機動白百合戦士ユリリンガーY ~Ten years later true love~

@dekai3

第壱話 『衝撃 カノコの秘密とヒメの秘密(前)』

ガヤガヤ ワイワイ


 ここは再開発したばかりの駅裏にある新興マンション一階の居酒屋。

 海無し県では珍しい魚介重視の店であり、そこらの飲食店よりも明らかに鮮度が違う優良店だ。


グッグッグッ プハー


「んっ…あぁ~。やっぱエビチュのビールは最高よね~。これは人類の英知だわ~」


 入り口から一番近いカウンターに座ってマグロの血合いの唐揚げでやっている女性は久留間カノコ。実家暮らし家事手伝い彼氏居ない歴28年絶賛更新中のユリリンガーYの元パイロットだ。


ガラガラー イラッシャーイ! オヒトリサマデスカー?


「あ、連れが先に居ますので…」

「ヒメー、こっちー!」


 店に入るなり自分の名前を叫ばれ、溜め息と共にやれやれといった顔をしてカノコの横の席に座る女性は糸羽ヒメ。カノコと同じく今年で28歳になる元ユリリンガーYのパイロットだが、カノコと違って三つ先の駅近くの派遣会社の事務として働いている。


「ヒメは何飲む? ここ日本酒も焼酎も結構種類があっていいよ」

「明日も仕事だから止めておくわ。朝から受注先に行かなきゃいけないの」

「ふぅん、明日は土曜日だってのに会社員は大変だねぇ」

「そうね。お金を稼ぐって大変だわ。あ、ジンジャエール下さい」


ヨロコンデー


 翌日にアルコールを残さない様にと、ソフトドリンクを頼むヒメ。

 二人の席は調理場の目の前のカウンターなのでジンジャエールは直ぐに用意され、お通しのホタルイカの沖漬けと共に机に置かれる。


「それじゃー、ヒメの休日出勤にかんぱーい!」

「はいはい、かんぱい」


カチン! グビリ グビグビ ダンッ!


「んっ、はぁー! おいしー! ビール追加でー!」


ヨロコンデー


 ヒメとは反対にアルコールを飲む事を躊躇わず、勢いよくビールを飲み干しては直ぐさま次を頼むカノコ。これでカノコが飲み干したビールは都合ジョッキ五杯であり、かなり出来上がっている。


「そんなに飲んで大丈夫なの? 帰れる?」


 ヒメはそんなカノコを見て帰りの足の心配をする。ヒメはカノコがどれだけ飲んでいるのかは分からないが、流石にペースが早いという事は見て取れる。

 いつもはこんなに早いペースで飲むカノコではない。何かあったのだろうか。


「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。タクシー使うからへーきへーき」

「そんなの、お金が勿体な…」

「あ…」


 わざわざタクシーを使うなんて無駄な出費だと言おうとしたヒメだが、そこでカノコが自分とは違うことに気付いて言葉を止める。

 カノコもヒメにお金について気にさせてしまった事に気付き、笑顔を顔に張り付かせたまま固まってしまった。


オマタセシマシター ツイカノビールデスー ゴトン


 気まずい空気が流れる中、二人の事はお構いなしにカウンターに置かれるビールジョッキ。

 ビールは綺麗な琥珀色をしており、沸き立つ泡がまるで宇宙に浮かぶ星の様に弾けては消える。


「ご、ごめん…嫌な事思い出させちゃった?」

「ううん、いいの。あれは私が迂闊なだけだったから…」

「そんな…あれはあの男が悪いって。ヒメは悪くない!」

「でも、私にも落ち度はあったわ。機械帝国と戦っているときはあんなミスしなかったのに、不思議ね…」


 十年前。高校三年生だった二人はひょんな事からスーパーロボットのユリリンガーYのパイロットとなり、悪の機械帝国と戦った。

 二人の戦いは二年(4クール+劇場版と続編に途中から参戦)あったのでヒメは受験に失敗して浪人になってしまったのだが、幸いにもユリリンガーYが大活躍した事で製造元の株価が急上昇し、サラリーマンの生涯賃金の二倍ぐらいという高額な退職金を貰う事が出来たのだ。

