プロローグ②:奴隷商人の息子と魂を入れ替え?

 俺は、片山仁人にいと。この四月で二十三歳になったばかりだ。

 同級生たちは就職し、新社会人として新しい一歩を踏み出しているはずだが、俺は違う。

 そう、俺は名前の通りニートだったりする。親がそんな願いを込めて名付けたとは思わないが、『名は体を表す』とはこのことを言うのだろう。

 仕事をすることは嫌いではないが、やりたい仕事が見つからないのだ。ゆえに、無職。


 親も特に仕事をしろとも勉強しろとも言わない。むしろ甘々に育てられ、怒られた記憶もなかった。

 そんな優しい親の脛をかじりながら、何かやりたいことが見つかるまでゲームでもして気楽に過ごそうと思っている。


 ちょうど今さっき起きたばかりなのだが、すでに十一時を過ぎたあたりだった。

 朝飯と昼飯を同時にとるようになったが、いつものことだ。一食分の食費が浮いたと思えばいい。


 実は昨夜も遅くまでゲームをしていた。いわゆる、エロゲームというやつだ。

 ここだけの話だが、俺は素人童貞。そう、プロのお姉様方にお世話になったことなら何度かある。

 俺のように女の子とコミュニケーションが取れない男でも、プロの女性なら優しく接してくれるので楽なのだ。

 気を使わなくてもいい。

 服を脱いで、寝転んでいたら後はなすがまま、されるがままでいいのだから、風俗サイコー!

 しかし、無職ニートの俺は何度も風俗に通える金も、外に出る勇気もない。だからゲームに逃げているとも言える。


 最近ハマっているは、ファンタジーものでエルフの女の子を奴隷にして陵辱するというエゲツないゲームだ。

 森でエルフを狩っては奴隷に落として従順にしていくだけなのだが、たくさんの可愛いキャラがいるので、つい収集癖が出て毎日次々と奴隷を集めて悦に浸っている。冷静に考えるとやっていることは鬼畜だ。でも、女の子が涙を流すシーンは心が痛む。

 正直、女の子が痛がったり泣いたりするゲームや動画は、好きではないのだ。それでも、このゲームにハマっているのは、大切に育てるとラブラブモードになってハーレムが作れるから。

 初めは嫌がっていても、優しい言葉をかけてやるだけで堕ちてくれる。

 そう、みんなチョロいのだ。


 俺は、飯を食べ終わると顔を洗い、そして自分の部屋へと戻ることにした。


『陵辱ハーレムは性奴隷エルフとともに』と書かれたタイトル画面。

 ログインすると、今朝更新されたばかりのガチャが回せるようになっていた。


「いい子に当たりますように……」


 俺は、そう呟くと両手を合わせ二回柏手かしわでを打った。ガチャで引いた奴隷のエルフは、今俺が育てている奴隷の強化素材になる。

 強化するといろんな性技を会得していくと、よりエロいことをしてくれるのだ。


 ――――ピンポーン!


 チャイムの音が聞こえたが、とりあえず無視だ。再配達票でも置いてくれたら親が夜にでも受け取るだろう。

 いや、待てよ。もしかして、新しく買ったオナホかもしれない。


 ――――ピンポーン!


 もう一度チャイムが鳴る。オナホだったら親が受け取ると、何買ったの? いくらしたの?としつこく聞いてこられてウザい。

 俺はガチャを回すボタンをクリックすると結果を見ずに、玄関へダッシュした。


 ドンガラガッシャーン!


 典型的な展開だ。俺は階段を転げ落ちてしまった。いや、落ちているところまで覚えている。

 痛いという感覚と、やばいと叫んだことも覚えている。しかし、どういうことだ、俺は大の字になって寝ている。

 真っ白な天井……どこだこれ?


 体を動かそうとしたが、全く動けない。意識はあるが体が動かない状態、金縛りか……

 その状態で数分ほどたっただろうか、耳元で女の人の声が聞こえてきた。

 目玉だけを横に向けるが何も見えない。


「あなたは、先ほどお亡くなりになりましたのよ」


 俺が死んだ? 何言ってんだよ、生きてるよ。だいたい、ガチャで何を引いたのかさえ見てないのに死ねないよ。


「もう一度言いますが、あなたは先ほどお亡くなりになりました」


 大人の女性の声だ。俺よりも年上だろうか、色っぽいような、艶のある声。

 色っぽい声だなぁと、俺は自分が死んだとか言われたことを忘れて、声の主のことが気になった。


「うふっ、そんなに色っぽいかしら……」


 あれ? 心の中の声が勝手に口から出ちゃってました?


