第3話 強奪事件! ムギが仮村長

 役場前が騒がしい。ラルフが壇上にたっている。

「この村のデメキン様を帝国の司教様が御神体に指名されました! この村は観光で潤うこと間違いなしです」

 村人達の歓声があがる。畑仕事を手伝ったりで、村人たちはすっかりラルフの虜だ。ペットがムギのところにくる。

「よう! ムギ。よかったな。観光で潤うってよ」

「帝国が税収が欲しかったり、飢えた民が暴徒化しないように貧しい村にやるやつでしょ? 本で読んだ」

「お前は賢いっていえば賢いんだけど、可愛くないなー」

 ムギのほっぺたをつねる。

「痛い、痛い。主人と同じようなこと言うな。あ、村長が、手を打ったってこれのこと?」

「どーだろーなー」

 

 村の噴水にある出目金を模した銅像、その名も「デメキン様」。ムギは、子供の頃から馴染み深く、だからこそ今まで気にも留めたことのないデメキン様を、あらためて見上げる。水から跳ね上がった様が芸術的な気もするが、こんなもので本当に村が潤うものだろうかと思う。


 しかしムギの心配は杞憂に終わった。村はたちまち観光客で賑わいを見せた。人々は神頼みに労を惜しまないようだ。村には次々にデメキン様レストラン、デメキン様ホテル、デメキン様スイーツなどが立ち並ぶ。ちょっと商魂たくましすぎやしないかとも考えられるが、貧しかった村には大きな資源になった。


<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡


 ムギも、首からカゴを下げて手のひらサイズのデメキン様人形の売り子の仕事にありついていた。もう休憩時間はとっくに過ぎてるが、雇い主のおやっさんは、全然声をかけてくれない。

「おやっさん。休憩入っていいですか?」

「すまねー、ムギ。もうちょっと客足ひいてからでいいか?」

 そこへラルフとペットがやってくる。

「私が代わりましょう!」

「え、村長でしょ。一応、威厳とか。というか王子様なんですよね」


 ペットがムギの肩を叩く。

「いいんだ、こういうの好きなんだ、やらせておけ」

 ラルフが売り子をやると、たちまち年配の女性達で大盛況になる。

「お嬢様、袋はご利用ですか?」

 おばさんたちの黄色い声が響きわたる。それをムギとペットが遠巻きに見る。

「なんか、どっかの司会者みたいだな」

 ペットが聞き返す。

「何いってんだ?」

「何言ってんだろ」


 客足が引いたため、夕陽が照らすデメキン様を眺めながら、ムギとラルフとペットでデメキン様アイスを食べる。デメキン様アイスを口にしてペットが驚く。

「うまっ」


 ラルフと目を合わせて、感激し、うなずき合っている。こんな、どこにでもあるカタチだけ変えたようなアイスは、王族と、その精霊にとっては、そんなに美味しいのだろうか。でも今は嫌な気持ちは、しない。


「村長がデメキン様を御神体にするように手を回したんですか」

「御神体だから! 手を回すとかないから! でも、まー、オミソ村はもともとキレイだったからね。もうひと押し欲しかったのはあるかな」

「ふーん。村長は何をしに、この村に来たんですか」

「私はこの村を、町にしたいんだよ」

「もっと、おおきな目標が、あると思った」

「いいんだよ、あんまり頑張ると疲れちゃうじゃん?」

「ふーん」


 アイスを頬張るムギ。そこへヒロがやってくる。また、冷やかしてくる。

「よかったな、仕事にありつけて」

 何も言わないムギ。反論を待っているがなにも言わないため、プイッとその場を去るヒロ。

 ラルフが心配そうにムギに声をかける。

「ヒロ君はムギ君を心配しているんだ」

「心配? 見下してるだけですよ。子供の頃、僕の方が大きい態度とってたから当然ですけど。僕みたいなのが能力者で、自警団になるとか。そうしたら能力の才能があるのはヒロの方だった。そりゃ見下しますよ」


 さっと立ち上がるムギ。ラルフに頭を下げる。

「アイスごちそうさまでした」

 心配そうなラルフとペットの目線がより辛く、早足に帰るしかなかった。


 翌日、ムギはラルフに呼ばれて村長室いた。ラルフの横にはペットがいて、せっせと一緒に書類を片付けている。「精霊、オールマイティすぎるだろ」と、なんとなく思っていると、ラルフが書類を書いて印を押しムギに渡す。

「ごめんね、来てもらっちゃて、これを、おやっさんに」

「はい」


 そこへ何人もの村人が飛び込んでくる。

「村長! 大変だ! ゴマ村の自警団がデメキン様を強奪しにきた」

 ラルフは驚いて動きを止め、そして腕を組み、うつむきながら、何度も一人で頷く。

「そうかー。なるほどー。御神体指定→村が潤う→周辺の村の嫉妬を買う→自警団で牽制しあう→だが牽制するまでもなくオミソ村は自警団の人数が少ない→強奪!!!」


 また、深く、何度も、ラルフは一人で頷く。

「なるほどー」

 思わず口を挟むムギ。

「村長!納得してる場合じゃないてす」


 今度はラルフは頭を、抱える。

「読みが浅かったーーー!」

 心配になって、また口を挟むムギ。

「村長!反省してる場合じゃありません」

すくっと、ラルフが立ち上がる。

「出かけてきます。その間、ムギ君が一時仮村長です! 緊急事態です。デメキン様の死守は彼の指示を」


 今度驚くのはムギの番だ。

「え!」

 ラルフがムギの両肩に両手を置き説得する。

「大丈夫! 能力者じゃないかもしれないけど、君は自分で思ってるより大分賢い! 任せた」

 村人の一人が声を、上げる。

「出かける!? 村長さん、ムギはまだ子供だ!」


 またラルフが考え込む。

「うーん。ペットを置いていきます。ペットはボツボツの精霊です。長生きです」

 ボツボツと言われて、ペットが反論する。

「ボツボツっておい。あんなに一緒にいて俺の特徴、長生きだけかよ」

 いつも、おっとりしているラルフがパニックになっていて、心配になってくる。

「村長、焦ってるのは分かるんですけど、全然説得力が……」


 ムギがひらめく。

「みんな村長はマドレーヌ王国の王子なんだ、その王子から僕が一任された! この精霊がなによりの証拠」

 どよめく村人、一気にペットに視線があつまる。調子に乗ってなぜか、ペットが祈りを捧げるポーズをとって発光する。なんだか一応、神々しい。


 やすやすと「おおー」、という感嘆の声をあげる村人達。

「うーん、実家の名前は使いたくなかったが、さすが! 任せた!」

 走ってラルフが部屋を出ていく。ムギを見つめる村人達。

「そうか今ので仮村長になったんだった。なんか勢いで、いっちゃったかも」

 まだ発光しているペットが、横目でムギを見る。

「後戻りできないぞ」

 ムギは気まずそうに、ペットを、見返す。


 

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