はダメよ」(大島リツコ)

「とりあえずレイは勉強して大学を卒業しなさい」(大島中)


 肝いりで創立された今都市歌劇団だったが、これがまた大赤字を叩き出している。


「街よ甦れ、今都市歌劇団。我ら高貴なる今都市歌劇団」(今都歌劇団レヴューより抜粋)


「今都市歌劇団はな、男役がアカンかったんや。おばさま方が『高嶋署の白き鷹』を覚えてるからなぁ」(大島レイ)


 某歌劇団のように街を活性化させる起爆剤として期待された。鉄道の便を増やしたり利便性を高めようとしたが、駐車場が狭かったり内容の割に料金が高かったりで閑古鳥が鳴き、とんでもない額の大赤字を叩き出したのちに閉鎖された。


 支出を抑える為に公共サービスや文化施設の閉鎖を提案した市長は毎回リコールされ、その度に議会解散・選挙となってタダでさえ厳しい今都市の財政は圧迫され、業務に就いていた極少数のまともな職員は次々と退職。そこへ新規職員を採用しては病欠で業務が回らなくなり新規職員を採用するを繰り返した今都市は結果として二〇四〇年代初期に財政破たんをした。


「やっぱり、あの時思い切って良かったなぁ」(六城浩紀)


 少しでも収入を得ようと今都市内へ入る道路には関所が設置され、料金を徴収する料金所が設置されたがこれがまた不評で、業者や宅配便は今都市に配送を断った為、数少ない店は閉店に追い込まれた。料金所の職員に給料を払う事もままならないが解雇も出来ず、赤字の温床となっている。


「目先の金しか目に入らん。今都らしいと言えば今都らしいね」(本田速人)


 六城石油店が移転して以降、今都町へのガソリン・軽油・灯油などの石油類の供給が途絶えた。近年では植物性油脂で走行可能なディーゼル機関が普及している。力の源としてディーゼルエンジンが信仰されている。


「ディーゼルを崇めよ~っ!」(今都市民)


 基本的に植物油で動くディーゼルエンジンの乗り物ばかりが動いているが、整備状況は極めて悪く黒煙と天ぷらのような匂いをまき散らして走っている。ごく一部では松の根から採れる『松根油』が流通して使われている模様。流通量が少ないので小型のオートバイで使われているとか。


 二〇四×年現在、今都町へ出入りする者はほぼいない。

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