「いいえ、あなたは今は霊体なので肉体的にはしゃべることはできませんよ」


 俺は、死んだのか。階段から落ちて死ぬなんて、年寄りの事故くらいかと思っていたよ。

 いや待てよ。だったらなぜ俺は意識があるんだろう。死んだら天国に行くとかありえないだろ。

 死後の世界って本当にあるものなのか。


「まだ現実を受け入れられないみたいだけど、あなたは死んで霊体となって今この場所に一時的にいる。それが現実。現実って表現は正しくはないわね。何しろ現世にいないわけだから」


 そうか、みんな死んだらこの場所に集められて、そして天国なり地獄なりに行くってことなのか。

 正直、何も信じられないし、自分の今の現状が夢なのか現実なのかさえわからない。ただ、意識ははっきりしているから寝ぼけているわけじゃないと思う。


「みんな死んだらここに来るわけじゃないわ。人は死んだら、そのまま次の命へと旅立つの。あなたたちの世界では輪廻転生と呼ばれているわ」


 輪廻転生か。生まれ変わるってわけか。だったら、なぜ俺だけこの場所に身動きも言葉も発せずに縛られているんだ? もしかして地縛霊というやつか。


「ごめんなさいね。なぜあなたがここに来たのか先に言っておいたほうが良さそうね。実は、ちょっとお願いがあってね」


 お願いだと……この人は死んだ俺に何をお願いすることがあるって言うんだ。もしかして、霊体を食べる魔物なのか!


「ちょっと、失礼ね! 私は神です。いくつかの世界を見守るだけの存在。輪廻転生を司る神とでも思ってくれていいわ」


 耳元で聞こえるが、実は耳元ではなく頭の中で聞こえているのではないかと俺は気づいた。俺は、体を起こそうと思ったが、やはり動かない。

 あの、この状態でいつまでいたらいいんですか?


 死んだことは信じられないが、階段から落ちたのは事実。怪我をして頭を打って妄想を現実として認識しているだけかもしれない。

 しかし、意識がはっきりしている以上体が動かないのは気持ちが悪かった。


「用件だけ伝えておきます。あなたはこれから異世界へと旅立ちます。ただし、生まれて来るところから始まるわけじゃありません。実は、今ちょっと眼に余る男がその世界にいます。私は神ですからその男の命を奪うことはできません。ですが、魂を抜き取ることはできます。あなたは、魂を抜けた男に変わって残りの余生を生きてください」


 は? 何言ってるのかわからないです。えっと……魂が抜けた体に俺が入ってその男の代わりに生きていけってことでいいのかな? っていうか、魂を抜くのと命を奪うのって同じじゃないんです?


「同じではありません。あなたたちの世界でいう成仏するのと、魂の浄化は別のものです。これはわかる必要はありません。あなたの魂をその男の肉体に宿します」


 その男って? だれ? 俺の知ってるやつ?


「異世界なので、あなたが住んでいた世界とは異なります。何かと不自由でしょうが、あなたは寿命が残っているにも関わらず死んでしまったので、残りの寿命は別の体に入って余生を生きていくのです」


 別の選択肢ってあります? 元の自分の体に魂を戻すとか……


「ありません!」


 ピシャリと言われてしまって、俺はそれ以上何も言うまいと思った。どうせ夢だろう。


 それって、異世界転移ってやつですか? 何か特別な能力とか貰えるとか……あります?


「何を言っているのかわかりませんが、あなたが今後生きて行く男は、クズでゲスで鬼畜で人でなしです。ですが、あなたなら大丈夫。最低限の生きていけるだけの知恵を授けておきます。読み書きと会話は問題ないでしょう。後はあっちに行ってから学んでも問題ありません」


 ちょっと、神様。聞き捨てならないことを先ほど仰いましたね。クズで鬼畜と……そんな男として生きて行くの嫌なんですけど。それって、冗談ですよね?

 ねぇ、ちょっと……


 意識が遠くなって行く。背中の方から下方に向かってスーと落ちて行くような感覚。まるで究極に眠くなって、ベッドに入り込んだ時の意識が遠のく感覚に似ていた。

 俺、本当に死んだのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る