 ヒメはこの退職金を使って失った時間を取り戻すつもりだったのだが、予備校時代に参加した合コンでバンド志望の男性と意気投合して付き合う事になり、その男性の夢の為に退職金を全部使用してしまっている。

 バンドマンの男性はヒメからこれ以上お金を毟り取れないと分かるとあっさりと二人の愛の巣のマンション(ヒメが一括で購入した)から出て行き、今も行方知れずのままである。

 その為、ヒメは高額な退職金をもらったのにも関わらず生活費を稼ぐ為にOLをしている。母親と顔を合わせると『あれ程バンドマンは止めなさいと言ったでしょ!』と毎回言われるので、ここ三年は実家に帰っていない。


 一方カノコはというと、その性格から色々と緩そうに見えても実は実家が田舎のそれなりの名家なのでお金の管理はしっかりしており、何より『女は花嫁修行と畑仕事をしていろ』という祖父の時代錯誤な厳しい教えがあったので退職金は殆ど消費せずに丸々残っている。しかも毎月結構な額のお小遣いを貰っているので金銭面では全く困っていない。

 ただ、実家はかなり広いし畑や田んぼも広いので、家事手伝いと言いながらもわりと重労働だ。

 そして、カノコが彼氏いない歴=年齢なのにも理由がある。


「(私が男だったら、ヒメを嫁に迎えれたのにな…)」


 そう、カノコはヒメの事が好きなのだ。


「でもさ、リーパーアズテキウムと戦った時も敵のイケメンサイボーグに心奪われてなかった?」

「あ、あれはそういうのじゃないわよ。確かにイケメンだったけど、恋愛とは違うわ…」

「どーだか」


グビグビ


 カノコはジト目でヒメを見ながら、新しく届いたばかりのジョッキを空ける。

 リーパーアズテキウムいうのは二人がユリリンガーYに乗る様になってから最初のクリスマスの事件の時の敵であり、丁度その時の二人はお互いに彼氏が居ない事をネタに罵り合って関係がギクシャクしていた頃なのだ。

 そして、敵のイケメンサイボーグがユリリンガーYのパイロットとは知らずにヒメと仲良くなっており、悩んだ末に戦う事を選んだ悲しい出来事でもあった。


「すみませーん! ビールとタコ田楽追加でー!」

「わ、私も鰤のカルパッチョを…」


ハイヨロコンデー


 少し気まずくなった空気を追加注文する事で仕切り直す二人。

 今日は三ヶ月ぶりのサシ飲みなのだ。お互いに嫌な雰囲気では終わりたくないと思っている。


「…………」

「…………」


 だが、二人の間には暫く沈黙が続いた。

 カノコは今日こそ自分の気持ちをヒメに伝えようと思っていたのだが、どうしてだか良い雰囲気に持っていく事が出来ずに攻めあぐねている。

 カノコがヒメの事を好きだと気付いたのは機械帝国との全ての戦いが終わってからであり、丁度ヒメがバンドマンと付き合いだした頃だ。

 あの時はもうヒメに相手が居る状況だったので自分の気持ちに気付いた時にとても胸が苦しい思いをした。

 あれから数年。ヒメは恋人を作っていないが、いつまた男と付き合い出すとも限らない。ヒメが男と付き合いだしてからでは遅いのだ。ヒメふがフリーのうちに告白をしておきたいし、何より年齢的にももう言い出さないと取り返しが付かなくなるだろう。

 断られたら断られたで気持ちの整理が付くし、受け入れて貰えたら貰えたでその後の事も考えてある。

 今晩は自分の気持ちを伝える為にヒメを呼び出したのだ。

 カノコは再度ビールを飲み干すと覚悟を決め、先月から考えていた告白の言葉を喉奥から紡ぎ出す。


「あ、あのさ、ヒメ…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る