夜食

 ある金曜日の晩。


 香取さんと仕事帰り。

 タコスのキッチンカーと焼き芋屋さんを、駅のロータリーで見つけた。


 香取さんはシングルマザーで頑張る一児のママだ。派遣先がよく被るので、たまにお茶したりする。


 お子さんは小学生で、お婆ちゃん家で香取さんの帰りを待っているそうだ。


 僕はタコスと焼き芋を買った。

 香取さんは買わないようだったので、僕は香取さんとお子さん達のも合わせて買った。


「香取さん、これから内職するんですよね? 良かったらお子さん達とどうぞ」

「いいよ、いいよ。そんな」

「夜中に起きて頑張ってると、お腹がくじゃないですか? 香取さんは夜食に食べて下さい」


 遠慮する香取さんの手に焼き芋の包みとタコスの袋を握らせた。

 香取さんの手はひどく冷たかった。


 僕も母子家庭だったのだ。


 僕は香取さんを見ていると、母との日々を思い出していた。


「ありがとう、夏吉くん」

「いえいえ。……あの、体に無理しないで下さいね」


 うちのお母さんみたいに倒れちゃイヤだなと思ったのだ。


「ふふふっ。ありがとう。息子が二人いるみたい」

「僕の方が年上だから、香取さんがお母さんってのは無理がありますよ?」


 香取さんは別れ際に何度も手を振ってくれた。


 僕は嬉しい気持ちで、徒歩での帰り道に空を見上げた。


 オリオン座がひときわ輝く美しい夜だった。



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