外れスキル『即死』が死ねば死ぬほど強くなる超SSS級スキルで、実は最強だった件。

日ノ出しずむ

第一章 即.C.コンバット

第1話 最弱常敗の即死雑魚 その①


「不幸だ……!」


 不幸だ。


 最悪だ。


 人生設計が滅茶苦茶だ。


 親に無理やり勉強させられて入った魔導学校は、冒険者を養成する超エリート学校だった。


 周りを見れば金持ちや役人の子供ばかりで、貧乏人の息子である僕なんかは浮きまくっていた。


 友達どころか話せるような相手もいないまま、独りぼっちで三年間、僕は魔導学校で過ごした。


 無理やり入らされた学校だから、当然成績も中の下。ろくな魔法も身につかなかった。


 それでもなんとか頑張って、僕はようやく魔導学校を卒業した。

 魔導学校を卒業した者はオリジナルのスキルが与えられることになっていた。

 他の誰も持っていない、固有のスキルだ。


 そんなスキルを持っている人間を、各地のギルドは放っておかない。当然僕も冒険者としてギルドからお呼びがかかるはずだった。


 はずだった、のに。


 他の卒業生たちが物凄いスキルを貰っている中、僕に渡されたスキルは。


 超外れスキル、【即死デストラクション】。


 もしかしたら、この名前だけを見て、強力なスキルだと思った人もいるかもしれない。


 確かに強力だ。

 もしこのスキルが、敵を即死させることができるスキルなら。


 だが、違う。


 このスキルで・・・・・・即死するのは・・・・・・僕だ・・


 しかも、僕が自由に操れるわけじゃない。

 僕が死を意識した瞬間、自動的に発動するスキルなのだ。

 最初は発動条件も分からず、毎日死にまくっていた。

 だけど、最近になってその仕組みを理解し、ある程度は制御が効くようになってきた。


 矛盾しているようなことを言っている気もするが、それはさておき。

 百聞は一見に如かずともいうし、試しに今から死んでみよう。


 僕は今、表通りの狭い料理屋にいる。

 ちょうど僕のすぐ隣の席の客が席を立って、店を出て行った。これを覚えていて欲しい。


 それから、僕の頭上には店内を照らす魔ランタンが設置してある。

 もしあれが僕に落ちてきたなら、多分僕は死ぬ。


 死ぬ。


 目の前が暗くなっていく。


 体が動かない。


 声が出ない。


 呼吸ができない。


 感覚が徐々にマヒしていく。


 視界が完全にブラックアウトした。


 もはや上も下も分からない。


 遠くで誰かが叫んでいる声がする。


 だが、すぐに声も聞こえなくなった。


 それから、ついに。


 僕は死んだ。


 ――そして、目を覚ます。


 ちょうど隣では、客が席を立ったところだった。

 さっき既に店を出たはずの客が。


 要するに僕のスキルは、死んだ瞬間、その少し前の時間からリセットされる能力なのだ。


 自分で死んで自分で生き返る――無意味でしょ?


