第35話:奴隷商人は最後の夜を過ごす②

 出荷が決まった三人の奴隷たちは、最後のお別れとばかりに俺に甘えて来る。

どうせ買い戻すつもりでいるのだが、サプライズということで黙っておくことにした。

 きっと俺が買いに来たら大喜びに違いない。

 つい、鼻息を荒くして興奮してしまったが、何を勘違いしたのかマリレーネがおっぱいをぐいぐいと押し付けてくる。

負けじとパオリーアも柔らかい双丘で、俺の身も心も包み込んできた。


「まぁ、落ち着こう。なっ、涙は拭いて! ほら、マリレーネはパンツを脱がないっ!」


 気が早いマリレーネは、いそいそと膝まで下ろしかけたパンツを再び上げるとはにかむ。

 くそかわいいじゃないか。


「あの……旦那様はウチたちと離れてしまうのは……その、あの……」


 口ごもるマリレーネ。聞きたいことがあるのに聞けないって感じだな。

 パオリーアが続きを察したのか、貫頭衣の裾を整えると言った。


「旦那様とお別れになるのは、悲しいです。寂しいです」


 パオリーアの言葉に、ウンウンと肯首するアーヴィアとマリレーネ。

 あれ、アーヴィアって俺のことをどう思っているんだろう。パオリーアとマリレーネは何となく俺のことを好きでいてくれているのはわかるんだけど、アーヴィアはストレートに気持ちを伝えてくれたことはない気がする。

 嫌われてはいないとは思うんだけど……


「アーヴィアは俺のことを恨んでいないのか? ずいぶんひどいことをして来たと思うんだが。マリレーネだってそうだ。きつい折檻を受けていただろう? それでも俺から離れたくないと思っているのか?」


 一瞬、三人は息を飲むとうつむいて考えているようだった。

 即答できないということは、やはり過去の俺がしたことはトラウマになっているということか。


「以前の旦那様と、今の旦那様はずいぶんと人が変わったように思います。たしかに、以前の旦那様は……その、怒らないで聞いてくださいね。とても怖いと思っていました。むごいことをする人だって恐れていました。でも、今はとてもよくしてくださいます。私たちだけでなく、他の子たちにも優しくしてくださっていて、とても……素敵だなと思って。だから、恨んだりしていません」


 パオリーアは、ゆっくりと俺の目を見ながら言った。

 たしかに、以前のニートは女神に召されて抜け殻に俺の魂が入ったのだから、文字通り心を入れ替えた。

 だけど、そのことはこの娘たちは知らない。アルノルトたちにも言っていない。

 だから、きっと周りの者たちは俺が人が変わったかのように善人になったと思っているのはわかっている。

 しかし、そんなに単純に過去のことを許せるものなのだろうか?


「マリレーネはどうだ? 過去の俺を許せるのか?」

「当たり前ですよ。ウチは嫌なことは忘れて、良いことは忘れないってのが取り柄だしね。旦那様とはいろいろあったけど……でも、恨んだりしてないんだ。むしろ、今はとても良くしてもらっているし感謝してますよ」


 いろいろって何があったのか聞きたいような、聞きたくないような。

 たしか、マリレーネは生意気だからとニートはいじめ抜いたらしい。飯を何日も食べさせなかったり、ニートが疲れるまで鞭打つこともあったと聞いている。

 性的な虐待だって何度もあったとも聞いていた。

 獅子人族は体が丈夫で回復力も尋常ではないため、いたぶられても翌日にはケロっとしていることが、またニートの怒りを買った。

 そんな虐待を受けても、許せることって本当にあるのだろうか……

 だが、マリレーネの様子から本当に気にしていないようだった。


「アーヴィアは俺のことを許してくれてる?」

「……許さない」


 いやいや、ちょっと待て。一刀両断だな。

 アーヴィアは、モジモジと左右に体を揺らすと、続けて「でも、好き」って言った。


「許していないけど、でもそれは前の旦那様。今の旦那様に恨みはないです」

「今の俺って、以前の俺と違うのか?」

「うん……やさしくなった。むしろ、ガツガツしてこないから物足りない」


 うわぁ、はっきり言うね。アーヴィアって奥ゆかしいおとなしい子ってイメージだけど、ちょいちょい腹黒いところあったりするし、大丈夫かな。


「も、物足りないのか。わかった。善処する。そんなことより、三人が俺のベッドで寝るのか?ちょっと狭くないか?」


 俺の部屋のベッドはキングサイズくらいはある。それでも四人はつらいだろう。

 寝返りを打つと、落ちてしまうんじゃだろうか。


「大丈夫。旦那様が真ん中に寝るだろ。そしてウチが左。リア姉さんが右に寝ればいいんだよ」


 そう言いながら、俺をベッドまで押していくと押し倒してベッドの真ん中に仰向けにさせた。力が強いって本当だな。

 まったく抵抗できなかったよ。

 なぜかルンルンに笑顔となったパオリーアが、俺の右側に添い寝する。

 俺の方を向いて左腕に胸を押し付けてくるあたり、もう定番な感じがする。

 ほんわかと温かい人肌とやわらかな感触に腕が喜んでいるのがわかる。

 きっと、今の俺は鼻の下を伸ばしまくっているはず。見たくねぇな。


 マリレーネも負けじと左側に寝転ぶとピタッと体を引っ付けてくる。


「あの……これじゃアーヴィアが寝るところないんじゃないか? もっと端に寄った方が……」


 俺が言い終わらないうちに、アーヴィアは俺の胸へとダイブ。がぁあああっ、上に乗るんかいっ!


「アーヴィア。それ、ちょっと無理があるぞ。上に乗ったらいくら小さなアーヴィアでも重いぞ」

「ぬぅ、失礼な……やはり旦那様はデリカシーがないです。昔と何も変わってないです」

「いやいや、そうじゃなくて。あぁ、ごめんって。だが、しかし……」


 慌てて腕でアーヴィアを起こそうとするのを、左右からガッチリと腕をおっぱいホールドされているので押し戻せない。

 なんなんだ、このハーレム状態は。

 いいのか? いいんだよな?


「これで本当に寝るのか? 絶対に眠れない予感しかしないんだけど……」


 パオリーアが、なぜか俺の耳に息を吹きかけながら「平気、ぐっすりとお休みになれるように頑張りますわ」なんて呟くもんだから、変なところに力が入ってしまう。


「あらあら、旦那様、すっかり元気になっちゃいましたね。落ち着かせないとアーヴィアが眠れませんよぉ」


 マリレーネがいたずらっ子のような顔をして、俺の下半身をまさぐりながら言う。

 やばいぞ、これは朝まで眠れないパターンじゃないか。


 元いた世界では女の子にモテた覚えがない。

 しかも、この三人は元いた世界の基準でもかなりの美人。

 清楚な正統派美女のパオリーアに、元気な美人ギャル風のマリレーネ。美少女アイドルのようなアーヴィア。

 とても、元いた世界ではテレビの中の人でしか出会えないようなレベルの女の子たちに言い寄られている。

 これが異世界転生にお約束の特典ギフトってやつか?



 そんなわけで、お涙頂戴のお別れ会になるかと思ったら、三人からエッチないたずらされ放題が夜中まで続いたのだった。

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