(31)驚天動地の告白

「海晴! 異世界に行っているって、どういう事だ!?」

「今までそんな事、一言も言っていなかったわよね!?」

「それに霊力が無いのに、どうして使えるんだ!?」

「今の台詞、全然意味が分からないんだけど!?」

 四人一斉に悲鳴じみた声を上げられて、海晴はさすがに閉口した。


「ちょっと皆。そんなに驚かないで、落ち着いて。一斉に喋らないでよ」

「これが落ち着いていられますか!! 驚くのが当然よね!?」

 喧嘩腰の天輝を宥めながら、海晴が話を続ける。


「取り敢えず、私から霊力が感じられないのに異能を行使できる理由は、何となく推察できたけど。それを言ってみていいかな?」

「どんな理由よ!」

「天輝と私が双子だからだと思う」

「はい?」

 突然意味不明な事を言われて、天輝は面食らった。しかし海晴はそのまま持論を展開する。


「つまり、本来一人が強力な霊力保持者兼行使者として生まれるところが、双子だったことで一人が霊力を生み出す方、もう一人がそれを使う方に分かれたとか。そう考えるとしっくりこない?」

 海晴から大真面目に意見を求められた天輝は、自分を指差しながら引き攣った顔で問い返す。


「……ちょっと待って。そうなると私は霊力を生み出すだけで、それを海晴が使っているわけ?」

「そうかも。無理矢理例えると、天輝が無尽蔵の貯水タンクで、私がそれを汲み出すポンプと蛇口?」

「何よそれ……。召喚体質以上に理不尽すぎるわよ……」

「…………」

 がっくりと項垂れ、そのままソファーの肘掛け部分に突っ伏した天輝を、桐生家の三人は気の毒そうに見やった。そこでなんとか気を取り直した賢人が、慎重に確認を入れる。


「その……、海晴? 異世界に行っていると言っていたが、そうなるとお前は《異界転移》の能力保持者と考えて良いんだな?」

「そういうことになるわね。お父さんが言うところの《観念動力》と、若干の《意識操作》も使えるけど。おかけで未知の土地でトラブルが発生しても、これまで悉く無事に生還。ご先祖様、ありがとう」

 しみじみとした口調で呟いた海晴が一人で頷いていると、勢い良く上半身を起こして向き直った天輝が妹に噛みついた。


「それ、感謝することなの! というか『生還』って、今までどんな危険に遭遇して、ケロッとした顔で帰ってきたのよ!?」

「その……、あれこれ正直に話したら、天輝が激怒しそうだし……。ここは黙秘権を行使したい」

「もう十分怒っているわよ!!」

 自分から視線を逸らしながら誤魔化そうとする海晴に、天輝の怒りが振り切れそうになった。しかし賢人が、冷静に彼女達に言い聞かせる。


「天輝、話が進まないから、少し落ち着いてくれ。それで海晴。異世界に行くようになった時期と、きっかけを話してくれるか?」

 促された海晴は、考え込みながら詳細について話し始めた。


「ええと……、初めて向こうに行ったのは高1だった筈だから……、十年前かな? きっかけは、ベッドで寝ていて見覚えのない風景の夢を見ていたら、急にごつごつした地面の上に寝ていてね。違和感を感じて目を開けたら夜中の筈なのに真昼だし、周りはそんな状態だし大パニックよ」

「それはそうだろうな……。それでどうしたんだ?」

「どうもこうも……。明るいうちは、素足のままパジャマ姿で森の出口を探してさまよったの。だけどそのうちに夜になって、周囲が真っ暗になっちゃって。それで大泣きしながら『天輝! 助けてぇーっ!』って喚いていたら、天輝の部屋に戻っていたのよ」

「え? 何それ?」

 思わず天輝が口を挟むと、海晴がむきになりながら言い返す。


「私だって、そう思ったわよ! 反射的にベッドで寝ていた天輝を叩き起こしちゃったし! それで『寝入りばなで、何で起こすのよ!』ってものすごく怒られたんだけど、覚えていない?」

「……ごめん。全然記憶にない」

「とにかく、戻ってこれたのには安心したけど、向こうで何時間も森を歩き回っていた筈なのに、時計を確認したら寝た時間から一時間も経過していないし。寝ぼけたにしては、足が汚れて擦り傷だらけだし。もうわけが分からなかったけど、取り敢えず足を綺麗に洗って、擦り傷も消毒して薬を塗ってから寝直したわよ」

 そこまで話を聞いた天輝は、額を押さえながら呻くように尋ねた。


「あのさ……、海晴。今更済んでしまった事をどうこう言っても仕方がないけど、その時点で誰か他の人に相談しようとは思わなかったわけ?」

 それに海晴が真顔で問い返す。


「それじゃあ聞くけど、天輝は異世界の召喚話なんて全く知らない状態で、私が『実は私、寝ている間に変なところに行って無事に戻ってきたら、殆ど時間が経っていなかったの』とか言いだしたら、どういう反応をしたと思う?」

「どうって言われても……」

「天輝の性格だったら、絶対に『海晴がおかしくなった!』って号泣して、『病院なんかには入れないで!』大騒ぎしたよね?」

「さすがにそこまで狼狽するとは……」

「したよね!?」

「多分、しました……」

 断言口調で詰め寄られた天輝は、海晴の主張を消極的に認めた。それを見た海晴は、肩を竦めて弁解する。


「だって、まさかお父さん達も異世界の事を知っているだなんて、夢にも思っていなかったもの……。てっきり私だけの突然変異的な能力かと思っていたのに、本当にびっくりよ。その後少しして、また寝ている間に変な夢を見た時に向こうに行っちゃってね。その時は落ち着いて部屋で寝ている天輝を強くイメージしたら無事に帰ってこれたから、それで異世界との行き来の仕方が分かったし」

「海晴、さっき『悉く無事に生還』とか言っていたよな? もう何回も異世界に行っている口ぶりだが、どうしてそんな事になっているんだ? 普通、得体の知れない所に行きたがらないと思うが?」

 呆れるばかりの顛末に、ここで悠真が真っ当に思える疑問を呈したが、対する海晴はあっけらかんと答えた。

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