 そりゃあ、死なないスキルと言えば聞こえはいいが、要するにそれは何度も死んでしまう・・・・・・・・・というわけで。


 死ぬのが好きな人なんていないわけで。


 こんな意味の分からないスキルだから、当然ギルドから声がかかることもなく。

 学校を卒業したから寮からも追い出され。

 実家に帰るわけにもいかず。

 こうしてふらふらした生活をしているというわけだ。


 スキルが【即死デストラクション】に決まるまでは、いくつか僕に声をかけてくれたギルドもあった。

 でも、そのどれもが今は音沙汰なしだ。


 魔導学院の生徒というだけで勝ち組なんじゃなかったのかよ。


 僕は食事代を払って、店を出た。

 外はもう暗くなっていて、仕事帰りだろう人たちが大勢いる。


 魔導学校は、この魔導王国グラヌスの首都であるシュルルツに置かれていた。

 僕は惰性で、この首都シュルルツに居残っていた。


 本当はもう自分で死んでしまっても良かった。

 だけど、仮に僕が死んでも、多分このスキルのせいで再び生き返ることになるだろう。


 誰からも必要とされず、帰る場所もなく、そして死ぬことすら許されない。

 これが、僕のスキル【即死デストラクション】というわけだ。


 ふと、路地裏の方で悲鳴が聞こえた気がした。

 興味本位で覗いてみると、薄暗い路地の奥にはうごめく複数の影があった。

 そしてその中心に、小さい影。少女のようだ。


 ああ、納得。

 これはつまりアレだ。


 男たちが少女を無理やり路地裏に連れ込んで、大勢で乱暴・・するっていうお決まりのアレ。


 どうしよう。

 はっきり言って僕は正義感の強い方じゃない。

 だけどまあ、今日は機嫌が悪い。

 街の荒くれ相手に憂さ晴らしするのも悪くないだろう。


「やあ、君たち、楽しそうだね」


 僕は路地裏に足を踏み入れ、努めて明るく彼らに声をかけた。

 人影が一斉に僕の方を振り向く。


 少女を押さえていた一人なんかは、下半身を露出させていた。

 うーん、嫌な方で予想通り。


「なんだ、てめえ!」


 僕の一番近くにいた男が怒鳴ってくる。

 多分、見張りをやらされている下っ端だろう。


「無職童貞ヒキニート、趣味は読書以後よろしく」

「あ?」


 男が間抜けな顔をした瞬間、僕はその顎に上段蹴りをぶち込んでいた。


 骨が砕けた音がした。


 集団に動揺が走るのを、僕は感じた。


 体は勝手に動き、気づけば僕は集団を全滅させていた。


 少女は壁際でうずくまり、震えている。


「やあ、君、大丈夫?」


 少女が顔を上げた。


 その瞬間、僕の背中を冷たいものが突き刺した。


 ナイフだ。


 あっ、死んだ。


 薄れゆく意識の中振り返ると、男が嫌な笑みを浮かべて、僕の背中にナイフを押し込んでいた。

 ……こいつ、さっきの下半身露出男だ。


 足元がふらつく。

 傷口から血がドバドバ出てくる。

 最近貧血気味だと思ってたけど、こんなに血が出るなら思い過ごしだったかもな。


 まあ、これも仕方ない。

 次回は気を付けよう。


 僕は、目の前にうずくまる女の子は笑いかけてみた。

 だけど、女の子は引きつっていた顔をさらに引きつらせるだけだった。


 うーん、ちょっと残念だ。


 そして僕は地面に倒れこみ、間もなく死んだ。


 ――それからすぐに蘇った。


 目の前にはさっきと同じ、うずくまった少女。

 背後にはナイフの気配だ。


 振り向きざま、相手に右手を叩きこむ。


「ぐえっ!」


 男が汚い声を上げて、気絶する。


 僕はもう一度辺りを見回してみた。

 全員倒したらしい。

 よし、今度はうっかり刺されるなんてことはなさそうだ。


「えーと、もしかしたら聞くのは2回目かもしれないけど、君、大丈夫?」

「だ、大丈夫、です」


 女の子は小さい声で答えた。


「そうか、怪我は?」

「な、ないです。ちょっと擦りむいたくらい」

「何もされていない?」

「はい、大丈夫です」

「まだ処女?」

「はい、まだしょ……はい?」

「いや、なんでもないよ」


 よかった。

 性的な乱暴は受けていないらしい。


 どうにか間に合ったな。


 目の前の処女、もとい少女はさっきから変なものを見るような目で僕を見ている。


 なぜだろう。

 女の子を集団で路地裏に連れ込むような奴らより、僕の方がよっぽどまともなはずなのに。


 ……あれ、待てよ。

 僕、この子をどこかで見たことがあるような気がする。

 例えば、魔導学校とかで。


「ねえ君、もしかして魔導学校の生徒だったりする?」

「!」


 露骨に驚いたような顔をする少女。


「そうか、やっぱりね。見たことあると思った」

「もしかして、君もなの?」

「隠してたつもりはなかったけど」

「ああ、なるほど、どうりで」

「どうりで、何?」

「私もあなたに見覚えがあるって思ってたところ」

「ははーん、以心伝心ってやつ? 気が合うね」

「さっきこの人たちを倒したのだって、魔導学校で習った護身術でしょ?」

「そうそう」


 護身術だけは、僕の得意科目だった。

 保身が得意なのかもしれない。役人にでもなっておけばよかった。


「でもどうして、こんなところにいたのよ?」

「奇遇だね、僕も今それを君に訊こうと思ってたところだよ」

「私は別に、来たくて来たわけじゃないわ」

「僕だってやりたくてこんな生活してるわけじゃない」

「……ギルドに入らなかったの?」

「入れてもらえなかったからね。君は?」

「私も」

「へえ、詳しく聞きたいな。ここじゃなんだから、ちょっと場所を移そうか」

「どこへ?」

「君の家とか」


 少女が怪訝そうな顔をしたが、僕はあえて無視することにした。


※※※


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る